《ギガンテス SCORPIUS GIGANTUS》 (2004年,アメリカ)


 このサイトの映画批評(?)ファンの方なら,アルバトロスって何かご存知ですよね。超安物モンスター映画,ホラー映画ばかり配給してくださっている会社です。私なんて一時期,アルバトロスだけ選んで見ていた時期があるくらい,妙にあとを引くチープな味わいが魅力です。

 で,久し振りのアルバトロスなんですが,ストーリーと構成は(アルバトロスとしては)まともな方だし,人間も(アルバトロスとしては)よく描かれていますし,模型とCGのモンスターも(アルバトロスとしては)きちんと作られている作品です。アルバトロスであることさえ忘れなければそれなりに楽しめる映画です・・・ので,見ていて「なんだ,この安っぽいモンスターは!」なんて気分になったら,アルバトロス,アルバトロス,アルバトロスと3回唱えてください。心安らかな気分になり,また楽しめるようになるはずです。


 さあて,どんな素敵な映画かというと,舞台はどうやら東ヨーロッパのようです。アメリカ軍が極秘に輸送しているトラックが襲われるシーンから始まります。襲撃したのはロシア・マフィアで,積んでいるはずのウラニウムがお目当てだったのです。しかし,そのトラックの荷台に積まれていたのはなんと巨大サソリ! 軍の命を受けた生物学者@女性がサソリの体液に「どんなウイルスにも打ち勝つ抗体」が含まれることを発見し,それを大量に採取するためにサソリを巨大化したんですよ。しかし,その実験過程で生命力が弱いという欠点がわかったため,遺伝子操作でゴキブリの遺伝子と人間の遺伝子を導入し,おまけに,体が丈夫になるように体の表面はチタン合金で覆われるようにしちゃったのです。そんなわけで,成長速度はとんでもなく速く,餌(=人間様)を食べてはどんどん大きくなっちゃうし,人間のDNAを持っているもんだから知能も持っているのです。で,そんなことを知らないロシア・マフィアは知らずにトラックの荷台を開けて襲われて全滅。そして,アメリカ軍にその知らせが入り,軍の最高機密であるサソリを生け捕りにするため,開発者の女性科学者とヨーロッパで訓練中のデルタフォースが向かうのでありました・・・ってな映画でございます。


 このサソリ君は一応,模型とCGを組み合わせた画像になっています。なんとなくサソリっぽく見えますが,体型は全然違うし,口の形も違います。足の形はさそりというよりはカマドウマみたいですし,おまけにどこがゴキブリなんだか,よくわかりません。ですが,アルバトロス名物の「部分しか見せず全体像を見せてくれないモンスター」とは違って全身像を見せてくれるだけ,かなりましですね。それにしても,サソリとゴキブリと人間の知能とチタン合金ですから,メガマック級のてんこ盛りといえます。

 このサソリ君に次々殺されるわけですが,殺され方はかなり力が入っていて,(アルバトロスにしては)かなり迫力があります。それだけでも儲け物でした。

 最初に登場するデルタフォースは4人だけで,数人殺されたあとにNATO軍兵士4人が応援に駆けつけます。最初の予定では,「俺たちは先遣隊で,あとから応援が来る」はずだったのですが,最後まで応援部隊は来ません。この手のB級映画によく見られる,人件費ケチりまくり大作戦,ってやつです。
 女性はサソリの生みの親,デルタフォースに1名,NATO部隊に1人の合計3人ですが,デルタフォースのお姉さんはすぐに殺されて出番なし。科学者は後述のようにかなり嫌な奴ですが,それなりに美人。NATOの兵士,ドキッチちゃんは美人ではなく,これ以上口が大きかったら口裂け女だよな,という感じですが,妙にキュートでかわいいです。
 しかし,この手の映画に必須の巨乳ではありませんし,その手の無意味な「乳シーン」は最後までございません。妙なところで堅物の映画です。

 女性科学者は「人類のためにこの実験は必要なの。データが必要なので生け捕りにして!」とムチャクチャなことを要求します。4人しかいないのにどうやって人の何倍もある巨大サソリを生け捕りにするんだ,そりゃ無理だろう,と誰しも思います。この時点で,「そうか,この姉ちゃんは途中でサソリに派手に殺されちゃうんだよね」と誰しも予想するところですが,なんとこの映画では,最後まで生き残ります。普通なら,最後まで生き延びキャラのはずのドキッチちゃんは,なんと途中で派手に殺されちゃいます。この展開は予想外でした・・・というか,予想外の部分はここしかありませんでした。


 最初のトラック襲撃のシーンは,全然そういう雰囲気でなく始まります。そして,あれ,もしかして,と思ったところで(アルバトロスとしては)かなり本格的な爆破シーン,銃撃戦シーンになります。アルバトロス,やるじゃん,と思ったシーンですが,実はこのシーンだけ力を入れて作ったみたいです。

 軍の最高機密である巨大サソリを運んでいたトラックなんですが,どうみても安物ラックと段ボール箱が入っているだけにしか見えず,アメリカ軍もよほど予算不足と思われました。

 最初の方で,軍の連絡役が女性科学者の実験室を訪ねるシーンがあり,入り口で白衣の男性に「プレストン博士ですか?」と尋ねるんですが,そのすぐあとのシーンでこの連絡役は,「ジェーン・プレストン」とフルネームを言います。誰が見ても女性の名前です。それを知っていて,なぜ男性職員に声をかけたんでしょうか?


 このサソリ君に殺された人間はゾンビのように復活します。どうやら,サソリに注入された体液の作用らしいです。普通ならここで,「生き残った兵士」vs「巨大サソリ軍団+ゾンビ人間」の対決かなと思ったら,ゾンビ君たちの出番はそれだけ。どうやら,時間稼ぎとして登場した模様です。

 時間稼ぎといえば,「遺伝子操作なんって自然に反しているのがなぜわからないんだ」という兵士が科学者に食って掛かったりするシーンが何度もあったり,「女性が兵士に向かないと考えるのはおかしいわ」というようなジェンダー論争が何度も登場します。オイオイ,またその話題かよ,そうやって論争しているうちにサソリが襲って来たらどうするんだよ,と誰しも思うところですが,大丈夫。サソリはそういう時に限って襲ってきません。やはり人間のDNAで知能を持ち,「あっ,ここは時間稼ぎのシーンね。じゃ,襲うのは止めとこう」と,人間の都合がわかっているようで微笑ましいです。

 そういえば,部隊は倉庫の中と船の中に2箇所のみで,サソリ君は町を襲ったりしません。予算が少ない,という人間側の都合がわかっていて,町に出たりしなかったんでしょう。空気,読めてます。


 最後に,野菜を運ぶ巨大な冷凍庫を持った船にサソリが移動し,それを人間が追い,冷凍庫の冷気で動けなくしようという計画を立てますが,なぜかこの計画は途中から忘れ去られたようで,その後登場しません。爆破するより凍らせたほうが面白かったような気がするんだけど・・・。ちなみに,サソリ君が船に移動したのは「俺たちをおびき寄せるためなんだろう」と説明していましたが,人間の知能を持っているサソリなら,船なんて閉鎖空間ではなく,町に繰り出して次々人間を襲ったほうが効率がいいと判断するんでは? だって,船だったら,兵士たちを全部食っちゃったら食料なくなっちゃいますから・・・。

 そうそう,このサソリ君はチタン合金で守られていて,銃弾を打ち込んでもそれを栄養分として吸収する,と説明されていましたが,その割に兵士たちはバンバン,銃弾を打ち込んでいましたね。相手に栄養を与えてどうするつもりだったんでしょうか。

(2008/02/06)

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