【日本の読者が気づかない『聖☆おにいさん』の謎】
 「様々な成人や天使,神様が登場するこの漫画になぜムハマンドは登場しないのか」という疑問を推理しています。なるほど,これは気が付かなかったです。

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 『眠りにつく太陽』(桜井邦朋,祥伝社新書)を読了。50年間,太陽物理学の第一線で研究してこられた先生の本で,「2000年以降,地球が温暖化しているというデータは存在しない」,「CO2増加が温暖化の原因というのはおかしい(同じ温暖化ガスである水蒸気のほうがCO2より圧倒的に多い)」,「気候変動の主因は太陽活動の変化である」ということを膨大なデータで証明しています。ちなみに,以前紹介した『“不機嫌な”太陽』の監修もされていて,本書でもスベンスマルクの説が紹介されています。読んで損はない良書ですね。

 ただ,『“不機嫌な”太陽』と比較して読むと,太陽系レベルで気候変動の説明しようとする本書と,銀河系全体の構造まで視野に入れて地球の気候変動を語るスベンスマルクとでは,やはりスベンスマルクの方が圧倒的に面白いのも事実です。ただ,スベンスマルクの説をすべて理解するには,銀河系の構造と銀河系での太陽の動き,素粒子物理(の初歩),さらに気象学から地球46億年の歴史についての知識が必要となり,ちょっと難解ですが,その点,本書は分かりやすさ・理解しやすさという点では優っているかもしれません。

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 以前からメールのやりとりをしている心臓外科の先生からのメールです。
 理系の子―高校生科学オリンピックの青春:この本は本当に面白いです。読み返しても、何度も感動します。

 大村智 - 2億人を病魔から守った化学者:微生物が産生する有用な化学物質の発見者であり、ノーベル賞に最も近い研究者の一人。山梨大学を出て夜間高校の教諭から始まる数奇な人生を描く本です。オンコセルカ症に苦しむ2億人を、大村さんが見つけた抗生物質で救った科学者。。因みにこの抗生物質は1年に一回の投与で効くのだそうです。一年に一回とは。
 こんな人がいるなんて知りませんでした。とても面白かったです。山中先生は凄いですが、まだ、誰も救っていません。しかし、大村先生が創薬した薬はすでに2億人を救い、他に彼が見つけた物質は、色々な研究に役立ち、その中にはすでにノーベル賞をもらった研究があります。この方の生涯を知るだけで読む価値があります。読んでいて、わらしべ長者の様な話しでした。面白かったです。良ければ読んで下さい。

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 コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だったというとても地味なタイトルの本を読んでいますが,これがすごく面白いです。コンテナという「箱」に詰めてモノを運ぶというシステムがなぜ世界を変えてしまったのかがよくわかる好著です。
 コンテナが変えたのは「運送費という非関税障壁」でした。しかし,コンテナを効率的に運ぶシステムが完成した時,運送費はタダ同然になり,国内輸送も地球の裏側にある国に届けるのも,運搬の費用はほとんど変わらなくなりました。その結果,先進国から工場が次々に消え,工業団地が消え,中国が「世界の工場」となったわけですが,昨年あたりからその中国からも工場が逃げ出して,更に人件費の安い国に移動しています。コンテナ革命により,サプライチェーンが伸びるリスクより,人件費を払うリスクのほうが大きくなったからです。そして,コンテナ革命が行き着く先に待っている世界の姿は明快です。均質な世界です。

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 昨日,光文社の担当者から6冊の新刊が送られてきたと書きましたが,その中の一冊,イラン人は面白すぎる! (光文社新書)はムチャクチャ面白いです。あっという間に読了してしまいました。
 著者のサラミさんはイラン生まれで,10歳に時に父親の仕事で日本に渡り,現在は吉本所属の漫才コンビ「デスペラード」のツッコミとして活躍中,という異色の経歴の持ち主。ネタなんだか現実の出来事なんだかよくわからない知識を次々と披露して笑いを取りながら,いつの間にか「イラン人の真実の姿とイランの現実」を浮き彫りにしていきます。「シーア派とスンニ派の違い」の説明は凡百のイスラム教解説書を読むよりはるかにわかりやすく,そして明快です。

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 さて,この週末の移動の車中で読む本を東京駅で物色中,見つけたのが『深海生物の謎 彼らはいかにして闇の世界で生きることを決めたのか』 (サイエンス・アイ新書 32) 。これが結構面白いです。
 私の生物観,生命観を根本から揺るがし,生命の多様性を教えてくれたのはチューブワームという生物でした。太陽が輝きをとめても,まだなお生きていけるこの生物は,やがて私を「微生物との共生」という概念に導いてくれました。それが下記の2冊です。今回の『深海生物の謎』からは硫黄バクテリアとの共生だけでなく,もっと柔軟で多彩な共生関係を持っている生物がいることを教えてもらいました。
 また本書は,見開きの左ページに文章,右にきれいなカラー写真が配置されていて,写真を見ているだけでも楽しめるはずです。是非,書店で手に取って見て下さい。

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この連休前に買ってパラパラ読み進めているのが,『ジャズと言えばピアノトリオ』 (光文社新書)。私のように「なんとなくジャズを聴き始めたんだけど,体系的な知識がない。どのピアノトリオがどんな演奏をしているかがわからず,次に何を聴いたらいいのかわからない」という素人に毛が生えた程度のファンを対象に書かれた本です。情報量は膨大ですが,網羅的にピアニストを取り上げるのでなく,筆者が「他はどうでもいいけど,これだけは聴いてほしい」というアルバムを重点的に取り上げている点がいいです。
 ただ,唯一の注文点・問題点は,ピアニストの名前の英語表記がなく,カタカナ表記しかないことで,ネットでアルバムを視聴しようとしてもいちいち英語表記を検索する必要があり,これはちょっと面倒。巻末の一覧表にピアニストの名前の英語表記を併記して欲しかったです。

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 以前,ちょっと書いた『化石から生命の謎を解く 恐竜から分子まで』 (朝日選書)についてショート・レビュー。
 これは複数の古生物研究者が,化石関連のそれぞれの専門分野について書いたものをまとめた本ですが,この手の本の常として各章ごとのばらつきが大きく,統一感に欠けています。また,書き手によってあまりにマニアックだったり逆にあっさりし過ぎたりするため,本書のすべての話題について興味を持って読み進めることができる読者はあまりいないような気がします。
 ただ,「第15章 恐竜の絶滅」だけはダントツの面白さです。この章が読めただけで本書を買った価値がありました。

 ご存知のように恐竜は6400万年前に突然絶滅しました。原因は恐らく巨大隕石の衝突とその後の寒冷化が原因と考えられています。しかし一方で,恐竜の近縁爬虫類であるワニは絶滅せずに現在まで生き残っているし,カメ類も大型の陸生種が2種類が絶滅しただけです。そしてもちろん,哺乳類も生き延びました。また,恐竜(特に獣脚竜)は鳥類同様に温血動物と考えられているため,「隕石衝突後の寒冷化ですべての恐竜が絶滅した」とするのもちょっと無理がありそうです。
 そこで本書の第15章です。ネタばれしないように書くと,昼行性動物と夜行性動物の〇〇代謝の違い,ワニと恐竜の歩行様式の違いから推論できる〇〇代謝の違い,新世界サルと旧世界サルの〇〇代謝の違い・・・というように,たった一つの代謝系の違いが絶滅恐竜と非絶滅爬虫類の運命を分けた,と説明しています。説明は実に明晰ですし,恐竜が短期間に絶滅した理由もこれならわかりますし,何より説得力に富んでいます。

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 先日,ちょっと紹介した『専門医が教える がんで死なない生き方 (光文社新書)』という新書ですが,プロローグに「野菜嫌いの人の発がんリスクは100ミリシーベルト程度の被曝に相当。受動喫煙も100ミリシーベルト近いリスク。肥満や運動不足は200〜500ミリシーベルトの被曝に相当。毎日3合以上の飲酒は2000ミリシーベルトの被曝に相当」とありましたが,第4章に「原発事故の放射線 Q & A」というコラムが「医学から見た原発事故による放射線のリスク」について非常に正確かつ簡潔にまとめられていて,とても参考になります。
 「結局,今回の事故で放出された放射能の人体への影響は大きいの?」,「危険な地域があるのでは?」,「ホットスポットって何?」,「子供が外で遊んで大丈夫? 屋外プールは? 雨に濡れても平気?」,「広島,長崎に投下された原爆被害とどう違うの?」,「肉,野菜,魚は食べても大丈夫?」,「被曝予防法,放射線被害に効く食べ物は?」といった疑問に科学的に明確に回答していて,内容も極めて妥当なものです。

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『「銅メダル英語」をめざせ! 発想を変えれば今すぐ話せ』る (光文社新書)
 「日経ビジネスオンライン」で大人気だった連載の文庫化。この連載,私も毎回読んでいましたが,本当に素晴らしい記事でした。
 「英語が嫌いなのに仕事で必要に迫られている人」,「英語を勉強したのに上達しないと悩んでいる人」,「苦しい勉強は嫌いで,短時間で楽に通じる英語が話せたらいいなと考えている人」におすすめの本です,というキャッチコピーがナイス!
 「実際の会話では疑問文なんて使ってないし,疑問文にしなくても語尾を上げるだけで疑問であることは伝わる」というあたりには納得!
 著者は「中学校以来,一番の苦手教科が英語で,英語の授業が来るたびに憂鬱」だったそうです。その後,仕事をするうえで英語で会話が必要になったけど,大人になっても嫌いな物は嫌いだったとか。
 ちなみに,私は英語は全くダメで,中学生程度の英単語しか知らないし英文法の知識は忘却の彼方ですが,英語しか話せない相手と10分くらいなら英語で会話できますし,治療についても英語で何とか説明もできます。デタラメ英語でもコミュニケーションはとれるんですね

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 『鬼灯の冷徹』,買っちゃいました。「モーニング」に初登場した時から全て読んでいるので買うかどうか迷いましたが,やはりまとめて読むと面白さは別格です。
 こんなぶっ飛んだ発想のギャグマンガが,なぜ新人漫画家に書けたんだろうかとずっと不思議に思っていましたが,第1巻を読んで疑問氷解!

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【どうすればプロ級の演奏家になれる? 絶対音感の正体とは?】
 もう一つ,「ダイアモンド」の記事。これも面白いです。「いかなる分野でもプロになるには1万時間の訓練が必要だ。7歳のときに始めると18歳のときまでには1万時間を訓練に費やすことができるが、35歳で始めると、1万時間の訓練を受けていたら70歳になってしまう」という部分に納得!
 私は7歳の時にピアノを始めてすぐに夢中になり,ほぼ毎日,2〜3時間ピアノを弾いていました。ということは,年間で1000時間弱ピアノを弾いていたでしょうから,20歳ころには通算1万時間になります。確かにあの頃,ショパンの「エチュード」やラヴェルの「夜のガスパール」をバリバリ弾いていましたが,1万時間も練習したらそのくらい弾けて当然ということだったわけですね。
 この人の書いた『響きの科楽』も面白そう。読んでみようかな。

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 近くの本屋さんでたまたま見つけて買ってみたのが地図だけが知っている日本100年の変貌です。2009年に出版された本ですが,これが結構拾い物。全国47都道府県でそれぞれ1つの地域に着目し,そこがどのように変化してきたかを地図で示しているのですが,とても面白いです。明治神宮が畑のどまんなかにいきなり作られた様子,京都の伏見の南にあった巨大な池が忽然と姿を消した様子,市町村合併によらず15年で4倍の面積を獲得した浦安の様子など,どこを開いても話題満載。何より,昔の地図と現在の地図の表示位置と縮尺をしっかり揃えてあるので,変化は一目瞭然です。ちなみに茨城県で取り上げられていたは「畑に忽然と出現した未来都市」の変遷でした。「ブラタモリ」が好きな人には絶対オススメ!

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 めしばな刑事タチバナ 2 (トクマコミックス)発売! いやぁ,こちらも第1巻に負けず劣らず,むちゃくちゃ面白いです。
 テレビコマーシャルすらしていないのに,袋入り生焼きそばで35年以上にわたってトップセラー商品である「マルちゃん焼きそば3袋パック」の秘密とか,牛丼三国志(「魏」の吉野家,「呉」のすき家,「蜀」の松屋)にみる興亡の歴史とか,あまりにディープで詳細・精緻なデータ分析には感動を覚えます。この漫画,スゴすぎます。
 それにしても,「はなまるうどん」,たい焼きの「一口茶屋」,回転寿司の「海鮮三崎港」の共通点なんて,全然気が付かなかったよ。

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 『とりぱん』(11) (ワイドKCモーニング)が発売になりました。あの「3.11」の様子も収録されています。皆が必死になって日常を取り戻そうとそれぞれの役目を果たしていく様子を見て,とりのなん子さんがケント紙の束を取り出し,「私たちの強さ弱さとは関係なく 世界はいつでも美しいということを 描いていこう それが私の役割だ」と漫画を描きはじめるシーンはちょっとジーンときます。
 ついでに,同じ作者の『とりぱん大図鑑』 (ワイドKC)も発売開始。こっちも買おうかな?

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海に暮らす無脊椎動物のふしぎ】(中野理枝,サイエンス・アイ新書)
 本書冒頭の著者の自己紹介を読んで即購入しました。著者は私よりちょっと年下の方で,「1983年早稲田大学卒業後,広告代理店に就職。ダイビング・ライセンス取得後,1989年にフリーランスライターに。その後ウミウシの魅力に開眼し,ウミウシの本の編纂に携わる。しかし,調べれば調べるほどわからないことが増えるばかりで,アマチュアの限界を感じた」・・・と,ここまではよくあるパターンです。しかしここから先がすごい。
 「2007年,48歳の時に琉球大学大学院に進学。進学後に数編の論文を発表し,2011年に本書を上梓」というのですよ。アマチュアの限界を感じたからもっと勉強するために大学院に入り直したんですよ,この人は。しかも48歳! これは読まずばなるまい!

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 『「富士見]の謎――一番遠くから富士山が見えるのはどこか?』(祥伝社新書239)という本,面白そうなんで買っちゃいました。[現代版@富嶽三十六景]ともいうべき本です。
 富士山の見える北限,南限などの話題に始まり,東京23区内で見える富士山の様子を取り上げ,北斎の[富嶽三十六景]を検証して[樽屋富士]は実は富士山でなく南アルプスの聖岳であることを検証し,さらには様々な鉄道(東海道新幹線,東北新幹線,ゆりかもめ,多摩モノレールなど)での富士山が見えるポイントなど,マニアックな話題が満載です。通勤や出張のお供にいい本かもしれません。
 個人的には,中央本線の[特急あずさ]から見える富士山も取り上げて欲しかったです。松本から新宿に向かう途中で数分間,車窓の左側に見えるところがあって,それがきれいなんですよ。

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 恐らく,今一番面白い食べ物漫画が『めしばな刑事タチバナ』です。立花刑事がいろいろなB級の食べ物についての薀蓄を熱い思いと共に語りまくる漫画ですが,「名代富士そば」のカレーかつ丼の奇跡的ウマさを語る冒頭の一編に始まり,サッポロ一番の味噌ラーメン派と塩ラーメン派の原理主義的抗争の歴史とか,両者に割って入る「しょうゆ味ならチャルメラだろ」派との熱い論争とか,日本そばの歴史から見た「梅もと」と「小諸そば」と「吉そば」などの「立ち食いそばチェーン系列」の立ち位置の違いとか,どれもこれも本当に面白く,そして美味そうです。これを読むとすぐに立ち食いそばや袋入りラーメンが食べたくなること必定! しかも,「ゆで太郎」のもりそば大盛りのテイクアウトを肴に自宅で「酔鯨大吟醸」を飲むなんていう大技(小技?),すぐにでもやってみたいです。

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 泉昌之さんの漫画って好きですか? 私はあの大傑作『かっこいいスキヤキ』で大ファンになり,それ以後,彼の作品を見るとつい読んでしまいます。今回手に取ったのは『食の軍師』です。いやぁ,最高にくだらなくて最高に面白いです。いつもながら,食べ物へのこだわり方が半端じゃありません。軍師がいい味出してます。

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 三輪書店の担当編集者から一冊の新刊書が送られてきました。皮膚運動学―機能と治療の考え方です。これまで運動器というと筋肉,骨,関節,腱,神経だけを考えてきましたが,皮膚の要素も無視すべきではなく,むしろ皮膚による運動障害,機能障害も大きいのだということを,豊富な臨床例を上げて説明し,併せてその治療法を提案している面白い本です。恐らく,他に類書が全くない本ではないかと思います。

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 そういえば,テルマエ・ロマエ III (ビームコミックス)が出ていましたね。そろそろネタ切れじゃないかな,と心配していましたが,全くの杞憂でした。それどころか,ますます快調に飛ばしているローマ風呂漫画! 今までは古代ローマの風呂作り技師のルシウスが日本の風呂文化に圧倒されっぱなしでしたが,この第3巻ではついに,ローマの風呂文化が日本の風呂文化に影響を与えるシーンが登場!
 そしてどうやら,映画化が決定したみたいです。主演は阿部寛と上戸彩。たしかに阿部寛さんはそのままでルシウス顔ですね。

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 先日から読んでいるのが『「余剰次元」と逆二乗則の破れ』 (ブルーバックス)という本です。基本的に,スーパーストリング理論に基づいた量子重力の問題を解説した本です。この本では,「万有引力の法則はどの程度の制度で実験的に確認されているのか?」という問題を追求し,逆二乗則(=距離の二乗に反比例する)が破綻しているのはこの世が3次元ではないからだ,と結論づけています。ちなみに,万有引力の法則もクーロンの法則も逆二乗則ですが,これは「電磁気力も引力も(・・・そして強い相互作用も弱い相互作用も)場の力線密度で決まり,力線密度は球の表面積(=4πr2)に比例するから」とクリアに説明できます。
 と,ここまではいいのですが,素人はこういう時,「球の表面積が4πr2というのは空間が平坦な場合だからであり,空間が平坦でなければ球の表面積は4πr2にならはずだ。そうなると当然,逆二乗則も成立しなくなるのではないか。逆二乗則が成立するから3次元,逆三乗則が成り立てば4次元,逆四乗則なら5次元・・・という前提自体を疑うべきではないだろうか?」なんて思っちゃうのですが,まぁ多分,素人の妄想と思われます。

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 『生態系は誰のため?』 (ちくまプリマー新書)を読了。湖という準閉鎖水界における魚食魚,小魚,大型動物プランクトン,小型動物プランクトン,植物プランクトン,浮葉植物,沈水植物の変化を例に,環境の変化により生態系が柔軟に変化していくさまを見事に描いています。

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いつもの生物学の先生から「この本,読みましたか? すごいですよ。津波とはどういうものか,どんな自然災害かをこれほど迫真的に説明している本は読んだことがありません。何より,必ず起こると断言しているところがすごいです。これぞ,プロの仕事です」と教えていただいたのが『津波災害――減災社会を築く』 (岩波新書)。出版されたのは昨年12月で,あたかも数ヵ月後の未曾有の大津波を予想していたかのようなタイミングで出版されています。恐るべし! (4/1)

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 週刊とりあたまニュース 最強コンビ結成!編(西原理恵子/佐藤優,新潮社)の面白さは無類です。「犯罪者と脱税者」という二人に事前の打ち合わせなしに一つの「お題」を出し,一人は文章を書き,一人は漫画を書く,という週刊新潮の企画です。そのお題は,例えばオバマ大統領だったり裁判員制度だったりエコポイントだったりと多彩ですが,佐藤さんが持ち前の情報収集能力を駆使して分かりやすく説明するのに対し,サイバラは「オイオイ,ここでそれを持ち出すかよ」というぶっ飛びネタをぶつけてきます。このあたりは,サイバラとコウタリの伝説的コラボ『恨ミシュラン』を彷彿とさせるものです。それにしても,「金正男」で新宿二丁目ネタをぶつけてくるサイバラはすごい。(2/17)

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 今読んでいるのが,『本当は謎がない「古代史」 』(ソフトバンク新書)
 例えば古代の資料についての筆者の姿勢は,「日本書紀・古事記は政治的歪曲があるから歴史資料として扱うべきでない,という考えがある。それを言うなら世界中の史書は似たりよったりだ。それなのに,中国や朝鮮の史書については全面的に記述を信用するというから不思議だ」というように単純明快で極めて論理的です。
 ちなみに,読む人を想定して書かれた公式文書(例:魏志倭人伝)は資料的価値が低いです。読む人に阿って書かれた可能性が高いからです。逆に資料的価値が高いのは,家計簿,出納帳,借金の証文などです。読まれることを想定せずに書かれたからです。

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 そういえば,『聖☆おにいさん(6) 』(モーニングKC)が出ていましたね。まだ途中までしか読んでいませんが,今回もとても面白いです。特に,"No Music, No Life" は秀逸! カート・コバーンやジミー・ヘンドリックスは弁才天が自分のバンドのために「下界からスカウト」したとか,イエスが「おふくろさん」を歌うと「アヴェ・マリア」になるとか,ブッダがカラオケボックスで般若心経を歌うとか,わかる人にはわかるギャグが満載。

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 先日,ちょっと取り上げた『日本の鉄道 乗り換え・乗り継ぎの達人』 (光文社新書)を読了。乗り換えと乗り継ぎについて詳細に分類・分析していく「鉄オタによる鉄オタのための」本でして,私のようにJRは利用するがオタではない人間には読み通すのはちょっと辛かったですが,鉄オタにとってはたまらないものがある本なのだろうな,という感じです。
 ただ,最後の80ページに及ぶ「指宿から稚内までの乗り継ぎの旅紀行」は面白かったです。つまり,九州最南端の薩摩半島の指宿駅を出発し,特急「きりしま」⇒特急「にちりん」⇒寝台特急「富士」⇒寝台特急「北斗星」⇒特急「サロベツ」と乗り継いで稚内まで行こうという,壮大というか遠大というか酔狂な旅です。何しろ,指宿を朝7時半に出発し,寝台特急「富士」が東京駅に到着するのは翌日の朝10時30分。そして,同日の夕方19時に「北斗星」が出発して,稚内に「サロベツ」が到着するのは翌日の18時過ぎなんですよ。
 その様子を読んでいるだけでのんびりと旅をしている気分になるし,通過する駅や街についての薀蓄が満載でそれだけ読んでいても得をした気になりました。

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 『予防接種は「効く」のか? ワクチン嫌いを考える』 (光文社新書)を読了。岩田健太郎先生の最新作である。「医者で物書き」は結構多いが,その多くは「医学をネタにした小説家・エッセイスト」であり,「様々な医学の問題を一般向けに分かりやすく書き,なおかつ,プロの目から見ても内容が妥当」な本を書ける人は実は少なく,岩田先生はその数少ない一人である。その彼の一般向けの本がこれ。内容は分かりやすく,資料も豊富であり,まさに「医者が読んでも納得」のものとなっている。引用されているデーは膨大だし,様々な問題の本質を的確にえぐり出し,その本質に迫る様子はいつもの「岩田節」健在である。
 いつもなら,読んだ本についてレビューを書くところなのだが,この本についてはどうしようか迷っている。本としての内容は非の打ち所が無いのだが,医者として読むと特に新しい知見が得られなかったからだ。書かれている内容は妥当であるが医者にとってはいわば周知の事実である。もちろん,本の書き手がどういう読み手を想定しているか,というだけの問題なのだが・・・。
 最後の方の「ホメオパシーおバカさん(・・・という下品な書き方は岩田先生はしていません)」の書いた本について一刀両断する文章は切れ味鋭くて面白いのだが,どうせなら,「バカは死ぬまで治らない」くらいの情け容赦ない書き方をしても良かったような気がするし(これはあくまでも私の好みですけどね),私なら絶対にそう書いたと思う。おバカさんに気を使っても意味がないからだ。もちろん,岩田先生は読み手に不快感を与えないようにという配慮なさっているのだろうと思うし,書き手の戦略の違いに過ぎないんだけどね。

 ちなみにこの本の第3章冒頭にあるデータに対し,私ならその次にどういう文章を書き,論を展開するだろうか?
現在,日本人の死亡原因としてもっとも多いのががんです。ついで心血管性疾患,ついで脳血管障害と続きます。(中略)実は,がんの最大の原因は,タバコでもなければお酒でもありません。最大の原因は加齢,つまり年を取ることなのです。
 もしも私がこの文章に続けるとしたら,「日本ではがん撲滅が叫ばれているし,癌が撲滅されたら心血管疾患をなくしましょうという運動が起こるだろうし,その次は脳血管障害撲滅となるのだろう。では,老人は何で死んだらいいのだろうか? がんでは死ぬな,心血管疾患でも死ぬな,脳血管障害でも死なないようにしよう,というのが日本の医療の方向だとしたら,日本の老人はどうやって死んだらいいのだろうか? がんでも心血管疾患でも脳血管障害でもない病気なら死んでいいのだろうか? そもそも死因はそんなに重要な問題なのだろうか?」という風に続けるだろうな。このあたりは単に観点の違いである。
 確か,本書の中で岩田先生は「高齢者にインフルエンザワクチンを投与するのは意味がある」という過去のデータを紹介し,その結果に対し否定も疑義も提示されていないが(172ページ),これも見方によっては「高齢者はインフルエンザで死んではいけない」ということになってしまうはずだ。何しろ,日本は高齢者施設で80代,90代の人がインフルエンザで死亡するとマスコミでニュースになる国である。高齢者がインフルエンザで死亡するなんて許されない,という国になりつつあるのだ。がんでも死ぬな,心血管疾患でも死ぬな,インフルエンザでも死ぬな,という方向性はほんとうに正しいのか,なんてあたりも岩田先生に取り上げて欲しかった気がする。

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 『パラドクスだらけの生命 DNA分子から人間社会まで』を読んでいます。とは言っても,まとまった読書のための時間を取るのが難しいため,寝る前に10分,朝早起きして10分,という感じですこしずつ読み進めています。やはり面白いです。
 そのなかで,ミツバチの針についての面白い命題がありました。ご存知のようにミツバチの針にはギザギザした「返し」があって一度刺すと抜けません(つまり,釣り針と同じ構造)。しかもこの針は毒腺に繋がっていて毒腺の一部は消化管と強固に繋がっているようです。そのため,敵を刺したミツバチは針が抜けないため,無理に抜こうとすると毒腺と消化管の一部がくっついて抜けてしまい,ハチ本人は死んでしまいます。この「毒針の返し」に意味があるのか,と本書は問うています。
 相手を攻撃するためなら,むしろ「返し」をなくして何度でも刺せるようにした方がはるかに相手に与えるダメージが大きいはずです。実際,スズメバチの針には「返し」がなく,何度刺してもハチ本人にはダメージはありません。つまり,ミツバチ本人自身にとって「毒針の返し」にメリットはありません。
 また,たとえ「返し」があって毒腺も一緒に抜ける構造だとしても,それと消化管の結合を弱くして,消化管が犠牲にならないようにすればハチ本人は死ぬことはなく,刺した後も働き蜂として普通に働けるはずです。つまり,蜂の巣全体としてみても「毒針の返し」があることはメリットになっていない感じがします。
 では,「毒針の返し」とは何なのか,その意味はあるのか,なぜミツバチは「返し」がない方向に進化しないのでしょうか。非常に面白い命題です。

 また,幾つもの印象的な文章がありましたが,「民主主義は民主主義を否定する考えを否定も排除もできない」というのがありました。
 少数意見を尊重するという民主主義の原則(・・・タテマエとも言うが)がある限り,民主主義なんてやめて独裁政治にすべきだ,という考えは否定できないわけです。つまり,究極の選択として「民主主義が否定されても,民主主義の考えを貫かなければ民主主義とは言えない」という奇妙な矛盾が生じるわけです。実際,これにより,ナチス政党が「民主主義的に」選ばれたわけです。
 本書では何度「コインの表と裏は全く別物のようだが,本質的に分離できない一体のものだ」という文章が出てきますが,それより科学的に正確な喩えは,「磁石のS極とN極は分離できない。磁石をどんなに小さく分割しても,S極だけの磁石にはならない。S極とN極は正反対だが分けられず,一体のものと言える」ではないかと思います。

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 山科けいすけの漫画3冊,戦国時代漫画の『SENGOKU』と幕末漫画『サカモト』です。いずれも史実には全く基づいていないギャグマンガのため,歴史の勉強には全くなりませんが,山科さんの『C級サラリーマン講座』が好きな人には楽しめると思います。
 とりわけ『サカモト』は登場する人間(=幕末のオールスターが総登場)の性格設定はメチャクチャで行動も思想もメチャクチャなのに,なぜか歴史が史実通りに流れていくという離れ業を見せます。たとえば,それまで薩摩一辺倒だった龍馬は,西郷どんが倒幕後に「日本全体をサツマイモ畑にし,日本一のお山を富士山から桜島にする」という計画を聞き,薩長連合を考えるようになった,なんてあたりは大笑い。

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 今回の移動で読んだのが数学は最善世界の夢を見るか?――最小作用の原理から最適化理論へ(イーヴァル・エクランド,みすず書房)。これは面白かったです。ガリレオの振り子の実験,そして光の反射と屈折の問題から浮き上がる「この世は最短距離を選ぶのではないか」という考えが浮かび,やがてフェルマーとデカルトの論争を経て光の性質が明らかになり,それはモーペルテュイの最小作用の原理に結実し,原題の数学者のポントリヤーギンの最適化理論に進化・深化します。形而上学的な哲学論争を経て「神なき世」での「最禅とは何か,全ての人間にとって善であるという状態は存在するのか」という問いかけに到達する400年の知の格闘の歴史は息を飲むほどスリリングです。
 最初の方にある「オッカムの剃刀」,つまり,余分なものは削ぎ落とせ,という考えですが,これは科学の本質なんですね。要するに,理解できない現象があったからといって安易に新たな法則を導入するな,新たな概念を導入するな,既存の概念(法則)をからその「理解できない現象」を説明せよ,というものなんですが,恐らく今の医学に欠けているのはこの「オッカムの剃刀」なのです。安易に導入された概念がろくに検証もされずにいつの間にか「自明の真理」扱いされるのが医学の一面です。

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 内田春菊さんの漫画私たちは繁殖している 10の150ページから湿潤治療が紹介されています。漫画家・エッセイストの南伸坊さんから『傷はぜったい消毒するな』を紹介されて湿潤治療を知られたようです。

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 読みたい本,読まなければいけない本が沢山あって「積ん読(つんどく)」状態です。美容外科学会の講演までの待ち時間に読み始めたのが宇宙の未解明問題(リチャード・ハモンド,講談社ブルーバックス)です。現時点で未解決の宇宙物理,量子物理学,量子重力の問題を解説した本で,内容的には特に目新しい感じはありませんが,要所要所で「質問」があり,いずれも,ものごとの本質を理解していないと答えられない面白い問題が挙げられています。
 例えば,最初の章にはこんな問題が載っています。
ガラス管に水素を満たし,そこに電流を通すと中の気体は鈍い光を放つ。この水素の光をプリズムに通してみたら何が起こるか?
  1. 何も起こらない
  2. 光は屈折して青く見える
  3. 光は分裂して虹色に分かれる
  4. 四つの異なる色に分かれる
 さて,正解は何番でしょうか? 実はこれが,宇宙の膨張を証明するのに重要なんですね。
 あるいは「なぜ土星の環は巨大な座金のように一個の個体でなく,何十億もの粒子からできているのか?」なんて問題も基本がわかっていなければ答えられません。答えは本書の40ページです。

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 沖縄への往復の飛行機の機中で読んだのが世界の野菜を旅する (玉村豊男,講談社現代新書)。様々な野菜の原産地はどこで,どのような経緯で他の地域に運ばれ,その地でどのように定着し,品種改良がなされ,どのような料理が生み出されていったのかを詳しく説明した面白い本です。扱われている野菜は,キャベツ,ジャガイモ,トウモロコシ,ピーマン,コショウ,トウガラシ,ナス,キュウリ,ニンジン,サトイモ,ヤマイモ,ダイコン,ハクサイ,テンサイ(甜菜)などです。これらについて,著者の旅の思い出と旅先で食べた料理の記憶をからめ,人間の生存の基本である「食」の問題を根源から問い直す良書です。
 玉村さんはもともと文章が非常にうまい人だし,料理についての描写もうまいですが,彼の最初期の著書の完成度の高さに比べると,やや冗長な部分があることも事実でしょう。その意味で,彼の最高傑作は処女作(と思われる)料理の四面体 (中公文庫)』だと断言します。この本は本当に凄かったです。サラダとは何かという定義を突き詰めていって最後に「刺身はサラダである」と言い切り,「焼く」とはどういうことなのかを突き詰めて「日干しと焼き魚は同じだ」と看破しています。今から30年ほど前に出版された本だったと思いますが,私が影響を受けた本の一冊です。

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 今月もまた光文社の担当編集者から「今月発売の光文社新書」が送られてきましたので,ちょっと紹介。

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 以前から大好きな漫画家,グレゴリ青山さんの漫画をamazonで衝動買い。やっぱ面白いわ,この人。ちなみに,グレゴリ青山さんの漫画はここで立ち読みできます

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 最近相次いで,湿潤治療を取り上げた漫画単行本が発行されました。

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 『村上たかしのほんまかいな見聞録 』。この漫画,マジ面白いです。「大阪に生まれて育って42年なのに,なぜか大阪になじめていない」村上たかしさんが身内や周囲の人間を例に出してコテコテの大阪ワールドを紹介しているんですが,これが面白いのなんのって。
 父親の葬式で業者を前に値切り交渉をし「とっとと ええ値出してくれんと腐ってまうで」という娘(=村上さんの叔母)とか,遠足でおやつは300円と言われて「値切りはあり?」と先生に聞き返す小学生とか,おしゃべり四姉妹が並んで恵方巻き(食べ終わるまで喋ってはいけないのがルールね)を食べ,「苦しい,苦しい」「しゃべらへんのはきっついでぇ〜」「口が腐るかと思ったわ」。あんたら,そこにツッコミを入れるんか!
 ご存じの方もいらっしゃると思いますが,村上さんの漫画家人生は「山あり谷あり」でなく,「谷あり谷あり,忘れたことに山あり」です。1986年のナマケモノが見てた 1(私,この作品が大好き!)でそこそこヒットを飛ばしたものの,その後10年は鳴かず飛ばず。2000年から連載が始まったぱじ―Momo‐chan’s grandfather“Paji” (1) で文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞したものの,その後はまたも鳴かず飛ばず。そして2009年に発表した星守る犬でちょっと有名になり・・・という感じです。ちなみに,星守る犬は読んだ人の95%が「涙が溢れてくる感動作」として評価している名作。

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 『肖像画で読み解く イギリス王室の物語』を読んでみました。あとがきに『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』(中野京子)に触発されたと明記されています。威厳に満ちた王もいれば,どう見ても病弱で先行き不安になるような王様もいます。若くて美貌の女王もいれば,疲れ切った女王様もいます。そして,彼らの表情を通してイギリス王朝の歴史が生き生きと語られる好著です。何より,イギリスの歴史年表と時代ごとのイギリスとヨーロッパの地図がきちんと掲載されているのが素晴らしいです。こういう歴史関係の本を読んでいると,地図帳が欲しくなるんですよね。

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 質量はどのように生まれるのか (ブルーバックス)を読んでみました。
 これまで何冊も読んでいる量子物理学,素粒子物理学の本で,特に「質量」の起源に焦点をあててその本質に迫っています。同種の本はたくさんありますが,その中ではかなり分かりやすく書かれています。数式を使わないのは一般向けの解説書としては当たり前ですが,読者がなるべく具体的なイメージを持って理解できるようにと文章も工夫されています。そのあたりは非常に好感が持てます。
 ただ,これでわかるかというと,「わかる人はわかるが,わからない人にはわからない」という感じじゃないかと思います。何しろ,本文中で何度も「私も完全に理解できているとは言いがたい」とか,「わからないものはわからないなりに精一杯説明すると」というような文章が登場するくらいですから,「高校程度の物理なら大丈夫」レベルの読者にはやはりかなりハードルが高いと思います。正直に告白すると,私がしっかり理解できたのは2/3くらいまでで,最後の第8章,第9章は文字を追うだけで理解するまでには至りませんでした。
 ちなみに本書の中心をなすのは,ノーベル賞受賞者の南部陽一郎の「自発的対称性の破れ」理論です。簡単に要約すると「宇宙の初期の状態においてはすべての素粒子は質量がなく自由に動きまわることができたが,自発的対称性の破れが生じて真空に相転移が起こると素粒子が自由に動けなくなって抵抗を受けるようになる。その抵抗が質量なのだ」という筋書きらしいです。ちなみに,話題のヒッグス粒子ですが,その存在が証明されたとしても質量の起源の2%が明らかになるだけで,98%は不明なのだそうです。

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 2010年の「マンガ大賞」,「手塚治虫文化賞」をダブル受賞したことで有名な作品。
 ハドリアヌス帝時代(西暦100年頃)の古代ローマ建築家がなぜか現代日本の銭湯や温泉にタイムスリップしてしまい,そこで見たものを古代ローマに持ち帰って「革命的ローマ風呂」を作る,という漫画なんですが,風呂上がりのレモン牛乳,銭湯の富士山の絵,湯治温泉などが古代ローマに見事に蘇る面白さは無類です。2000年前も今も人間の発想や感じ方って変わっていないんだなと,感慨を覚えてしまいます。

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Newton (ニュートン) 2010年 11月号 [雑誌]が「生命誕生の謎」特集を組んでいますが,その中で,細菌との共生という項目があり,人体常在菌についてちょっと詳しく説明されています。「皮膚の常在菌はどこにいるのか?」という皮膚の断面模式図が分かりやすくていいです。

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 山科けいすけの漫画3冊が新潮文庫になったので買っちゃいました。戦国時代漫画の『SENGOKU 上巻』,『SENGOKU 下巻』と幕末漫画『サカモト』です。いずれも史実には全く基づいていないギャグマンガのため歴史の勉強には全くなりませんが,山科さんの『C級さらりーまん講座右顧左眄 』が好きな人には楽しめると思います。
 とりわけ『サカモト』は登場する人間(=幕末のオールスターが総登場)の性格設定はメチャクチャで行動も思想もメチャクチャなのに,なぜか歴史が史実通りに流れていくという離れ業を見せます。たとえば,それまで薩摩一辺倒だった龍馬は,西郷どんが倒幕後に「日本全体をサツマイモ畑にし,日本一のお山を富士山から桜島にする」という計画を聞き,薩長連合を考えるようになった,なんてあたりは大笑い。
 ただし,次の条件に当てはまる人は絶対に読まないでください。そういう人は司馬遼太郎の小説とNHKの大河ドラマをご覧下さい。

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昔読んだ本をちょっと読み返してみた。それが全地球凍結 (集英社新書)だ。今から7億年ほど前の原生代に数回,地球全体が凍結して地表の全てが氷で覆われた,という考えだ。様々な証拠から,現在ではほぼ確実に起きた出来事と受け入れられている。そしてどうやら,この「全地球氷漬け」状態は数千万年に渡って続き,しかも3回ほど繰り返されたらしいのだ。最後の「全地球凍結」のあと,地球はエデュアカラ紀に入り,その後ご存知の「カンブリア紀の進化の大爆発」を迎えるが,この「凍結」が生物の爆発的進化の直接の原因だったという解釈もある(もちろん,他の考えもある)
 問題は,この数千万年にわたる氷漬けの地球のどこで,生物が生き延びていたかだ。何しろこの時期,当時の赤道直下ですら氷に覆われていたのである。
 もちろん,原核生物(真正細菌と古細菌)は生きられただろう。氷の下にわずかでも火山噴火や熱水噴出があれば,そこで生きられるからだ。困るのは真核生物である。真核生物の発生は20数億年前だが,地球の歴史の中で真核生物の発生は「たった一度」しかなかったからだ。なぜなら,真核細胞の発生はいわば偶然の産物だったからだ。
 真核生物はエネルギー調達をミトコンドリアに引き渡した(=押し付けた?)ために自身は巨大化でき,細胞膜が呼吸から開放されてさまざまなことに使えるようになった。だが同時に,「死」という概念から逃れられなくなったし,古細菌が平気で暮らしている過酷な環境では生きて行けなくなった。
 10億年前に最初の多細胞生物が生まれたことは確実とされているから,「全地球凍結」はまさにその時期の多細胞生物を直撃したことになる。分厚い氷の下のどこで多細胞生物は数千万年生きられたのだろうか。真核細胞の誕生は地球でただ一回の奇跡であり,やり直しは効かないのだ。
 そういう疑問を持ちながら,この本を再度読み返してみたわけだ。

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 数学10大論争(ハル・ヘルマン,紀伊國屋書店)ですが,あまりの面白さに1日で完読しました。人間の脳みそってすごいな,こんなところまで論理で追求しちゃうのか・・・と,圧倒されました。

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 長い長い秋田新幹線の車中で暇つぶしに読み始め,1時間で読み終えたのが,『外来生物クライシス』 (小学館101新書)です。沖縄のマングースのように明らかに生態系を破壊しているものもあれば,すでに生態系の一部になっているため,外来種として駆除したら生態系そのものが変化してしまったという事例もあり,一筋縄で解決できない問題であることが判ります。いずれ,書評をまとめてみますね。

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 『南アジア 世界暴力の発信源』 (光文社新書)という本を読んでいます。アフガニスタン,パキスタン,インドの動向を中心に,なぜこの地域が政治的に不安定なのかを多角的に分析している本で,読み応えがあります。

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 昨日一日で読了したのが殉教 日本人は何を信仰したか(山本博文,光文社新書)です。結構面白かったです。
 フランシスコ・ザビエルによって伝えられてキリスト教は戦国時代という時代を背景に次第に日本社会に広く広まっていきますが,安土桃山時代から江戸初期にかけて時の権力者(秀吉,家康)はキリスト教に弾圧を加え,その結果として4,000人とも言われるキリシタンが殉教したことは,多くの人が知っているとおりです。しかし,この「4,000人の殉教者」はキリスト教の歴史から見ても極めて特異なものであり,これほど大量の人間が棄教でなく信仰のための死を選んだことはないからです。また,同様にキリスト教が弾圧された中国や朝鮮でもこれほどの殉教者はいなかったのです。
 しかも,キリシタン捜索が始まると,自分から積極的に名乗り出る住民が相次ぎ,役人の数が不足するという事態にまで発展しますし,信者の処刑場には「私も信者だ。私も殺してくれ」という信者が殺到したのです。
 なぜ彼らはそこまで強固な信仰心を持ってしまったのか,彼らを信仰に駆り立てたのは何だったのか,なぜキリスト教は急速に広まったのか,天草四郎の乱とは何だったのか,そして,この「大殉教の時代」からわずか20年ほどで日本からキリスト教がかき消すようになくなったのはなぜか・・・について,詳細な資料分析からその本質に迫っていきます。

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 これも先日紹介した本,重力の再発見―アインシュタインの相対論を超えて(J.W.モファット,早川書房)を少しずつ読み始めています。まだ最初の100ページほどしか読んでいないのですが,その中で「1905年のアインシュタインの特殊相対性理論についての論文では,参考文献・引用文献は一つも挙げられていなかった」という一節があり,思わず「カッケー! すげぇ!」と叫んでしまいました。引用文献や参考にした文献が一つもない科学論文でありながら,その正しさを万人が認めたのです。他人の考えを引用して自分の考えの正しさを証明する,というセコさ,安易さが微塵もないことの凄さと清々しさに感動します。
 この一節に出会えただけで,この本を読んでよかったと思いました。

 ちなみに,こんなことを書くと,「それはアインシュタインという天才だから許されることだ。ほかの人間が引用文献なしの論文を書いてもacceptされるわけがない」と反論する人がいると思いますが,それは完全な的外れです。何しろ1905年のアインシュタインはベルンの特許局に勤める26歳の公務員であり,大学にも研究室にも所属していなかったのです(ちなみに彼は,大学時代の指導教官からは大学に残らないほうがいい,研究者にはならない方がいいと言われ,特許局に職を求めたんだとか)
 そういう,無名の青年が引用文献なしの論文を専門雑誌に投稿したのです。その心意気,自尊心,確固たる信念,何事にも怯まぬ闘争心に圧倒されます。

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 知人から創傷ドレッシングの歴史(W.J.ビショップ,時空出版)という本が出ているよと教えていただいたのがこの本。一昨日,医局に届き,昨日の午後の外来の合間に読み終えました。なぜそんなに早く読み終えられたかというと,目次や索引まで含めても110ページ足らずの本だからです。これで2400円はちょっと高いな。
 どういう内容かというと,古代エジプトから20世紀中ごろくらいまでの傷の治療方法とそれに使われた治療材料(=ドレッシング)の歴史を俯瞰したものです。こういう古代から中世,近代にかけての傷の治療法の歴史については『ドレッシング』(へるす出版・・・私も一部執筆しています)にもまとめられていましたが,さらにそれを詳しく解説したものとなっています。どのパピルスに書かれていた情報なのか,誰がその方法を提唱したのか,何が正しい情報なのかがよくわかりますし,歴史の中に消えていった医者が多数登場し,興味深いものがあります。
 また個人的には,「消毒」という言葉がなぜ使われるようになったのかがわかったのは収穫でした。要するに,19世紀半ばまで「病気の原因はミアスマ(=毒気のある大気)である」という学説があり,その「毒」を消す,というのがそもそもの発端だったらしいです。
 傷の治療の歴史について書く際に参考にしようと購入しましたが,そうでない医療関係者にとっては,ちょっとマニアックすぎる内容かもしれません。医学の歴史に興味を持っている人にのみオススメ!

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 光文社から本を出した関係で,時々,光文社新書の新刊書が送られてきます。そういう次第で,今読んでいるのが『二大政党制批判論 もうひとつのデモクラシーへ』 (光文社新書)です。そもそも政党は何なのか,選挙とは何なのかという根本から見直して,政治改革,選挙制度改革は手段なのか目的なのかを論じ,現在の日本の小選挙区・二大政党制は最善の政治システムなのかを問い直す力作で,読み応え十分でした。
 これを読むと,「小選挙区制+マニフェスト選挙+準二大政党制」の欠点がよくわかります。私たちの大部分は民主党のマニフェストの全てを支持しているわけでもなく,自民党のマニフェストの全てが正しいとも思っていないからです。年金制度改正については民主党のマニフェストに理があり,雇用創出については自民党の考えの方が現実的,公共事業の見直しに関しては民主党を支持・・・という具合に,この政策については民主党,こっちの問題については自民党を支持,というのが普通だからです。
 しかし,選挙で投じることができるのは一票だけで,民主党か自民党かどちらかに投票するしかありません。その結果,「55%の政策を支持できる民主党」と「45%の政策を支持できる自民党」を天秤にかけて55%支持の政党に投票するしかないわけです。そして,そういう選択をした有権者が多ければ民主党が政権を取ることになり,選挙前に提示したマニフェストの実行に移ります。問題は,有権者に支持されていないマニフェストを有権者が排除できないという点にあります。
 こうなったら,各問題ごとに国民投票を行ったほうがいいんじゃない,なんて発想も浮かんでしまうわけです。もちろん,直接民主制には直接民主制の問題があるわけですけどね(このあたりについては本書でも詳しく説明されていますが)。

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 毎月のように光文社からその月に発行された新刊の新書が送られてきます。今月ので一番面白かったのが『戦略の不条理 なぜ合理的な行動は失敗するのか』 (光文社新書)(菊澤研宗)。最近,経営学でよく登場する言葉が「経営戦略論」で,企業が生き残るためには「キュービック・グランド・ステラテジー(多層的・立体的な戦略的思考)」が重要と言われるようになって来ました(・・・ここらは本書からのそのまんまコピーだな)。この問題に対し,「戦略論」の本家本元である孫子,クラウゼヴィッツ,リデル・ハート,ロンメルの各々の戦略を解説しながら,戦略的には正しい行動が必ずしも成功しなかった理由を分析し,生き残りのための戦略的思考を提案するのが本書です。
 わたし的にはクラウゼヴィッツやリデル・ハートの生涯や彼らの「戦略」に対する思考生成過程がまとめて読め,正しい知識が得られたことが一番の収穫でした。

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 今読んでいるのが織田信長 最後の茶会 (光文社新書)(児島毅,光文社新書)だ。これが面白い。「本能寺の変の黒幕は誰か?」という謎解き本としては論拠に乏しい推論が多すぎる,という根本的問題点はあるが(後半の章ほど「○○ではないかと想像される」,「○○であるはずだ」,「○○と考えても不自然ではない」という表現が多くなる),それ以外の部分は非常に面白かった。
 本書は織田信長時代の日本だけを描くのでなく,中国を含む東アジア全体の政治と経済から「本能寺の変」を再解読しようとするものであり,新たな信長像を提案しようとする意欲的な試みである。

 例えば,冒頭の「日本人の歴史観における司馬遼太郎の功罪」というのはなるほど,と思った。要するに司馬遼太郎さんは,ある歴史観(=意図)を最初に設定し,自分の歴史観の正しさを証明するのに最適な人物として坂本竜馬や織田信長をテーマとして取り上げ,自分の歴史観の中で彼らの行動を再構築したわけだ。当然,彼の歴史観に都合の悪い部分はあえて切り捨てるだろうし,都合のよい部分をとりわけ強調しようとするだろう。
 このあたりは,司馬遼太郎の著作だけ読んでいると気がつかない部分である。

 以前にも紹介したが,中国の歴史観を作ったのは司馬遷,ヨーロッパの歴史観を作ったのはヘロドトスだったが,司馬遷は「武帝は正統である」ことを証明するために「史書」を書き,ヘロドトスは「東洋と西洋の衝突が歴史である」ことを証明するために「歴史」を書いたわけだ。つまり,過去に何が起きたのかを正確に書き残そうという意図など全くなく,彼らの歴史観,つまり哲学を述べたに過ぎないのだ。これは司馬遼太郎も同じなのである。要するに,司馬遷やヘロドトスや司馬遼太郎の著書を読んで歴史を学んだ気分になるのは極めて危険なのである。

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 何度かこのサイトで取り上げている傳田光洋先生の新しい本賢い皮膚―思考する最大の“臓器” (ちくま新書)が出版されました。私も早速購入して読んでみました。
 内容としては,これまでの先生の著書をまとめた感じで,皮膚が独自の知覚を持っていること,皮膚が電位を持っていること,皮膚細胞が神経伝達物質を産生し,受容体を持っていること,精神的ストレスが皮膚バリア修復を遅延することなどが書かれています。最新のデータも載せられていますので,とりあえずこの一冊があれば「傳田ワールド」が楽しめると思います。
 個人的に一番面白かったのは,最終章の「ノックアウトマウスの実験で生命の本質がわかるのか,分子生物学で生命体が解明できるのか」と疑問を呈し,それを「テレビを分解してテレビが組み立てられるのか」と見事な比喩で説明している部分です。
 そして,ちょっと残念だったのは,このような見事な比喩がここにしかないことです。

 結局,この本をどんな人に読んで欲しかったのかがちょっと見えにくいのが気になりました。前の2冊はハードカバーの本で,明らかに「科学に関心を持つ人間」を対象にしていたと思います。しかし,新書となると対象とする読者層は広がるはずです。となると,書き方もそれなりに変えて,読み手を楽しませる工夫が必要になると考えますが,今回の本も基本的には「皮膚の最新の知見を盛り込んだ教科書」という感じです。恐らくこれは書き手でなく,編集者の問題だと思います。
 そのため,「重要な部分」と「重要なことを説明するための部分」の軽重がわかりにくい感じです。神経伝達物質の説明の部分,皮膚に作用するホルモンの説明の部分がそれに当たります。このあたりも編集者の責任でしょう。

 ともあれ,「皮膚科教科書にかかれていない皮膚の最新知見・皮膚科学会で発表されない皮膚の最新科学」が満載の本です。皮膚に興味がある人,そして皮膚科医に広く読んで欲しい本です。

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 暇つぶしにちょっといいかな,と手に取ったのが『ユダヤ人とダイヤモンド』 (幻冬舎新書)。これが結構面白かったです。宝石の中では三流の存在でしかなかったダイアモンドがなぜ「宝石の王」に上り詰めたのかという物語の数奇さもさることながら,ユダヤ人の歴史という縦糸と,ダイアモンドという横糸が織り成す物語の面白さにすっかり引き込まれてしまいました。
 そして同時に,「ロスチャイルド家って知っているよね。なぜこの一族は謎に包まれているのか知ってる?」というようなネタが満載なので,読んで損はないと思います。
 それにしても,「ダイアモンドの価値とは,消費者がダイアモンドには価値があるということを信じて疑わないことで維持されてる」という指摘は面白かったです。これってまさしくパラダイムの構造そのものだからです。つまり,「天動説は皆が正しいと信じていたから正しかった」のと同じです。だからこそ,天動説を疑う人が出現するまで信じられていました。だから,ダイアモンド業界は「ダイアモンドには価値がある」と繰り返し繰り返し宣伝し,消費者を洗脳しているわけです。
 そういう,いろいろなことも教えてくれる本です。

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 ある方から『「床下」が危ない!』 (住宅が危ない!シリーズ)というシロアリ研究者によるシロアリについての本を貸していただき,少しずつ読んでいる。まだ最初の方しか読んでいないが,これが結構面白い。
「卵から浮かしたシロアリはすぐに歩き出し,未成熟の状態で働きアリになる。このため,シロアリの体表面は軟らかく,いわば未熟な状態のままである。そのため,巣穴を頑丈にして身を守る必要がある。巣穴の内壁はシロアリの外骨格なのだ」
なんて記述にちょっと興奮。知らないことを知るってのは,どんなことでも楽しいものです。

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 単なる「ゲテモノ食本」のように見えて,実は哲学的な深みに達している本,「ゲテ食」大全を紹介。ちょっと古い本ですがすごい本です。
 それにしても,この本の著者には「食糧危機」なんて言葉は関係ないんだろうな。

 そういえば,以前勤めていた病院で指導した研修医に,冬山単独登山を趣味にし,そちらの方面で名前が知られている人がいましたが,彼は目の前の植物・動物・昆虫を「生で食っても大丈夫,加熱すると食える,煮ても焼いても食えない」の3つに分類しているそうです。極限状態になると「気持ちが悪くて食べられない」なんて甘っちょろいことを言う奴から死ぬからだそうです。久しぶりに彼のことを思い出しました。

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 新幹線の移動中の暇つぶしとして江戸の歴史は大正時代にねじ曲げられた サムライと庶民365日の真実 (講談社プラスアルファ新書)を読んでが,これが結構面白かった。特に,日本橋馬喰町のある紙問屋の家訓には考えさせられた。
「当家に男子出生いたすとも,別家または養子に遣わすべし。男子相続は後代まで永く永く禁止し,当家相続は養子に限ることを,固く定めおき候」
 ちなみに近年の調査では,神田,日本橋,京橋の老舗40店の当主のすべては婿養子であり,商家にとっての結婚は私事ではなく,同業組合の公事であり,婿は商人仲間の公職でもあったのだ,と説明されている。この伝統は昭和の初期まで続き,市中の金融機関では「婿取りの商家には融資するが,息子が当主だったら融資しない」というのが常識だったそうだ。つまり,息子だからと後を継がせるような店は潰れるのが目に見えているから金は貸せない,という考えだったのだろう。
 考えてみたらこれは当たり前である。自分の息子が優れた商才を持つ確率よりは,商才のある従業員が店にいる確率が高いからだ。つまり,家柄もなく血筋でもなく,純粋に才能が評価された時代だったのである。この点に限れば,二世議員ばかりのどっかの国よりははるかに平等な社会だったことは間違いない。

「小泉元首相,次男お披露目で親バカ連発」
 小泉さん,江戸時代でなくてよかったね。

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 患者の立場に立つといえば,今週号の少年マガジン,『ゴッドハンド輝』も熱いです。「患者さんと家族にありとあらゆる合併症と不幸な転帰をたどることだけ説明し,患者を不安な気持ちのまま手術を納得させるのっておかしい」,「患者を絶望させてそのままで放置していいのか」と,輝が先輩医師(先輩石?)に痰火を切ります。全ての医師に読んで欲しい内容です。
 以前このコーナーで書いた私のエッセイが元ネタとのことですが,このような素晴らしい形にしていただいた山本先生に感謝いたします。

 あなたは患者を不安にするムンテラをして治療に臨みますか? それとも,不安を取り除いてから治療に臨みますか? あなたがしているムンテラは患者のためのムンテラですか,それとも自分の保身のためのムンテラですか? あなた自信が患者になったとき,あなたが今,患者にしているようなムンテラで説明されたいですか? あなたが患者だったら,どういう説明を受けたいですか?
 メニューに,「これを食べると食中毒を起こすことがあります」「食べると血圧が高くなることがあります」「食べると太ります」「食べても美味しいと感じないことがあります」と書いてあるレストラン,食べたいですか。
 今週の『ゴッ輝』が問いかけるのは,そういう問題です。

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 以前,『非線形科学 (集英社新書 408G)』を読み始めました,と書きましたが,恥ずかしながら残念ながら,半分ほどで挫折してしまいました。本を途中で挫折するのは久し振りです。以前から,ちょっと興味のあった分野だけに残念です。
 言い訳をすると,あまり面白くないというか,わかりやすくなかったからです。数式を使わずに非線形科学をわかりやすく解説,という帯の宣伝文で購入した本で,確かに数式は使われていませんが,次々と新しい用語や概念が提示され,おまけに数学的な説明もなく単に文章で説明されているため,かえって理解し難くなったようです。
 文体も教科書そのままといった感じで,要するに「非線形科学の教科書から数式だけを取り除いた本」なんですよ。大学の専門課程向けの教科書としてはこれはありと思いますが,一般向けの新書としてはどうかなと思います。編集者がチェックしなかったのでしょうか。

 数学書が難しく感じられるのは数式があるからでなく,それが現実の社会や自然とどう繋がっているのかがわかりにくいからです。数学の教科書がわかりにくいのは,そのあたりのことは自明というか,敢えて説明するまでもないよね,というスタンスで書いているからです。だから逆に,そのあたりのところをわかりやすく説明するだけで「目からウロコ」になり,かなりの読者はついてこれるようになります。
 そのあたりのことを考えず,単に数式を抜けばわかりやすくなる,と考えるのはとんでもない誤りです。
 難しいことを難しく書くのは実はとても簡単です。そんなのは誰でもできます。同様に,易しいことを難しく書くのも簡単です。難しいのは,難しいことを平易に説明することです。

 さらに,この本について申し添えれば,読み手にワクワク感もドキドキ感も抱かせないというのが,新書としては弱点だと思いました。特定専門分野について書かれている新書を手に取る読者とはどういう人たちでしょうか。恐らく,自分が知らない分野について知的好奇心を持っている素人であり,読書によって知的好奇心,つまり,ワクワク感やドキドキ感を感じたいと思っている人です。だから,その本から一箇所でもワクワクする興奮が得られれば,それをエネルギー源として読み進めることができます。そのあたりがわかっていない新書を読み続けるのが難しいのは,読み続けるエネルギーが本から得られないからです。
 恐らくこれは,著者の問題というよりは編集者の責任でしょう。

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 昨日紹介した『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書)』ですが,その中で最高に素敵な文章が紹介されていました。これは今からおよそ100年前にイギリスの各新聞に掲載された,シャクルトンを隊長とする南極探検隊への参加を求める求人広告です。
求む男子。至難の旅。わずかな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。ただし,成功の暁には,名誉と賞賛を得る。
 すげえ! 格好いい! 冒険とは何か,そのすべてがこの短文で語り尽くされています。この,若者の冒険心に訴える名コピーに5,000人の応募があったそうです。さすがは『鷲は舞い降りた』と『脱出航路』のジャック・ヒギンズ,『女王陛下のユリシーズ号』のアリステア・マクリーンの国です。

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 オイラーの贈物―人類の至宝 eiπ = -1 を学ぶ(吉田武,ちくま学芸文庫)をちょっとずつ読んでいます・・・といっても,ようやく13ページまで来たところです。何しろ,計算問題がいろいろなところにあって,それを自分で解かないと次に読みすすめないもんで・・・。
 というわけで,「0.31818181818・・・という循環小数を分数で表せ」という問題を解くのに3分もかかってしまいました。単純な一次方程式なんですが,その式を考え出すまでに時間がかかってしまいました。ちょっと情けないな。
 ちなみにその後,ようやく23ページ目まで来ました。二項定理の証明をしたり,計算問題を解いたりしています。この後,無限数列の項目に突入する予定ですが,果たして私のオツムはついて行けるのでしょうか? 遭難しそうな気配が濃厚です。

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 ひさしぶりに東海林さだおの食べ物エッセイ・シリーズの一冊,うなぎの丸かじり (丸かじりシリーズ (25))(朝日新聞社)を読んだ。一時期は,出るたびに読んでいたがあまりに忙しくなったためにご無沙汰だったが,やはりあの文章力は健在だった(ゴーストライターが書いているんじゃないの,という噂もあるけど,ま,気にしないことにしましょう)。喩え方が素晴らしくうまいのである。
 例えばギリシャ料理を食う章を見てみよう。そこではいきなり,ギリシャは「スミ1」か「スミ2」だと看破する。「スミ1」とは何か。野球で初回に1点だけ取って,あと最後まで点数が入らない試合の事を言う。例えば哲学の分野ではギリシャはソクラテスとプラトンという二大巨人がいた。でもその後が続かず,小粒な哲学者ばかりだ。これが「スミ2」だ。詩の世界ではホメロスが初回1点を挙げたが後続なしで「スミ1」。数学ではピタゴラスとユークリッドで「スミ2」。見事なたとえである。
 あるいは「最中(お菓子のもなか)はヤドカリだ」というのも言いえて妙。中味と外側が何となくよそよそしいもんね。あるいは,「カレージルが足りない!」という怒りもごもっとも。いつも足りなくて,苦労しているもんね。

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 クマムシである。くまぇりではない。苦蝮でもなければ,熊蒸しでもない。もちろん,熊殺しでもない。クマムシである。今,クマムシが熱い!

 クマムシとは何か。体長1ミリ足らずの生物だが,これが地球上最強の生物なのである。何しろ,150℃にしても零下270℃にしても死なない。真空状態においても高圧状態においても死なない。人間の致死量の1000倍くらいの放射線を浴びせても死なない。120年間水なし状態でも死なない。そんなスーパー生物,それがクマムシだ。
 以前から気になっていた生物だが,ついに本が出版された。
クマムシ?!―小さな怪物 』(岩波書店)である。これはやはり,買わずばなるまい。

 なお,上記の岩波書店のサイトでは,クマムシが歩く様子を見せてくれる。これがなんとも可愛いのである。

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