一時代くらい前の火曜サスペンス劇場を思わせる映画でございます。私がこれまで鑑賞してきた「ストーリーがムチャクチャで何がなんだかわからない」というような最底辺レベルの映画ではございません。一応ストーリーはきちんとしていますし,アルプスを背景とする画像もそこそこきれいです(こういうところも火曜サスペンスを彷彿とさせます)。ですが,全体を覆うチープさは隠しようもなく,サスペンスのくせに緊迫感に欠けています。時間つぶしになるかならないか,ギリギリの線でしょうか。
なお,DVDジャケットはあの《SAW》そっくりですが,内容は似ても似つかないものです。恐らく,このジャケットを見て「おお,SAWみたいな映画か?」と間違って借りる人がいることを期待して作ったようです。このジャケットだけは「いい仕事してますねぇ」と褒めてあげましょう。
一応,ストーリーはこんな感じ。
男女5人のグループ(大学生が4人,姉妹が一組)がアルプスの山奥にある別荘に向かうところから始まります。何でも,大学教授の別荘でそこを掃除するというバイトのためらしいです。何とか別荘に到着して掃除を始めますが,一つの部屋に入るとなんと死体が3つ転がっているのです。ビックリ仰天した5人は「まだ殺し屋がいるかも知れないわ!」と別荘から飛び出て,車で町に戻ろうとしますが,何しろ真っ暗闇でおまけに土砂降りの雨と来ています。途中で立ち木に衝突してしまいます。
しょうがないんで死体の転がっている別荘に戻りますが,テレビをつけるとある美術館から時価500万ユーロの宝石が盗み出されたという事件が起きていることを知り,その別荘にあった車から,この3人が犯人であることを知ります。そして,仲間割れから撃ち合いになり,3人とも死んだのだろうということになります。警察に届けようとしますが,何しろ携帯電話は圏外ですし,車もないし,しかも外は真っ暗なので,翌朝を待ちますが,ここで一人の男(前述の姉弟の弟の方)が欲に目がくらんでその宝石をいただこうとたくらみ,死体の口の中から宝石を見つけ出します。どうやら,死ぬ寸前に飲み込んだ模様です。おまけにこの弟と女性の一人が証拠隠滅を図って死体を埋めてしまったのです。そこに警察官が現れ・・・という感じで話しは進みます。これで映画の半分くらいだったと思うけど,そこから先の話を要約するのが面倒なんで,気になる人は見てね。
この手の映画だと,3つの死体が登場したあたりで,もう一人殺人鬼が隠れていて・・・という展開になるか,死体が消えたかと思うと暗闇から襲ってきて・・・なんて方向に展開するのかと思いましたが,そっちの方には話しは進みません。それでは話が進まないだろう,ってんで,前述の強欲弟君が暴走してストーリーを動かしてくれます,というか,こいつが余計なことをしなければよかったのに,という感じです。ある意味,この弟もいい仕事をしているというか,きっちりと仕事をこなしていますね。
えーと,死体の口の中から宝石が見つかるんだけど,何でこいつ,飲み込んだのでしょうか。理由がわかりません。飲み込んだ直後に仲間に撃ち殺された? よく,飲み込む暇があったなぁ,と思います。そういう暇があったら,さっさと銃を撃ったら自分が撃ち殺されなかったのに・・・。
それとこの別荘に向かう道は真昼間でも運転が超怖い山道です。ガードレールもない車一台分の道幅しかない道路だし(もちろん舗装もされていない),おまけにちょっと道を外れたら崖になっています。街路灯も何もなし。あの土砂降りの中でこの道を運転してよく崖から落ちなかったものです。
それと,首輪のほかに指輪も盗まれ,実はその指輪の方が高価だったことが明かされますが,それを美術館側が隠していた理由もよくわかりません。もちろん後で,この事件の黒幕の正体が明かされますが,彼がこの指輪盗難を警察に隠しておくメリットがないような気がします。この「指輪盗難を隠しておく」のが最後のシーンの伏線になっているのはわかりますが,美術館側のメリットって何だったのでしょうか。説明が欲しかったです。
それと,若者5人組がやたらとうるさいです。しかも,「お,こいつが主人公か」という中心人物がいません。もしかしたら,姉妹の姉が主人公なのかもしれませんが,それほどたいした活躍をしているわけじゃないし・・・。
おまけにこの5人には2人の女性が含まれているのですが,どちらも貧乳系でそれほど美人でもありませんし,セクシーショットも皆無です。アメリカのクズ映画だとオッパイのサービスシーンが必ずありますが,さすがは生真面目なドイツ映画ですから,そういう配慮もしていません。あくまでも清く正しい5人組です(・・・金には汚いけどね)。
最後の下り坂暴走シーンも,どうやって車から脱出したのか全く説明なし。猛スピードで走る車から飛び出したとしか思えないけど,片方は崖,片方は切り立った壁みたいな山道ですから,飛び出しても命はないはずなのに,なぜか5人は軽い怪我をしているだけ。
強欲弟君は途中で銃に撃たれて上腕を怪我し,そのために貧血を置き押して倒れるというシーンがあったけど,姉(医学部の学生だぞ)は映画の中で「たいした出血じゃないわ」と言っているし,その後も「出血は腋窩静脈よ」なんて説明しています。しかも,出血の映像はほんのすりむき傷程度。これでなんで貧血を起こしたんだか,訳がわかりません。
そういえば,姉妹が手錠で車のハンドルかなんかに縛り付けられているシーンも,なぜ二人が脱出できたのか説明なし。その前の車を動かすシーンも都合よすぎてジョークかと思っちゃったよ。
そういえば,途中で登場する警官に「昨夜,車を走らせて言ったら鹿が飛び出してきてはねちゃったの」と説明し,それに対して警官が「そんなこと言ったって,あの事故現場からここまでは4キロはあるぞ。その距離を引きずってきたのか?」と質問するシーンがありました。それに対して姉が「鹿は傷を追って動けなかったから,ここまで連れてきて手当てをしてくれたの」と答え,そこで警官の追求はおしまい。常識的に考えても,怪我をした鹿は暴れるはずだし,別荘まで連れてくるのは不可能だぞ。何でこの説明で警官君は納得しちゃうの? 警察官にしては頭悪すぎ!
こんな出来の悪いサスペンス映画なんですが,生意気にも第2作目の《パズラー2》が作られています。騙されたフリをしてそのうち見ちゃおうと思います。
(2007/12/30)