監督はティム・バートンですが,さすがにホラー味の強いファンタジーを撮らせるとうまいですね。首のない騎士とか呪術とか悪魔祓いとか,そういう小道具をふんだんに使っている映画でして,通常こういう設定の映画は見る気を起こさせないものがほとんどですが,これは結構面白かったです。謎解きの要素もあって全てきちんと説明がついているのも気持ちいいし,本質的に「ありえね~」という設定で,しかも最後はどうなるか読めているのに,飽きずに最後まで見たのですから,お見事といっていいでしょう。
主人公にわざわざジョニー・デップをもってきたのに,肝心の主人公が最後までちょっと頼りない感じのため,そのあたりはちょっと惜しい感じです。それを補って余りあるのが,ヒロイン役のクリスティナ・リッチ。美少女子役を脱出して大人の女優になるちょっと前の時期にしかない魅力があって,全体的に暗めの画面の中で彼女は見事に輝いています。
時代は1799年,19世紀を迎えようとしていて,まだ魔女狩りの余波が社会のあちこちに残っています。舞台となっているのはアメリカの田舎のスリーピー・ホロウという町。オランダからの移民が作った町で外との交流があまりない閉鎖的な村です。ここで,首を切り落とすという殺人事件が連続し,しかもその頭部が見つかっていません。この事件を解決するようにニューヨーク市警から派遣されたのがジョニー・デップ演じる若い捜査官。当時はまだ拷問と山勘による捜査が主流でしたが,彼は科学的操作が必要だと主張し,警察幹部からにらまれてこの田舎町に体よく追い払われた感じです。そして,町の有力者たちに事件について尋ねると,それは「首なし騎士が復讐に来たのだ」と教えられます。
南北戦争のときにドイツから戦争に参加した勇猛果敢にして残虐な騎士がいて,彼は次々と敵の首を切り落としていましたが,最後は追い詰められて殺され,首をはねられます。そして首と胴体は一緒に「死人の木」の根元に埋葬されたはずですが,何者かがその首を盗み出し,首を取り戻そうとした騎士の亡霊が夜な夜な現れては首を刎ねている,というのです。もちろん,捜査官は本気にしませんが,やがて自分の目の前に首なし騎士が登場し,有力者の一人の首を刎ねるのを目撃します。
しかし,自分の首が刎ねられなかったことなどから,騎士は手当たり次第に首を刎ねているのでなく,首を盗み出した人間に操られて,その人間の命令で首を刎ねていることに気がつきます。そして,殺された人間の関係を見破った捜査官は,ついに真犯人を探り当てます。しかしその時,首なし騎士は最後の首切りを命令され,最後の犠牲者のもとに疾走しているのでした・・・ってな内容ですね。
首が次々刎ねられる映画なんで,生首がゴロゴロ転がってくるシーンが多い,ちょっとグロですが,心臓に悪いというほど生々しくはないし,血の出方も控えめですので,ホラーはちょっと,という人も比較的安心して見られるかな? むしろ,騎士が首を刎ねるシーンよりも最後のほうで明かされる真犯人が首をチョン切るところがよほど怖いですね。
ちょっと物足りないのは,主人公の捜査官の母親も魔女狩りで殺されたという事件があって,それが彼のトラウマになっているらしいと説明されているのに,それが物語の展開に全く絡んでこないこと。この事件のために,彼が科学的操作一辺倒に傾倒するという説明になっているんだと思いますが,どうせ荒唐無稽な話なんだから,彼の母親が黄泉の世界から蘇って事件の解決に・・・なんて風にしてもよかったかも。あるいは,ヒロインの魔よけのしるしと関連させる,なんて展開もあったかな?
やはり,主人公が怖がりで臆病という性格が最後まで変化しないのが,この手の映画としては物足りないですね。もちろん,最後の最後で首なし騎士との格闘シーンはありますが,ヒーロー的性格はかなり弱いです。せっかくジョニー・デップなんだから勿体ないです。もう少し格好よくて勇敢でもよかったかな。
というわけで,ファンタジックな雰囲気のホラー映画としては,結構よかったと思いますよ。見て損はないでしょう。
(2007/12/10)