《インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア》 (1994年,アメリカ)


 一言で言えば,異色の吸血鬼映画。そして,トム・クルーズ(当時はまだ若手俳優というか,アイドルみたいな扱いしか受けていなかった)とブラッド・ピットの競演でもちょっと話題になった映画だったと思う。もう10数年前の映画なんだけど,今見ても設定は新鮮だし,主演二人の演技も結構いい。論理的に矛盾している部分や説明不足の部分はほとんどなく,その意味でもよくできている映画だと思う。

 何が新鮮かというと,徹底的にヴァンパイアの心理というか悩みに焦点を当て,吸血鬼になってしまった男の悲しみ,死ぬこともなく老いることもないという不自然さが生み出す苦痛が見事に描かれているのである。吸血シーンもグロイというよりはエロティックな感じに描かれている。人間は生きるためには他の生物を食べざるを得ないということと,生きるために人間の血を吸わざるを得ないというヴァンパイアの存在のの対比が見事に描かれている。生きることは命をもらうことなんだなぁ,と妙に納得させられるのである。


 主人公ルイス(ブラッド・ピット)は200年前のルイジアナの領主。だが,出産の事故のため(だったかな)若い妻と子供を失ったばかりで,生きる希望を失い,死ぬことばかり考えていた。そんな彼の前に登場したのがヴァンパイアのレスタト(トム・クルーズ)。彼はルイスの血を吸い,死にたければそのまま死ね,生き延びたかっらた永遠の命を与えようと選択枝を与えられ,生き延びることを選び,レスタトの血を飲んでヴァンパイアになる道を選ぶ。

 だが,人間の心を残しているルイスは,自分が生きるために人を殺して血を吸うことをなかなか受け入れられず,ネズミの血を吸って命をつなぎ,苦悩する。しかしそんなある日,母親を病気で亡くしてしまい悲嘆にくれる少女クローディア(キルステン・ダンスト,撮影当時12歳)に出会い,彼女を助けるためにその血を吸って自分の血を飲ませることでヴァンパイアにしてしまう。

 ここから,レスタト,ルイス,クローディアの奇妙な生活が始まる。ルイスと違って優秀なハンターであるクローディアは次々と獲物に狙いを定めては血を吸っていく。しかし,彼女はレスタトにとって自分が危険で邪魔な存在になっていくだろうということに気付き,ルイスと謀ってレスタトを炎で焼き尽くす。

 やがて,ルイスとクローディアはヨーロッパに渡り,そこで暮らすアーマンド率いるヴァンパイア集団と接触し,一時はうまく生活していけるかに思えた。しかし,仲間殺しというタブーを犯したことが咎められ,ルイスとクローディアは窮地に追い込まれる。

 と,こんな感じの映画だろうか。


 まず,レスタト役のトム・クルーズ。当時のトムは確か,アイドル俳優的な存在で,この映画でも名優のクリスチャン・スレイターに比べるとその演技はまだまだだなという感じの部分も多いが,不老不死にして永遠の美青年であるレスタトの退廃的で退廃的でぞっとするほど美しい。この映画はもともと,レスタトとルイス,ルイスとアーマンドの間のボーイズラブというか「やおい系」というか,そっち方面の色彩が強いのだが,レスタトの美しさがあるからそういう設定がごく自然に感じられる。

 そういうトム・クルーズに比べると,ブラッド・ピットはちょっと美しさに欠ける。鼻の形とか頬骨の形とか顎の形とか,無骨すぎるのだ。少なくとも私にとって彼の顔は「美しい」とは思えないし,知的な雰囲気もちょっと薄い。この映画の唯一のミスキャストだったような気がする。

 そういう大人の俳優に混じって,クローディアを演じるのは当時12歳だったキルステン・ダンストだ。これがうまいのなんのって,いたいけな幼子のような表情から妖艶な表情まで無理なく自然に演じ,そのどれもが見事なのである。特に,レスタトを罠にかけ,アヘンを飲ませて殺した子供の血を彼に吸わせ,後ろから顔色一つ変えずにレスタトの首を掻き切るシーンはすごかった。おそらく,彼女の熱演がなかったらこの映画の魅力は半減したのではなかっただろうか。そう思わせるほどの存在感だった。


 さて,ヴァンパイアという生物について生態学的・生物学的に考えてみる。

 まずこの生物の主食は人間,あるいは哺乳類の血液である。この映画では他の食物を摂食するシーンはないため,消化管は血液に含まれるタンパク質の消化吸収に特化しているはずだから,消化酵素も人間より単純だろうし,消化管そのものも単純な構造をしていると予想される。
 逆に,胃は大きいはずだ。人間の全血液を一気に飲み干すことができ,主なターゲットは人間の成人なので,一時的に胃袋に5〜6リットルの血液を貯めておけるだけの容量が最低限必要だ。人間でいた時とヴァンパイアに変身してからで体型が変化していないことから考えても,胃袋の容量が大きくなり,小腸と大腸は短くなっていることは確実だろう。

 次は,吸血によりどのくらいのエネルギーを得ているかだ。体重70キロの人間の場合,血液は5.5kgくらいだ。また,血液の蛋白成分は7〜8%である。つまり,成人男性の全血液を吸ったとして得られる蛋白成分は最大でも440グラムであり,蛋白質1グラムあたり4kcalの熱量として1760kcalでしかない。一日中寝ていて安静にしているならこれでもいいが,ヴァンパイアは夜に活発に活動しているわけなので,どう考えても一晩に二人以上の人間の吸血をしないと追いつかないことになる。まして,従来のヴァンパイア映画では男性より女性が犠牲者(被捕食者)になることが多いのだから,小柄で細身の女性だったら3人くらい一晩に襲わないと生きていけないのではないかと思われる(しかも,若い細身の女性には貧血患者が多いわけだし・・・)

 まして,ヴァンパイアは歳も取らず,かなりの長い年月行き続けているため,ある時点で捕食者であるヴァンパイアと被捕食者である人間の数のバランスが崩れてしまうことは明らかだ。つまり,ヴァンパイアが安定した生態系を維持するためには,何か他のシステムが必要となる。


 それが,棺で眠るという休息様式であり,ヴァンパイア独自の繁殖様式であろう。

 上記のように血液だけで生活するにはカロリーを十分にとることができない。おそらく,棺で眠っている間は代謝を極端に落として冬眠のような状態になっていると予想される。そうすれば,休息時に消費するエネルギーを非常に少なくできるだろう。棺で眠っているヴァンパイアを人間が襲って杭を打ち込むというシーンはよくあるが,これは棺の中では代謝を極端に落としているためにすぐに活動できず,被捕食者である人間に殺されてしまうと解釈すると理に適っている。

 ヴァンパイアの繁殖,増殖形式はどうだろうか。映画を見る限り,血を吸われた相手がそのままヴァンパイアになる様式と,血を吸われてその後にヴァンパイアの血を飲んでヴァンパイアに変身する様式の二つが認められるが,異性間の性交渉によって女性ヴァンパイアが妊娠したり出産したりするシーンは観察されていない。つまり,ヴァンパイアの繁殖は「血を吸った相手がヴァンパイアに変身する」という増殖と,「ヴァンパイアの血を飲まされた人間のみがヴァンパイアに変身する」という増殖の二つがあることになる。
 だが,前者の繁殖様式では捕食者(=ヴァンパイア)が増えるほど被捕食者(=人間)が減ることになり,安定した生態系は維持できず,後者のような増殖様式がメインであろうと予想される。この映画のように「相手を選んでヴァンパイアに変化させる」のがヴァンパイア界で一般的なら,その増殖速度はあまり多くないと予想され,これが,ヴァンパイアが長生きなのにあまり数が増えず,被捕食者(=人間)との数のバランスが崩れないという結果になっているのだろう。


 また,ヴァンパイアが人間の血液を吸っている場面では,血を吸われている人間は恍惚の表情を浮かべ,痛みを訴えるシーンはほとんどないようだ。これを説明するためには,犬歯(牙)の先が非常に細い注射針のような構造になっていて,それをまず皮膚に差し込んで局所麻酔をし,そのあとで犬歯全体を頚部に食い込ませて外頸静脈から吸血していると考えられる。要するに,「蚊の口吻+毒蛇の牙」スタイルである。

 被吸血者の表情から類推すると,このとき血管内にモルヒネ様の物質を注入して中枢神経レベルで鎮痛しているのだろう。このことから考えても,ヴァンパイアの犬歯は中空になっていて,これが特殊に分化した唾液腺(局所麻酔とモルヒネ様物質を分泌)につながっていると類推される。


 うわぁ,また,無駄な考察をしてしまった。

(2007/10/26)

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