《マシーンヘッド》 (2004年,アメリカ)


 アルバトロスのアホ映画なのですが,これが妙に心に残るのです。アホ馬鹿映画と切って捨てられない「何か」を持っている映画です。とはいっても,アルバトロスですから,映画としては出来の悪い自主制作映画程度なんですが,その中では結構いい線を行っているような気がします・・・アルバトロスとしては・・・。

 そして次のような宣伝文を作ったアルバトロスのスタッフ,すごい言語センスです。

発動機、が、死体である俺、を、動かす。
発動機、を、死体である俺、が、動かす。
生命エネルギー“ゼロ同士”が合体。
動力の原因はどちらか・・・?
なんで俺は暴れてしまう。なんで俺は振動する。
ガソリンが欲しい・・・。

内燃機関+脳味噌!
有り得ないエネルギーのスパーク・プラグ!
最大トルク計測不可能!
映画史上初!驚愕の排気、エンジン人間登場!

 そしてDVDのジャケットがこれまたすごいです。これを見ると,精巧に作られたエンジンと人間の頭脳が高度な技術で華麗に合体しているように見えるじゃないですか。しかもこの絵を見る限り,合体するのは若いイケメン俳優さんのようです。これを見たら,いかにも面白そうじゃないですか。

 でも,実態は全然違うの。頭についているのは芝刈り機のエンジン部分だし,これを頭につけるのは中年のオッサンです。毎度の事ながら,アルバトロスのスタッフ,いい仕事をしています。ジャケットで騙してやろうという魂胆が丸見えで,清清しいくらいです。


 ストーリーもすごいですよ。脳味噌が3回転ひねりで腸捻転を起こしたようなぶっ飛びぶりです。常人には思いつかない発想を映画化しています。

 主人公は科学オタクの高校生,マックス君(・・・これがまた妙に老けている)。彼は内燃機関とパソコンの天才で両者の関係を証明する新理論を考案するんですが,その証明として考えたのが,屍体の脳味噌と芝刈り機の発動機とパソコンを継ぎ,脳に電流を流すことで屍体を動かす,というナイスな手段でした。

 問題は屍体の調達法なんですが,何しろマックス君の父親は葬儀屋さんですから,父親の目を盗んで身元不明の屍体を持ち出して自分の部屋に持ち込み,頭蓋骨に穴を開けて電極を差し込み,ボルトで発動機を頭を結合し,パソコンでプログラムを起動させてスイッチオン! すると,屍体君がブルブルと震えだしたかと思うと立ち上がるのです。マックス君,「これで地域の科学発表会の最優秀賞はいただきだ!」と有頂天。しかしこの「マシーンヘッド」は馬鹿力でおまけに制御できないもんだから,次々と殺人を重ねては町を徘徊しはじめます。そしてついに警官に取り囲まれますが,そこにマックス君が到着。しかし,車から漏れたガソリンに引火し,マックス君の車は火に包まれます。その時,マシーンヘッドはマックスの車に近付き,驚きの行動を・・・ってな映画だぞ。


 映画の雰囲気としては,昔懐かしいフランケンシュタインを彷彿とさせます。マシーンヘッドが鏡に映った自分の姿を見て衝撃を受けるシーンとか,最後のマックスとの会話シーンとか,フランケンシュタインをかなり意識しているようです。だけど,こっちの方は「頭に芝刈り機をくっつけました」なもんで,これらのシーンが本家のような感動に直結しません。やはり,初期設定は大事だな,と思いますね。

 それにしても,このマシーンヘッド君のお姿は強烈です。何しろ「右耳の脇に芝刈り機の発動機」ですぜ。それが体をブルブル震わして歩くのです。しかも素顔が普通のオッサン。見ただけで笑えるというか,物悲しくなるというか,一目見たら絶対に忘れられないインパクトを与えます。この造形を考え付いた人,才能の使い道を間違っているような気がしてなりません。

 それに輪をかけて見事なのが,マシーンヘッド君の演技! 手足をブルブル震わして,酔っ払いだってもうちょっとまともに歩くよ,というような歩き方をずっと通しています。なんだか,プロだなぁ,一生懸命に演技しているんだなぁ,と目頭が熱くなってきます。

 また,頭の発動機を布で隠してバーに行ったマシーンヘッド君に,隣の客がビールをおごるシーン,ちょっと素敵です。普通ならどうでもいいようなシーンなんですが,何しろ全体的レベルが落ちている映画ですから,このくらいでも感動してしまいます。このシーンももうちょっと丁寧に作っていたら,かなりいいものになったと思うんだけど・・・。


 それにしても,頭の横に発動機でうるさくないだろうか,ま,死んでるから音は聞こえないのか,なんて余計な心配をしてしまいます。この発動機の音,見ている方にもうるさいくらいですから。また,発動機は熱くならないのか,重くて重心を取りにくそうで気の毒だなとか,プログラムを入れたコンピュータを途中で壊しちゃったけどそれでも歩けるのはなぜとか,発動機のエンジンを切っても歩けるのはなぜとか,疑問はいくらでも出てきます。
 何より,屍体なんだから腐るんじゃないの,という疑問は最後まで付きまといます。何しろ途中でマックス君のパパが,強烈な臭気に気がつく,というシーンがありますから,その時点で脳味噌はドロドロに融解しているはずです。そうなったら,樹状突起も星状細胞もないわけで,いくら電気を流しても・・・ですよね。ま,発動機を付けたんで腐らなくなった,と思うしかありません。

 そうそう,マシーンヘッド君がガソリンスタンドで自分に給油するシーンはおかしかったな。何で彼が,「俺はガソリンで動いている」ということを自覚したのかは不明ですが,ガソリンが必要と感じたらしく,ガソリンスタンドに行くんですよ。ところがそこには「給油の際はエンジンを止めて下さい」なんて書いてあるもんだから,給油できないのですよ。しかも,ガソリンタンクのキャップをはずそうとするんだけど,手がブルブル震えているもんだから,これがなかなか外れない。もう,助けてやりたくなります。


 そんな強烈キャラを作った張本人は,もちろんマックス君です。メガネ君でちょっと不細工で,目がいっちゃってかなり危ない感じです。ことあるごとに「何で皆はボクの発明を理解してくれないの?」って嘆くんだけど,何しろ動かすのは屍体ですから,理解しろと言われたってなぁ・・・。

 マシーンヘッド君の最初の犠牲になるのは,マックス君が片思いを寄せている女子学生で,その次がいじめっ子集団の3人,そしてマックスのパパです。いずれの場合も殺され方がチープというか,何でそれで死んじゃうの,という感じです。彼らの屍体を次々と自宅の火葬用のバーナーで焼いて証拠隠滅を図っています。で,一番最後のシーンで○○がマシーンヘッドで甦るところで終わるのですが,オイオイ,こいつの屍体,その前のシーンで焼いてたよね。それなら,こいつの屍体,どこから出てきたの?

 ところで,あれほどの連続殺人事件の原因を作ったマックス君,屍体を(家族の同意もなしに)燃やしちゃったマックス君,罪に問われなかったんでしょうか。そっちの方が心配になりました。


 というわけで,普通の映画ファンは見ないほうがいいです。でも,最底辺映画道を極めたいという人には必見の作品でしょう。

(2008/02/29)

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