たまたま見つけた4つの記事である。お互いに関連性はないのだが,これらを並べて読んでみると何かが見えてくるはずだ。
一般に二枚貝は海水中の懸濁物を濾過して栄養を取るものが多く,そのような生活様式ではせいぜいハマグリ程度にしか大きくなれない.現世の太平洋・インド洋の熱帯域に棲むオオシャコガイの例があるが,かれらが巨大化できるのは光合成渦鞭毛藻類との共生という,いわば反則技の成果である.
害虫として知られるイエシロアリの腸内に共生する細菌の全遺伝情報(ゲノム)の解読に理化学研究所の研究チームが成功し,この細菌がシロアリの代わりに空気中の窒素を取り入れ,シロアリに栄養分を供給していることを明らかにした。研究成果は14日付の米科学誌サイエンスに掲載された。
米スタンフォード大学(カリフォルニア州)のDavid Relman博士らによる今回の研究では,尿路感染症などのさまざまな細菌による症状に処方される抗生物質シプロフロキサシンに焦点を当てた。これまで,シプロフロキサシンが体内の有益な細菌に及ぼす害は少ないと考えられていた。研究グループは,シプロフロキサシン治療を受ける被験者の便に含まれる細菌を調べた結果,5,600を超える細菌種および株を特定。しかし,患者が抗生物質を使用している間,約30%の細菌種・株が有意な影響を受けていることがわかった。
「WHOの予算は感染対策にばかり偏りすぎている」という分析がLancetの2008年11月1日号に掲載された。具体的な数字で見ると,WHOの予算配分は87%が感染症に拠出され,非伝染性疾患には12%,傷害や暴力には1%未満である。アフリカ地域では死因の3/4が感染症,西太平洋地域では3/4が非伝染性疾患なのにもかかわらず,資金の配分はほぼ比率となっている。つまり,先進国では急務の問題でも大きな問題でもない感染対策に人員と金が注ぎ込まれている。
一番最初の新聞記事には「オオシャコ貝が巨大化できるのは,光合成渦鞭毛藻類との共生という反則技の成果である」と解説されているが,この解釈こそが間違っているのだ。このような共生は実はさまざまな生物種で広く見つかっている現象で,反則技どころか「普遍的な生きるすべ」なのである。これを「反則技」と解釈しているのは医学界だけなのだ。
なぜこれを「反則技」と考えてしまうのか。それは,過去150年近く,医学の細菌に対する考えは「パスツールの思想」を無批判に受け入れ,パスツールの考えを金科玉条の如く崇め奉ってきたからだ。
パスツールの思想とは何か,それは「全ての病気は細菌(=病原菌)によって起こされる。だから,細菌を地球上から撲滅すれば人間は病気にならなくなり,幸福で健康に暮らせるようになる。すなわち,細菌とは人類の敵なのである」という考えであり,それはパスツールの信念であり,狂信的に自分の考えを信じていたことは,彼のさまざまな資料から伺える。そしてその狂信をパスツールの信奉者たちがそのまま引き継いでパスツール研究所を作り,それがそのまま医学界に受け継がれ,医者たちはその思想を代々大事に守り伝え,現在に至るまで純粋継代培養しきたのだ。
その結実が,上記の4番目の資料だ。WHOの攻撃目標は病原菌(とウイルス)なのだ。病原菌さえいなくなれば人類は健康になれると信じているから,先進国の疾患・障害の2割にしかかかわっていない細菌(とウイルス)に9割近い莫大な資金を注ぎ込んでいるのだ。
そして,医学界はパスツールの狂信を盲信し続け,それ以外の考え方があるなんて思いもつかないまま21世紀を迎え,現在に至っている。
そんな医学界を尻目に,本家本元の生物学の世界では20世紀初頭から何度もパラダイムシフトを経験し,20世紀後半にはパスツールの「病原菌思想」は完全に否定され,パスツールの考えとは似ても似つかない細菌学に変貌していたのだ。
だが不幸にして,その変化は医学界に伝えられなかった。
(2008/12/02)