採皮された皮膚は体から切り離されてしまうため,そのままでは干からびて死んでしまう。つまり,皮膚といえども,生きていくためには栄養(=血液)が必要であり,いったん切り離された皮膚が生き延びるためにはどこかから血液が供給されなければいけないのだ。
採皮された皮膚は創面(=傷の上)に置かれるが,最初の数日は創面から分泌される浸出液に含まれる栄養分で何とか生き延びる。そして,傷の面から新しい毛細血管(=新生血管)が延びてきて移植皮膚の中に入り込むようになる。この段階までくると移植された皮膚は栄養豊富な血液を受け取ることができ,移植床(=傷口)という新天地で生きられるようになる。これが「移植皮膚が生着した」という状態だ。
以上から,移植した皮膚が生着するかどうかは次のような因子が関与していることが判る。
このうち,2番目の「移植皮膚と移植床の密着」のためには移植皮膚全体を適度な圧力で圧迫する必要があり,それが「タイオーバー」と呼ばれる手技である。ちなみに,この技法が開発されてから皮膚移植術の成功率が一挙に高まったそうである。20世紀初めの頃の話だったかな?
3番目のために行われるのがギプス固定と患部の安静だ。
4番目の血腫形成であるが,全層皮膚移植の失敗の多くの原因である。そのため,皮膚移植の前にしっかり止血しないといけないし,移植後もタイオーバーでしっかりと圧力をかけて血腫ができないようにするわけだ。
(2011/05/19)