ううむ,紹介文を書くのが難しい映画だな。結末というかオチは「あの有名な映画」と同じです,って書いちゃうとそれでおしまいだもんな。「あの映画」を見ないでこの映画を見れば,結構衝撃的なラストにかなり驚くと思うが,「あの映画」を見た後にこの映画を見ちゃうと途中ですべてわかっちゃいます。
ところが製作も発表も「あの映画」よりこちらのほうが1年くらい早いのですが(・・・うろ覚えだけど),なにしろあちらの方が有名なんで,「ああ,あの映画をパクっのか」とあらぬ濡れ衣を着せられてしまうという,とても不幸な役回りに甘んじています。世の中,うまくいかないもんです。
もちろん,ストーリーを表面だけなぞって紹介することは簡単なんだけど,あのラストシーンの意味を書かずに済ませるのもなんだか味気ないし,かといってそれを書いちゃおしまいだし,本当に困りものの映画です。多分,このラストシーンから逆算的に作った映画なんでしょうね。
時代は1945年,つまり第二次大戦末期で,場所はイギリスのジャージー島。ここの古いお屋敷にグレース(二コール・キッドマン)は二人の子供(8歳くらいの姉アンと5歳くらいの弟ニコラス)と暮らしています。彼女の夫は戦争に行って行方不明。ひたすら夫の帰りを待つ日々です。この屋敷部屋は全て分厚いカーテンがかけられ,日光が入らないようになっています。二人の子供は重症の光線過敏症で,ろうそくの光しか耐えられないからです。そして,屋敷のまわりは常に深い霧に包まれ,外を飛んでいるはずのカモメの鳴き声すら聞こえず,世界から切り離されたような雰囲気です。
ところが,その屋敷の使用人がある日突然いなくなるという事件があったらしく,グレースは新たな使用人を募集し,3人がやってきます。ミルズというおばあちゃん,リディアという口の利けない若い娘,そして庭師の老人タトルです。
しかし,この3人が屋敷に加わった頃から,不思議な出来事が連続します。その屋敷には彼らしかいないはずなのに,アンには一人の子供が見えるのです。その子供ビクターはピアニストの父と母がいるとアンに話します。それを機に,ピアノがひとりでに鳴るわ,話し声や歩く音が聞こえるわ,シャンデリアがガタガタ動くわ,怪奇現象の連続です。要するにその屋敷は幽霊屋敷だったのです。
当初,誰かが侵入しているに違いないと思ったグレースは銃を片手に屋敷中を探し回りますが,もちろん誰も見つかりません。そして一冊の古ぼけたアルバムを見つけます。そこには古い写真があり,眠っている人ばかり写されています。するとミルズは「それは眠っているのでなく,死んだ人を生前の姿で写したものだ」と教えてくれます。
怪奇現象の連続に,グレースは神父に来てもらい悪魔祓いをしてもらおうとして外に出ますが,霧の中で迷ってしまい,そこで行方不明だった夫のチャールズに出会います。疲れきった顔をした夫を屋敷に連れ帰り,子供たちは父との再会を喜びます。そして夫は,もう既に戦争が終わったのに,「自分は戦場に戻らなければいけない」と意味不明の言葉を妻に告げ,ある朝突然いなくなります。そして,夫の後を追おうとするグレースの耳に,アンとニコラスの悲鳴が聞こえます。なんと屋敷中のカーテンが全てなくなっているのです。光を恐れて子供をかばいながら暗い部屋を探すグレース。そして,3人の使用人の正体が明らかになり,ビクター一家の正体がわかり,衝撃のラストシーンを迎えます。
というわけで,一種のゴシック系ホラー映画なんですが,結構本格的に怖いです。それも,いかにも怖がらせようというような安っぽい怖さでなく,心の底に迫ってくるような怖さです。屋敷全体は古くて暗いし,分厚いカーテンで窓をふさいでいてもともと暗いし,おまけにグレースが極度に神経質で電灯もラジオも電話も「神経に障る」という理由で置いていません。つまり,普段から屋敷は静まり返っています。この設定だけで結構怖いものがあります。
グレース役のキッドマンの熱演も特筆すべきでしょう。そして,なにより美しいです。特に横顔のラインの美しさは完璧な美といっていいでしょう。しかもグレースがまたムチャクチャ神経質でヒステリックでエキセントリックな性格です。こんなのが母親だったら子供は堪らないよねぇ,というくらい役に入り込んでいます。やはりこういう映画には,彼女のような正統派美人が絶対に必要ですし,暗くて荘重なゴシック調の画面には彼女の美貌がより映えて見えます。
最後の最後で大どんでん返しがある映画で,ここで登場人物たちの役割が全部入れ替わっちゃうという力技が見られますが,それまでにミルズが思わせぶりの台詞があり,これがラストの伏線になっています。全部わかると,なるほど,そういう訳ね,という台詞ばかりです。その意味では非常によくできた映画ですし,完成度は高いと思います。
《アザーズ》という映画タイトルもよく考えられていますね。誰が「アザーズ」なのかは最後の最後にわかる仕掛けになっています。
とはいっても,ツッコミが入れられる部分もありますよ。なぜアンにビクターが見えるのにニコラスには見えなかったのかとか,あの墓に刻まれていた墓碑銘の名前がしっかりと読めないよとか,そういうところですね。他にも,アンは「あの夜の出来事」を覚えていたという設定だと思うけど,だとしたら最初からアンは自分たちが○○だとわかっていたはずで,あの台詞は変じゃないとか,そういうツッコミも入れられますね。
あと,チャールズと子供たち,どうせなら一緒に暮らせるようにしてやったら,もっとすっきりした結末になったような気もします。
というわけで,何とかネタバレせずに映画を紹介してみました。この映画をこれから見ようとするなら,ストーリーのネタバレをしている映画紹介文は絶対に読んではいけません。それから「あの映画」を見ないうちに見ましょう。そうすれば,驚愕のラストが楽しめます。
(2007/10/10)