1胚葉生物の知覚はどうなっていたか


 最初の多細胞生物は9〜10億年前に発生した海綿動物だったと考えられている。胚葉の分化はなく,外胚葉のみの1胚葉生物であり,複雑な外見を持っているが,体の構造そのものは極めてシンプルで湯飲み茶碗のようなものである。つまり,湯飲みの外側に多数の穴(小孔という)が開いていてここから水分と栄養分を吸い込み,湯飲みの口(大孔という)から水を吐き出し,その途中で栄養分を得ている生物だ。ちなみに,湯飲みの内側には鞭毛を持った襟細胞が多数存在し,この鞭毛を動かすことで小孔から大孔への水の流れを作っている。また,無性生殖と有性生殖の両方の繁殖様式を使い分けている。

 このような海綿動物にとって外胚葉は自己と環境を分ける境界であり,栄養分を摂取するためのものであった。そして同時に外胚葉は環境の変化を察知するセンサーでもあったはずだ。水の温度,ナトリウム濃度,その他のイオンや有機物の濃度により襟細胞の鞭毛の動きを制御する必要があるし,無性生殖と有性生殖のどちらにするかも,生育している環境はどちらの生殖様式に有利かを判断するしなければいけないからだ。要するに,外部環境状態を常に感知する必要がある。


 しかし,海綿動物は神経系を持っていない(神経系が出現するのは,2胚葉生物である刺胞動物から)のだ。だがそれでも,外部環境の状況は何らかの手段で察知しなければ生命維持はできないわけだから,その役割を体表面である外胚葉が果たすしかなかったのは当然といえる(何しろ,外胚葉しかなかったわけだし,外部の情報を得る必要性があったのだから,外胚葉にとっては選択の余地はなかったといえる)

 この「体表面での情報センサー機能」はすべての体表面の細胞に有していたと考えるほうが理に適っているはずだ。海綿動物と平板動物はどちらも多細胞であるが,明瞭な器官の分化が見られないからである(ちなみに平板動物も神経系を持っていない)。だから,すべての外胚葉細胞に環境の情報を得るための機能と,その情報に応じて命令を出す機能が最初から備わっていたと考えるしかないし,そのような機能を持たない外胚葉生物は生存に不利になり,淘汰されたはずだ。


 現生の海綿動物の知覚に関する研究を可能な限り調べてみたが,これに関する記述は見つけられていないため,上記の推論が正しいかどうかは不明である。
 しかし,海綿動物の次に出現したとされる後述の刺胞動物であるクラゲの知覚について調べられている。現生のクラゲの知覚に関する実験によると,クラゲは体表面の全ての細胞でさまざまな化学情報を捕らえていることが確認されており,前述の「外胚葉=知覚機能」説はほぼ正しいだろうと思っている。


 とはいっても,海綿動物が誕生した頃は外胚葉が感知して処理すべき情報はあまり多くなかったはずだ。もちろん海底火山の噴火などの環境の変化は時々あっただろうが,そのような変化は滅多に起こるものではなかっただろうから,それ以外はいたって平穏な環境で平穏に水を濾過しながらのどかに暮らしていたのだろう。
 だが,それは恐らく,6〜7億年前の刺胞動物の出現で一変した。

(2009/01/22)

左側のカラムが表示されなければ

Top Page