かつてフランスのトップシンガーだったヴァネッサ・パラディ(Vanessa Paradis,1972/12/22生)主演の,しょうもないクズ映画。ストーリーは一応あるんだけど,あまりにチープな映像とまったりダラダラした進行と全然笑えないギャグの連続が破壊的につまらないです。この映画を作った人たち,一体どういう映画にしたかったんでしょうか。それが最後までわかりませんでした。これがフランスのエスプリ,ってやつ?
シンガーを目指している女の子とスタントマンの恋物語なんですが,ラブロマンスにしてはその方面の描き方が淡白だし,エイリアンが登場するSF映画みたいなんだけど肝心のエイリアンが「3丁目の夕日」時代よりさらに古い造形でチープすぎるし,後半いきなりスプラッターモードになって首がちょん切れたりするし,コメディーらしいんだけどギャグが意味不明だったり濃すぎて笑えなかったりと,色んな要素があるんだけどそのすべてが中途半端で消化不良なんですね。
どうせなら《マーズアタック》とか《エイリアンズ》,《最凶女装計画》くらいぶっ飛んでいればよかったのに,なんだかお行儀よくこじんまりとまとまっているため,破壊的パワーもありません。おフランスのコメディー映画って,私の感覚とちょっとずれているところがあってそれほど笑えなかったりするものが多いのですが,これほど笑えないコメディーというのも久しぶりです。
ちなみにヴァネッサ・パラディというと,一般的にはジョニー・デップの内縁の妻というか,事実上の妻というか,単に籍を入れていないだけの妻として有名で,彼との間に既に2人の子供がいるようです。ちなみに,なぜ籍を入れないかについて,デップさんは「ヴァネッサ・パラディって素敵な名前だろ。でも,俺と結婚したらヴァネッサ・デップになっちゃって格好悪いじゃん」と説明しているとか。
ま,それは置いといて,ヴァネッサ・パラディは14歳の時に「夢見るジョー」という曲で一挙にスターになりました。以前のおフランスでは歌手といえばおじさん,おばさん,とうのたったお姉さんがメインでしたが,美少女がいきなりロリータ風の舌ッ足らずの声で歌ったもんだから,「若い歌手もいいじゃないか」と気がつき,以後,10代の歌手が次々登場したそうです。で,パラディはその後も歌手としていろいろなヒットを飛ばし,映画にも出演していましたが,結婚・出産で一時映画から引退。そして,彼女の久しぶりの復活作品となったのが,2004年公開の当作品らしいです。そういう舞台裏が見えてくると,要するにこの映画って,パラディのプロモーション映画なんじゃないの,ストーリーなんてどうでもよかったんじゃないのというのがわかってきます。ちなみに,この映画で唯一の見所は彼女が歌うシーンで,これが延々と続きますが(だからプロモーション映画なんだってば),歌唱力は素晴らしく魅力的で,美貌も衰えていません。ま,このシーンだけでも元が取れたかも。
この映画で特筆すべきは邦題の見事さでしょう。だって元題は《ATOMIK CIRCUS - LE RETOUR DE JAMES BATAILLE》,つまり《アトミック・サーカス~ジェームス・バタイユの帰還~》ですぜ。どこにもエイリアンなんてありません。要するにこれは,配給会社がちょっとヒットした《エイリアンvsプレデター》の二匹目のドジョウを狙ってつけた邦題なんですね。まさに確信犯ですが,あまりに見事さに笑うしかありません。このタイトルを見たら誰だって,「エイリアンが襲ってきて,ヴァネッサ・パラディが巨大化して歌声でエイリアンを撃退する」なんていう映画を想像しちゃうじゃないですか(・・・私もそう思って借りちゃいました)。
じゃ,こんな素晴らしい日本語タイトルを思いついて,純真なパラディ・ファンを騙そうとしたのは誰なのか。それはおそらく,この映画の配給会社,トルネード・フィルムと思われます。《えびボクサー》,《いかレスラー》,《コアラ課長》なんてのを配給したのもここだったと思うし(ちなみに《えびボクサー》は見ています。超つまらなかったよ),《少林キョンシー》とか《スパイモンキー》なんて素晴らしく魅力的なタイトルの映画も配給しています。この会社ならではの香ばしいかほり漂う日本語タイトルでございます。
一応,映画の内容も紹介しときますか。
舞台はどっかのド田舎(メキシコ人歌手が登場するのでアメリカ南部の田舎かと思ったけど,映画に登場する看板はフランス語が多かったし,登場人物の名前もフランス語だったし,よくわかりません)。前半は,プロ歌手を目指す田舎娘のコンチャ(ヴァネッサ・パラディ)とその村にやってきたスタントマンのジェームズ・バタイユ(ジェイソン・フレミング)の恋物語で,コンチャのお父さんにして村を牛耳っている村長ボスコ(ジャン=ピエール・マリエール)がそれを邪魔する,というありふれた恋物語。パラディは当時32歳ですが,ちょっとロリが入っている色気たっぷりの人妻モードでよろしいです。前半の見所は彼女だけだったな。
バタイユは村の歌祭りみたいなのにスタントショーに呼ばれて参加するんだけど,バイク操作ミスで店をめちゃくちゃにし,これで禁固133年の刑を食らい,哀れムショ行き(何でこのくらいで終身刑同様の「禁固133年」なのか,説明は一切なしだけど,まあ,いいか)。
そう言えば,初めの方で地球に円盤みたいなのが落ちて来るシーンがあったな。忘れてたよ。
で,音楽プロデューサーの男とその秘書の女性が車に乗っていて,プロデューサーは「女は全て自分のもの」と思っていてこの秘書も口説くんだけど,秘書が体を許さないもんだから道路に置き去りにしちゃいます。で,この秘書さん,すぐに「空中浮遊蛸型エイリアン」に顔のお肉を吸い取られて絶命。あっ,そう言えば,このシーンの前に,プロデューサーはエイリアンの触手にお尻を刺されちゃうんだったな。
で,バタイユ君はコンチャ会いたさに脱獄します。脱獄と逃走ですが,迫力ゼロというか,緊迫感は爪のアカほどもありません。
で,前述の音楽プロデューサーが村長ボスコに取り入って,その村で行われるフェスティバルで未来のスターを発掘しようということになり,ボスコは娘のコンチャをプッシュ。コンチャをものにしようと言い寄るプロデューサーですが,エイリアンに刺されたお尻がムズムズしてトイレに入っちゃったため,コンチャは毒牙から逃れます。
で,前後が全然思い出せないんだけど,脱獄したバタイユを助けてくれた男がいるんだけど,会話が全然成立しなくって,おまけに彼のおばあちゃんは腐乱死体だったりとか,飼い犬(どう見てもぬいぐるみみたいなんですが・・・)を虐待している男が長々と登場したりとか,コンチャの暮らすトレーラーハウスにバタイユが近付いたときにエイリアンが襲来するとか,そういう出来事が前後関係不明で起きていたような気がします。
そして,ボスコ主催の音楽フェスティバルがあって,ここでコンチャが長々と歌うシーンがあって,そこにエイリアンの襲撃があって,人間が首をポンポンとちょん切られて血がピュンピュン噴出すシーンが続き,いきなり,何の説明もなくスプラッターモードに突入します。映画前半の「ほのぼの恋愛モード」との落差,大きすぎます。
で,エイリアンに変身した音楽プロデューサー(といっても,頭が「モヤッとボール」みたいになるだけど)がコンチャを拉致します。ここで何故か,「この日を30年待っていた」という正体不明のオヤジが異次元からテレポートして登場。何かの事故でこの親父は死んじゃったみたいだけど,彼が着ていた宇宙服みたいなのをバタイユが借用して着用し,空を飛び,コンチャを助けに向かうのでありました。
映画の画面にかなり忠実にストーリーを紹介したつもりですが,多分,何がなんだか判らないと思います。わからないのが正常です。そういう映画だからです。
あっ,そう言えば,映画のラストにものすごい低レベルの「脱力系オヤジギャグ」がありましたね。日本語吹き替えでも,日本語字幕にも同じギャグが収録されています。これを見た瞬間,どっと疲れを覚えました。地球全体が凍りつくほど寒いオヤジギャグですが,もしかしたら地球温暖化対策に作られた映画のかもしれません。
(2007/10/30)