《コラテラル COLLATERAL》 (2004年,アメリカ)


 結構面白いというか,同系統のハリウッド・アクション映画の中ではかなりいいほうの映画じゃないでしょうか。トム・クルーズ演ずるクールだけど饒舌な殺し屋と,その殺しに巻き込まれて(コラテラル)しまうタクシー運転手の物語ですが,先の読めない展開,知的な会話,美しいロサンゼルスの夜景,見ごたえのあるアクションシーン,そして見事な音楽といい,見所満載です。また,登場人物たちの性格も手短かつ的確に説明されていて,その手際は出色の出来でしょう。もちろん突っ込もうと思えばいくらでも突っ込めますが,2時間飽きることなく楽しませてもらいましたから,許しちゃいましょう。

 ちなみに,運転手を演じるのはジェイミー・フォックス。彼は偉大なミュージシャン,レイ・チャールズの生涯を綴った傑作映画《Ray/レイ》でチャールズ役を見事に演じていた人で,この映画でもとてもいい味を出しています。


 ロサンゼルスでタクシー運転手をしている運転手マックスは,「タクシー運転手は腰掛け。そのうちロールスロイスを買ってリムジン会社を設立するのさ」が口癖の男。そんなある日,女性検事アニーを乗せ,二人の会話が弾み,ちょっといい雰囲気になり,彼女から名刺を手渡されます。そしてそのあと,銀髪の男,ヴィンセントを乗せます。彼はマックスに,「これから仕事で5箇所を回らなければいけないため明朝まで付き合ってほしい。報酬として600ドル出そう」,と破格の好条件を提示します。マックスはその仕事を請け負い,最初の建物でヴィンセントを降ろして待っていると,なんとタクシーの天井に激しい衝撃があり,フロントガラスには人間が! 腰を抜かさんばかりに驚いたマックスが車の外に出ると,そこにはヴィンセントが立っていて,その死体をトランクに入れろと命令するのです。実はこのヴィンセントは殺し屋で,殺されたのは明日行われる麻薬取引の裁判で証言をする予定の人間でした。残り4人の殺害を淡々とこなそうとするヴィンセントと,何とか逃げ出したいマックスの間で緊迫した心理戦が続き,この先,予想もつかない展開が・・・というアクション映画です。


 この映画,最初は,トム・クルーズが珍しく悪役に挑戦したアクション映画だと思って見ていましたが,見終わってみると主人公はむしろタクシー運転手のマックスであり,ダメ男だったマックスが変身していく経過がこの映画の中心テーマではないかと思われます。いつの日にかリムジン会社を設立して・・・という夢ばかり語っているくせに,それへの具体的行動を起こそうともせず,毎日鬱々と暮らしているマックスが,自分と全く異なる人生観と行動規範を持つヴィンセントと行動を共にすることで次第に変化していき,ついに行動を起こすようになる,というのがこの映画の主題ではないかと思います。だからこそ,途中でヴィンセントとマックスの間で交わされる善と悪についての会話や論争が生きてくるんですね。

 そういう意味でこの映画の白眉は重要なデータを入手するためにマックスが麻薬組織のボスと会う場面でしょう。特に,背後に立っている手下どもを見ずに「後ろに控えている連中の銃を降ろせと命令しろ!」という場面は格好よかったです。ここではマックスがタクシードライバーで常に後部座席の客の気配を感じ取っているというのが生きてきます。
 とはいっても,最後の銃撃戦でかすり傷一つ負わずに相手を撃ち殺すというのは,やはり何が何でも都合よすぎたな,という気はしますが,こういう「男が成長する,内面的に変化していく物語」には弱いので,あえて文句をつけるほどの欠点には感じません。


 一方の殺し屋を演じるトム・クルーズですがこちらもよかったです。殺し屋家業をしている凄みには欠けますが(やはり彼,基本的には善人顔ですから),鍛え上げられた細身の体が画面で躍動します。特に全力疾走するシーンはスポーツマンの動きを思わせ,文句なしに素晴らしかったです。また,銃の扱いも見事で,この映画のために特訓を受けたというのも十分にうなづけます。

 また,途中のジャズバーのシーンでのマイルス・デイビスのエピソードの部分は,ジャズ好きにはたまらない場面でしょう。


 ただ,手放し大絶賛傑作映画と言うには,ちょっと難があるのも事実でしょう。

 例えば,殺し屋ヴィンセントは殺し屋であっても凄腕ではないのでは,という感じなんですね。例えば,最初の殺しにしたって,相手が逃げようとする隙を与えてしまったから「あのシーン」になったわけですし,その他の殺しにしてもプロとしては完璧さに欠けているような気がします。まあ,そういう二流の殺し屋だったからマックスと心の交流が生まれてしまったんだろうし,それがあったからマックスの変化も生じたともいえますが・・・・。

 そのほかにも,途中でマックスの母親を訪問するシーンもいい雰囲気なんだけど必然性に欠けてちょっと変だし,上述のジャズバーのシーンでも,もしもバーのマスターが別の答えをしていたらヴィンセントはどうするつもりだったのか,という疑問も残ります。このシーンが素晴らしかっただけに違和感が残りました。


 とはいっても,総体として見れば欠点よりは美点が勝っている素敵なアクション映画です。2時間,飽きることなく楽しめるんじゃないでしょうか。

(2007/12/31)

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