《アルティメット・ブレイク》 (2003年,アメリカ)


 これくらい出来も悪いアクション映画ってのも久しぶりだな。私,日本語吹き替え版DVDで観ましたが,登場人物の声を聴いた瞬間,後悔しました。どれも異様に下手です。ほとんど台詞棒読みで,素人としか思えません。おまけに,俳優さんの年齢や性格と,吹き替えの声の質がまったく合っていません。「うわあ,この声はないだろ!」というような人間を選び抜いて吹き替えをさせたとしか思えません。とにかく,15分まで見て,もう観るのを止めようかと思ったくらいひどかったです。

 私はこれまでも,学芸会レベルの吹き替え映画を幾つも観てきましたが,その中でもこの映画は最低レベルだと思います。ま,このクズ映画を見ようという奇特な人はほとんどいないと思いますが,その場合は絶対に日本語吹き替えで見てはいけません。この吹き替えで商品を売ろうとは,ふてえ野郎もいたものです。

 おまけにストーリー展開のテンポが非常に悪いです。紙芝居でも見ているようなまったりとした展開です。これほど緊張感のないアクション映画ってのは本当に珍しいです。博物館にでも飾っておきたいくらいです。


 一応ストーリーはこんな感じです。

 化学工場だったか研究所みたいなところにテロリストが侵入して厳重保管されている核分散物質(って,そりゃあ何だ)ってのが盗み出されるという事件があったんだよ。そしてこの連中はこの物騒なブツを閉鎖寸前の原子力発電所(当然,警備が手薄になっているという設定だ)に侵入し,政府に対して仲間のテロリストの釈放と現金,そして脱出用ジェットを要求するんだよ。しかも運悪く,その工場を視察して「私は失業問題を取り上げています」というプロモーションビデオ撮影をしている州の議員ってのもこの原子力発電所にいたんだよ。でもって,テロリストは撮影クルーと発電所の警備員を全て射殺し,発電所のあちこちに爆弾を仕掛けて政府を脅すわけね。しかし,この州議員とその美人秘書,そして発電所の警備員で元空軍出身のマイク君が生き残り,マイクが美人秘書の助け(?)を借りてテロリストに挑むという素敵な映画なんだよ。

 ううむ,ストーリーを要約しただけでも,かなり無理がある映画だなって思いませんか? でもこの映画は,その予想を裏切るんですよ・・・もちろん,悪い意味で・・・。


 まず,銃撃戦のシーンが何度もありますが,見たことがないほどチャチです。最初の研究所襲撃のシーンからして,テロリスト側が撃つと必ず弾があたりますが,なぜか警察側は全然撃ってきません。テロリストの親玉の姿が丸見えなのに警察側は誰も撃ちません。もちろん,テロリスト側を逃がすための配慮なんですが,すげえ,不自然です。

 そして,原理力発電所のシーンの銃撃戦もすごいですよ。何発も撃たれて銃弾が当たっているのに,なぜか,衣服には血の一滴もついていません。もしかして弾が一発もあたっていないのに死んじゃったんでしょうか。それから,主人公のマイクが何度も危なくなるシーンがありますが,なぜかテロリスト側はマイクが銃を構えるまで待ってくれます。当然,マイク君は無傷のままでテロリストを倒せます。

 マイク君とテロリスト側の格闘シーンが結構ありますが,マイク君,軍隊上がりとは思えないくらい弱いです。ま,主人公なんで最後には勝つんですが,どう見てもテロリスト側の方が強そうに見えます。マイク君,見たところ立派な中年体型ですからしょうがないのかもしれませんが,ビリーズ・ブート・キャンプのDVDを買ってビリー隊長に鍛え直したたほうがいいと思います。


 政府側が爆弾処理に派遣した専門家というのが,いかにも頼りなさそうなお兄ちゃんで,力が抜けます。なんでも核兵器の専門家らしいのですが,ここは仕掛けられた爆弾起爆装置の解体が仕事なのですから,核兵器の専門家を派遣しても意味がないと思います。きちんとした爆弾処理班を派遣すべきですが,もしかして,この映画の監督はそういう知識すらなかったのかもしれません。気がつかないふりをしてあげましょう。

 で,最後にカーチェイスをしながら爆弾の起爆装置を解除します。起爆装置の解除には細心の注意が必要で,普通なら息をするのもはばかられるような緊迫したシーンのはずですが,この映画ではガタガタ揺れる車の中での解除作業となり,銃弾が何度もあちこちにぶつかります。ところが,そんなガタガタ揺れる車中なのに,爆発するそぶりさえ見せないのが爆弾君。お前,やる気あるのか?
 おまけに,核爆弾の専門家が途中で撃ち殺されるのです。ここで普通ならマイク君が「実は俺は昔空軍で爆弾処理もしていたんだ」とか言い出すんだろうと思っていたら,なんと,議員の美人秘書ちゃんが爆弾解除をするんですよ。うひゃああ,よりにもよって,この姉ちゃんに爆弾処理をさせるか? 無茶にも程ってものがあるぜ。


 テロリスト側の人数も原子力発電所側の警備員の人数も,悲しくなるくらい少ないです。合計で10人もいたでしょうか。いくら閉鎖寸前といったって,相手は原子力発電所ですぜ。そりゃあないだろう,と誰しも思います。おまけに,この原子力発電所の中がそこらにある普通の工場の内部と変わらないというのも,物悲しさというか,貧乏映画の悲哀を感じさせます。貧乏が憎いです。貧乏神が取り付いているんです・・・この映画には。

 そうそう,テロリスト側が発電所の周りに地雷を埋めるんだけど,地雷の数はどう見ても10個かそこらしかありません。道をすべて封鎖するんだったら,もっと数が必要ではないかと・・・。ところが,その数少ない地雷を踏んで吹き飛ぶのが議員さん。宝くじを当てるより難しそうなんだけど,見事地雷をピンポイントで踏みます。この議員さん,いい仕事していますねぇ。おまけに,地雷を踏んでも五体満足な姿で吹き飛ぶだけです。オイオイ,地雷の威力をなめてないか?


 そして何より,このテロリストの親玉が何を狙ってこの事件を起こしたのか,何をしたかったのかが最後までわかりません。

 途中でテロリスト側の核兵器の専門家(と日本語吹き替え版では言っていた)が起爆装置を組み立て,結線を全て焦がして黒くし,どれが起爆解除コードかわからないようにし,それから90分後に爆発するようにスイッチを入れる,というシーンがあります。つまり,これ以後,政府側が彼らの要求を呑んで仲間のテロリストの開放を決定したとしても,このテロリスト側も爆発を止めることは出来なくなったわけですよ。オイオイ,という場面です。しかも,爆発したら核爆発だか核分散物質が飛び散るわけで,90分では自分たちも逃げられないと思います。しかも,テロリストの親玉は最後まで「爆弾を処理しようとする車」を追いかけるのですから,何を考えているんだかわかりません。もしかして,異様に頭の悪いテロリストなんでしょうか。


 ホラー映画やモンスターパニック映画ではこれよりひどいクズ映画はいくつもありますが,アクション映画でこのレベルというのは滅多にぶつかりません。いやぁ,いい経験をしました。

(2007/11/08)

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