では,白癬症の治療はどうしたらいいのか?


 前回提示した「白癬菌仮説」が正しいとすれば,足白癬(=水虫)の治療はどうなるだろうか。別の言い方をすれば「治療のターゲットは生物(=白癬菌)か,環境の変化(=角質の傷)か」である。もちろん私の考えでは「治療のターゲットは生物ではなく環境の変化」だ。環境が変化して優勢になった生物を全滅したとしても,環境が元に戻っていなければ「変化した環境のもっとも適応した生物」がいずれまた侵入して増殖するからだ。

 これは「草原が砂漠に変化し,サボテンしか生えなくなった」という状況を考えるとわかりやすい。もちろん,草原は傷のない皮膚,砂漠は傷ついた皮膚,サボテンが白癬菌である。この場合,「砂漠になってサボテンしか生えなくなった。サボテンを引っこ抜けば砂漠は草原に戻る」ということはない。砂漠化の原因はサボテンでなく,砂漠化の結果がサボテンだからだ。だから,砂漠でサボテンを引っこ抜いたとしても砂漠は砂漠のままで,元の草原に戻ることはあり得ないのである。そして,いくらサボテンを引っこ抜いたとしても,砂漠はサボテンしか生えられない環境だから,いずれまたサボテンが生えてくる。

 逆に,砂漠化した土地の状態や気候を元に戻せば,砂漠は自然に草原に戻り,草原に適応できないサボテンは自然に枯れてしまう。


 話を「水虫」に戻すと,私の推論が正しいとすれば,水虫治療のターゲットは「皮膚の傷」であって「白癬菌」ではないことになる。つまり,抗真菌剤の投与は根本的治療ではないような気がする。

 「角質の傷ができて,傷表面で白癬菌が異常増殖することで水虫が発症する」が正しいとして,この状態で抗真菌剤を投与したとしよう。もちろん,抗真菌剤に反応して白癬菌は死滅するかもしれない。しかし,「角質の傷」はそのままだから,いずれ時間がたてば白癬菌が傷表面に進出してコロニーを作り,水虫が再発するはずだ。これは「砂漠にサボテンしか生えていないので,サボテンを引っこ抜いたが,砂漠はそのままなのでまたサボテンが生えてきた」というのと同じだ。サボテンに生えてほしくなければ,砂漠を砂漠でなくすしかないのである。

 すなわち,白癬菌に増殖してほしくなければ,角質の傷をまず治して「白癬菌が生きられない環境」にするのが早道ではないかと思う。角質の傷はそのままで白癬菌だけは生えてほしくない,というのは無茶な願望なのである。白癬菌には白癬菌の都合があり,白癬菌は人間の都合なんて知ったこっちゃないのである。このあたりの「白癬菌の都合」を無視して「人間の都合優先の治療」をしても,治療は奏功しないような気がする(あくまでも,私の理論が正しいと仮定して・・・という話だが)。


 では,具体的な治療をどうするかだが,次のような方法が考えられる。本来なら自分で治療を試してみられればいいのだが,残念なことに私の外来を白癬症の患者さんが受診されることはほとんどないため,どの方法が最も効果的かについては現時点では不明である。

1)ガーゼにプラスモイストTOPを貼付してそれで患部を覆う。
2)プラスモイストで患部を覆う。
3)白色ワセリンを塗布する。
4)油脂性基剤の抗真菌剤軟膏を塗布する。

 常識的には 4)だろう。だが,本当に抗真菌剤が含まれていることが必要かという疑問は残る。
 個人的に最も効果があるのではないかと密かに考えているのは 1)である。「創面を乾燥させず,しかも湿潤になりすぎない」という絶妙な状態を作れそうだからだ。これを指間部に挟み込んで覆ったら治るんじゃないかなと思っている。

(2011/11/21)

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください