パスツールにみるキリスト教の呪縛


 パスツールの考えを一言でいえば,この世を「敵か味方か」に二分する方法論だ。つまり,ユダヤ教−キリスト教の一神教の伝統的な思考法である。まさに,宗教は思想様式を決定するのである。

 マルクスは著書『ヘーゲル法哲学批判序論』に「宗教は民衆のアヘンである」と書いた。この言葉はハイネの著書『Ludwig Borne iv』からの引用らしいが,資本主義と共産主義を二項対立として捕らえる考え方,あるいは「社会の歴史は、階級闘争の歴史である」という闘争を通して理想郷に到達できると言う考え方そのものがユダヤ教−キリスト教の根本思想なのである。要するに,マルクスの思考様式はキリスト教の枠組みから一歩も出ていないのだ。
 マルクスに限らず,西欧の思想家や宗教家の文章を読むと,意識的にせよ無意識的にせよ,その根底にはユダヤ教−キリスト教の思考パターンがそのまま見て取れる。そしてそれは科学においても例外ではない。宗教が思考パターンを規定しているということに気がつくのは,その他の宗教の思考パターンを知っている人だけだ。


 世界を二つに分けて対立構造で捉えるのがユダヤ教,キリスト教,イスラム教の特徴だ。パスツールはその伝統的思考に忠実に従っただけだ。だから彼はバクテリア(「小さな杖」という意味)に「病原菌」という名前をつけ,人間に敵対するもの,人間に脅威をもたらす恐ろしい敵だと考え,その撲滅を訴えたわけだ。要するにそれは,イスラム教徒殲滅のために十字軍を派遣するのと同じ思考パターンである。

 ちなみに,パスツールの同時代の医者の中には「食糧事情も労働環境も悪く,日も当たらない家に住むしかない労働者が病気になるのは細菌だけが原因とは考えにくい。病原菌撲滅もいいが,その前にまず衣食住の改善ではないか?」と至極まっとうな反論をするものもいたらしいが,それを政治力で潰したのがパスツールであり彼の弟子たちだった。


 パスツールの努力の甲斐あり,医者たちは細菌を病原菌と呼ぶようになり,病気根絶のために病原菌撲滅,細菌撲滅しかないと考えるようになった。パスツールの狂信は21世紀の医学をも支配し,WHOの予算は感染対策に振り分けられているわけだ。

(2008/12/03)

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