白癬症に関し,次のようなメールをいただきました。非常に興味深い内容なので,許可を得て引用させて頂きます。
初めまして。北海道の競走馬育成牧場で働いているものです。
競走馬では,白癬菌症がよく発生します。ヒトの「10円ハゲ」のように脱毛してカサブタになり,カサブタの下が湿った状態となって皮膚の再生と乾燥・脱落を繰り返します。脱落したカサブタのカス(フケ)が,周囲に付着すると,そこでまた同様に,脱毛とカサブタ化を繰り返し,次第に広がっていきます。 馬の白癬菌症に関するWEB資料を紹介します。
- http://www.jra.go.jp/bajikouen/pdf/health/byouki.pdf
- http://www.jra.go.jp/bajikouen/html/health.html
【JRA馬事公苑 「馬の病気と健康管理」】
「白癬症:馬の皮膚炎の多くがこの白癬症である。原因となる真菌(カビ)は健康な馬の体表や厩舎環境中に常在しているため完全な予防は困難である。内用薬の投与や酸性水などによる消毒がある程度は有効であるがヒトの水虫と同様に難治性である。重症例では脱毛を伴い細菌との混合感染が見られる。」
この症状は,鞍のあたる馬の背中,騎手の靴があたるわき腹,鞍を固定する腹帯と擦れる前足の脇,轡の当たる顔面に多発します。
現場の「治療」としては,クリアキル(陽イオン系界面活性剤消毒剤)で洗う,イソジンシャンプーで洗う,次亜塩素酸溶液(塩素系漂白剤の原液)の塗布,硫黄製剤を塗布,等の対応がされています。これらは,競走馬育成関連の教育施設や,獣医からの指導によるものです。
しかし,より強固なカサブタ化と周囲への伝染を生じるだけであり,効果があるようには思えません。
一昨年より,夏井先生のWEBサイトを拝見し,白癬菌症の患部に白色ワセリンを塗布したところ(1日2回程度),劇的に症状が改善し,2日から10日程度で,皮膚がほぼ完治することがわかりました。周囲への伝染も生じません。
馬の白癬菌症は,治療法がまるっきり誤っているから「難治性」なのであり,ワセリン塗布(湿潤治療)によって簡単に治癒するといえるようです。
白癬菌については,夏井先生のおっしゃる「仮説」のとおりと思います。傷ができることによって,菌にとっては水と酸素と養分が潤沢に得られる環境となり,そこで白癬菌が異常繁殖して病状となること。またワセリン塗布によって傷が回復し,かつ菌への酸素供給や胞子の拡散を妨げるために,菌の増殖や周囲への伝染を防止するのだと思います。
競走馬は,とにかく大変な扱いをされる生物です。厳しい調教ばかりでなく,脚に火ゴテで多数の火傷を作る治療,体中に針を刺して血まみれにし塩を擦り込む治療,足裏の傷口にホルマリン溶液(スラッシュバスター)を流し込む治療等,数多くの不思議で呪術的な「治療」が,毎日のように行われています。
これらについて,「少し違うのではないですか」という話をしても,「獣医の指導である」「専門学校で習った」「昔から皆がやっている」「預っている(高価な)馬に,勝手なことをするな」等の理由で,聞き入れられることはありません。
現場の牧場関係者の多くは,高校理科程度の科学知識もなく,順を追って説明することはほとんど不可能。馬の受難は,永遠に続きそうです。
競走馬の白癬菌症について,先生のWEBサイトで紹介していただけましたら,幸いです。より多くの人に,検証・実証していただけたらと思います。
ワセリン塗布で,1年ほどの間に,20頭ほどの馬の白癬菌症を治したと思います。短期間に治らなかった例がありません。
ワセリン塗布は,調教中に生じる外傷にも試しました。こちらは皮膚が完全に欠損するためか,白癬菌症ほどには劇的ではなく,他の人の干渉(傷にヨーチンをかける)も多かったため,効果は明確とは言えませんでした。ワセリンだけでなく,被覆材を使うことができれば良かったのですが,目立つことはできず,被覆材は試せませんでした。
消毒薬を塗布すると,馬が嫌がって(痛がって)暴れるため作業する人にとっても,かなりの危険を伴う場合があります。ワセリン塗布(湿潤治療)は,馬が暴れませんから,作業する人も安全です。特に顔面の白癬菌症にワセリンを塗っていると,馬は目を閉じ,おとなしくなってしまいます。気持ちが良いのでしょう。
牧場作業中に,このような「余計なこと」をしていると,怒られましたので,写真等の記録ができなかったのが残念です。
牛の白癬菌症の場合は,「ナナオマイシン」という,油基材にナナフロシンという抗生物質?を混ぜた軟膏が有効とされています(ネット上に論文等があります)。これも,本当に有効なのは油基材の方かもしれません。
(2011/11/16)