白癬菌についての疑問


 いわゆる「水虫」について気になったことがあり,ちょっと調べているところだが,調べれば調べるほど疑問がわいてくる。

 何よりわからないのが,「白癬菌とはどういう生物なのか」という疑問だ。医学書コーナーで皮膚科の教科書を片っ端から立ち読み・斜め読みしたが,白癬菌の病気については書いてあっても,まだ病気を起こしていない白癬菌がどうやって皮膚で生活していのか,よくわからないのだ。

 白癬菌が栄養とするのはケラチンという皮膚角質を構成するタンパク質とされている。だからこそ白癬菌は皮膚を住処にしているのだろう。だが,栄養分だけあれば生きられるかというとそうではないはずだ。真菌である以上,栄養分以外に水と酸素が必要なはずだ。酸素問題はひとまず忘れ,水について考えてみる。


 皮膚表面(=角質)は水分が乏しい環境であり,白癬菌の生存最適な水分量ではないのではないかと思われる。白癬菌が皮膚常在菌の優勢種になっていないからだ。一方,「梅雨どきに靴を履き続けてジメジメになった足趾の間に水虫ができる」というのは定説だが,もしかしたらこれは,白癬菌が増殖するためにはそのくらいのジメジメ状態が最適,ということではないだろうか。

 となると,白癬菌はケラチンのある場所を離れるわけにいかないので,水分の乏しさに我慢して皮膚にしがみついているだけ・・・という可能性が出てくる。つまり,なまじケラチンを栄養源にしてしまったために,いつ来るともしれない「皮膚がジメジメになる日」を心待ちにしながら,不便な生活を我慢するしかなくなった,というシナリオである。

 さらに,真菌は基本的に酸素呼吸をする好気性生物である。角質表面と角質内部を比べると,酸素濃度が高いのは角質表面である。つまり,酸素に着目すると角質表面の方が白癬菌の生存環境としては有利,という可能性が高い。

 一方のケラチンだが,数学的・物理学的に考えれば角質表面よりは角質内部の方がケラチンが豊富なはずだ。


 となると,白癬菌の生存に最適な酸素分圧がどのくらいかは不明だが,「好物のケラチンは食べたいが,食べに行こうとすると酸素が足りなくなる」というジレンマに苦しんでいるという可能性はあると思う。
 変な例えだが,「生きていくのに必要な食べ物は海の底にしかなく,それを採りに行くには海に素潜りするしかない。しかし,素潜りで潜れる深さには限界があり,潜れるところには食べ物は乏しい」みたいな状態ではないかと想像してしまうのだ。

 このように考えると,酸素,ケラチン,水が同時に豊富に得られる「白癬菌にとってのエデンの園」はどこにあるのかという命題にぶつかってしまう。

(2011/10/31)

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