初診患者への治療法の説明


 以前,雑誌「クリニシャン」から次のような質問をいただき,書いたことがあります(クリニシャン,2010年7月号)。

 水で洗浄し,フィルム材で傷の部分を覆って処置してしまうととても簡単です。しかし年配の方は抵抗を示し,不安がる方が多いので,現場ではとても困惑します。患者さんの不安をなくす説明の方法を教えてください。

 以下,私の回答(説明法)です。


 湿潤治療(傷を消毒しない,乾燥させない)を患者さんに理解してもらうのはとても簡単です。湿潤治療のメリットを既に患者さんが享受していることに気づかせるだけで十分です。そのメリットとは「痛くないこと」です。「傷が痛くないのって不思議じゃないですか?」と一声かけるだけで,患者さんはこの治療を理解してくれます。

 たとえば膝を擦りむいた患者さんが来院したとします。初日は治療について説明せず,血をふき取ってアルギン酸塩被覆材を当て,フィルムで密封するだけです。理論的な話もしません。そして,翌日必ず受診してもらいます。治療について説明するのは必ず翌日にして,初診時には説明しません。理由は以前説明したとおりです


 そして,『さらば消毒とガーゼ 「うるおい治療」が傷を治す』(春秋社)のカラー口絵のページを開いて,写真を見せながら次のように説明します。

まずこれを見てください。転んで足をひどくすりむいた患者さんです
これがなんと,3日後にはこんなに治ってしまいます
こちらは顔をすりむいた子供さんです
こちらも3日後にはきれいに治っていて,傷跡もほとんど残っていません。これって不思議でしょう? なぜ,こんなに早く治るか知りたくありませんか?

治療のコツはまず第一は傷を乾かさないです。なぜかというと,傷を乾かすと痛いからです。あなたの傷も乾かすと痛いです。試しに乾かしてみてもいいですけど,痛いのは嫌ですよね。
そして,傷を乾かすとカサブタになりますが,中にばい菌を残して蓋をするので後で傷が化膿するし,痕も残ります。つまり,カサブタを作っちゃ駄目なんですよ。

では,傷を乾かさないようにするためにはどうしたらいいのか。
これは腕のヤケドの赤ちゃんです。
これもなんと,2週間足らずで治っちゃいます。
どうやって治したかというと,サランラップなどの食品包装用のラップで巻いただけです。なぜラップだけで治るのかというと,ラップは空気を通しません。だから傷がは乾きません。傷が乾かないから痛みがないし,カサブタもできないため速く治ります。

でも,この傷にガーゼを当てるとどうなるでしょうか? ガーゼって空気を通しますよね。だからガーゼを当てると傷が乾きます。だから,傷にガーゼを当てると乾いて痛いのです。しかも,ガーゼは乾いて傷にくっつくので剥がすときにすごく痛いですし,血も出ます。
一方,ラップは傷にくっつかないので剥がす時も痛くありません。
それから,この傷を消毒すると飛び上がるほど痛いと思いませんか? 実際に消毒してみるとわかりますが,本当に痛いです。あなたの傷も消毒してみましょうか? 嫌ですよね。
なぜ痛いのかというと,消毒すると傷が深くなるから痛いのです。
治療の第二のポイントは「消毒なんて止めちゃえ!」です。傷口のバイキンは洗えば落ちますから,消毒でなくて水道水で洗えば傷はきれいになります。
もちろんラップでも治療できますが,ラップには欠点があります。汗疹を作りやすいことです。
それで,ここではこのプラスモイストという治療材料で治療します。これは汗や血液は吸い取るので汗疹はできず,また,水分の蒸発を防ぐので傷も乾きません。そして何より,傷にくっつかないので剥がす時に痛くありません。
治療は「洗ってこのシートを張り替える」だけと簡単なので,病院には毎日来る必要はなく,週に2回くらい通院するだけで大丈夫です。ちなみに,このプラスモイストは病院の売店で売っているので,病院に来なくてもきちんと治療できます。
 もちろん,自分で治療をするのは不安,病院に来たほうが安心という場合は,毎日通院してもいいですよ。

(2011/04/26)

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