皮膚移植すればきれいに治るのか?


 「皮膚移植をすると本当にきれいになるのですか?」という質問をよくいただくが,普通の人がいう意味での「きれい」にはならない。完璧に皮膚が生着したところで,せいぜいパッチワークにしかならないからだ。なぜパッチワークなのだろうか。

 ここで、自分の前腕を見てほしい。手のひら側(=屈側)と手の甲側(=伸側)の皮膚は同じだろうか。自分の前腕を見るとわかるが,屈側は「色が白く,毛は産毛程度,肌理が細かい」が,伸側は「屈側より色が濃く,毛は濃く,肌理が粗い」ことがわかると思う。要するに,同じ人間の前腕の皮膚といっても,屈側と伸側では全く別の皮膚なのである。

皮膚の色 皮膚の肌理
前腕屈側 白い 産毛だけ 細かい
前腕伸側 黒っぽい 剛毛 粗い


 では,前腕屈側の皮膚を伸側に移植したらどうなるだろうか。もちろん,移植皮膚の部分だけ皮膚の色も,毛の密度も,皮膚の肌理も周囲の皮膚と異なっている。つまり,そこだけ移植した皮膚だけが異質であり、要するにパッチワークである。要するに,色調も肌理も同じ皮膚は他の部位にはないのだ。逆に言えば、「右前腕屈側の皮膚」と同じ皮膚は「左前腕屈側の皮膚」しかないし,「右頬部の皮膚」と同じ皮膚は「左頬部」にしかないのである。

 ということは,「傷がついていない皮膚を傷の部位に移植する」のが植皮術である以上,同じ部位からの皮膚移植でない限り,元々ある皮膚と移植した皮膚には継ぎ目が生じ、必ずパッチワークになってしまう。だから、腹部の皮膚を手の甲に移植すると、そこだけ色が真っ黒になって毛が生えてくるし、上腕内側の皮膚を頬部に移植すると移植皮膚だけが白っぽくてちょっと変な感じになってしまう。
 要するに,手背の皮膚は手背の皮膚でしか置き換えられないし,頬部の皮膚は頬部でしか置き換えられないのだ。


 手術がどんなにうまくいってもパッチワークにしかならないのが皮膚移植術であり、これがこの治療法の限界である。

(2011/05/27)

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