《ボディ・ダブル》 (1984年,アメリカ)


 1984年公開のちょっと古い映画。監督は,かのヒッチコックを神の如く崇拝・信奉していることで知られている人らしいです。その彼が,ヒッチコックの《裏窓》や《めまい》といった作品をベースにしてというか,それらに見られるさまざまな映画技法を駆使して作ったのがこの映画なんだそうだ。

 だから,ヒッチコック大好きな映画ファンにとっては「ここはあの作品のパクリ,このシーンはこの作品からの引用」と見所満載らしいのですが,私のように,ヒッチコックの《鳥》は大昔,日曜映画劇場で見たことがあるけど,他の作品はよく知らないなぁ,という程度の人間にとっては,面白くもなんともない,単なる二流の粗雑な映画にしか見えません。カメラワークとはかそこそこ面白いし,かなり凝っているんだけど,肝心のストーリーが全く駄目なんだもの。おまけに,意味のないシーンが長々と続いたり,ストーリーが変な方向に進んだりと,基本的なところで方向性が狂っちゃったようにしか思えません。

 要するに,映画監督とその取り巻き連中だけが面白がっていて,それに「ヒッチコックならどの映画も5回以上繰り返してみていて,ワンシーン見ただけでどの場面かわかるよ」というヒッチコック・マニアが賞賛する,という映画ではないでしょうか。


 主人公は三流俳優のジェイク。彼は主演のドラキュラ映画の撮影中に突然閉所恐怖症になってしまい,棺桶の中でパニックを起こして金縛りになる,というシーンから始まります。で,撮影所でボヤが起きて撮影は中止になります。そこで,自宅(といっても妻のキャロル名義の家)に戻ってみると,キャロルは浮気の真っ最中。自分の家でないために彼は家を飛び出て行くしかありません。

 一方,映画監督からは「閉所恐恐怖症のドラキュラ役は要らない」とクビを言い渡され,しょうがないんでいくつかのオーディションを受けますが,どれも不採用。
 そんな彼に役者仲間のサムが声をかけてきて,次第に親しくなります。そして,住まいを探しているジェイクに,「ハリウッドに家があるんだけど,仕事の関係でしばらく留守にするんだ。その間だけでよければ,家に泊まっていいよ」と渡りに船の申し出を受けます。で,サムの家に行ってみたら「空飛ぶ円盤が降りてきて,煙突と合体しました」という21世紀でもビックリするような構造の超豪華な家だったのです。

しかもサムはジェイクに,「おい,これを覗いてみろよ」と望遠鏡をセットします。それを覗くと,向こう側の家のカーテンが開いていて,スケスケ下着姿のお姉さんがストリップまがいに踊っているところが見えるのです。ジェイクによると,毎日この時間になるとその家の人妻さんが踊っているところが見えるのだそうです。そしてサムはあわただしく家を出て行きます。


 そしてジェイクは,日中はオーディション,夜はストリップ鑑賞という日々を送りますが,そのうち,彼女の家を見張っている不審な男がいることに気がついたりします。そしてついに,彼女が外に出て行くのを追いかけるというストーカーまがいの行動に出て,延々と追い回した後に声をかけます。と,そのとき,いきなり男が飛び出してきて彼女のハンドバックをひったくります。もちろんジェイクは追いかけますが,男がトンネルに入ってしまったため,途中で閉所恐怖症が発症して動けなくなってしまい,ようやく追いついた人妻さんに助け出されます。情けないストーカーです。

 しかし,トンネルから出たところで何の前触れもなく,突然のラブシーンに突入。360度,カメラがグリングリンと二人の周りを移動して撮影するシーンです。音楽も高揚しますが,単にこういうシーンが撮りたかっただけのようです。でも,トンネルの出口でいきなりオッパイ露出はないよなぁ,というわけで,それ以上は発展なし。


 で,その晩,またもジェイクが望遠鏡を覗くと,なんと彼女の家に賊が押し入っているところが見えるではありませんか。さっさと警察に連絡しろよと誰もが思うのですが,なぜかジェイクは望遠鏡を見るだけで,いよいよやばくなった時に家を飛び出して彼女の家にダッシュ! 何とか彼女の家に入りますが,その家の犬の襲われて先に進めません。結局,彼女は殺されてしまいます。

 で,警察がようやく来て,彼も取り調べられます。何しろ行動はストーカーそのものだし,おまけに彼女が捨てたパンツを拾ってポケットに入れたりしている立派な変態君ですから,疑われて当然ですが,取調官は「君を疑っているわけではない」ということであっさり無罪放免。

 そして,ジェイクが自宅で何気なくテレビを見ていたら,ホリーというポルノ女優が踊るシーンがあり,あの殺された人妻さんと同じ振り付けで踊っていることに気がつきます。そしてジェイクは,自分が毎晩見ていたのは人妻さんでなくホリーではないかと疑います。そして彼女に近づき,次第に事件の真相に近づいていく・・・ってなストーリーでした。


 ううむ,こうやってあら筋をまとめてみると改めて,この映画がいかに行き当たりばったりな展開の連続かよくわかりますね。どこをとっても,「たまたま偶然」というシーンの連続です。

 サムがジェイクに「隣の人妻ストリップ」を見せるところにしても,ジェイクにそういう趣味がないとか,ほかの家も覗いていたらそっちのほうが面白そうで・・・となったら,その時点でこの映画は成立しません。ジェイクが望遠鏡で覗いているのはありとしても,それで賊らしき奴が侵入していたら,まず何はさておいても警察に連絡ですよね。

 また,人妻さんにストーカーするシーンでも,彼女に何度も顔を見られているのですから,なぜ彼女が「この男,私をつけ回している!」と騒がないのか,すごく不自然です。

 それから,この映画ではジェイクの閉所恐怖症が重要なファクターになっていますが,なぜ突然,彼が閉所恐怖症になるのかの説明が一切なし。おまけに本人が「俺は今まで,閉所恐怖症だったことはない」と話しているのですから,オイオイという気がします。このあたり,もうちょっと丁寧に作ってほしかったです。

 バッグひったくられ事件にしても,彼女のいる部屋の一階上の部屋の住人が偶然いなくなり,そこにジェイクが入り込んで・・・という具合に進行しますが,これも偶然の産物に過ぎません。しかもこの頃になると,ジェイクは「怪しい男」を追うという当初の目的を忘れ,単なるストーカーと化している訳でして,なんだか映画を作っているほうも訳がわからなくなっているような気がします。


 そうそう,人妻さんがブディックでパンティを試着し,それを店の入り口からジェイクがじっと見るというシーンも変。カーテンを半開きにしてパンティを試着するってのはおかしいよね。

 ホリーに近づくために,ジェイクがポルノ男優のオーディションを受けるというのも,無理やりな展開ですね。近づくためだったら,もっといろいろな方法があるし,オーディションに受かったとしても,彼女のお相手になれるかどうかもわからないわけで,効率悪すぎます。単にこのホリー役の女優さんを脱がしたかっただけなんじゃないでしょうか。


 おまけに,ジェイクが事件の真相を追うという必然性も希薄。なぜかというと,彼は最初から事件の容疑者ではないと警察が明言しているからです。自分が疑われていて真犯人を自分の手で探して身の潔白を・・・というような状況は全くありません。

 あと,ホリーが車で連れ去れ,車の中で殴り倒されるのをジェイクが見て,検問中の警察官に「前の車で女性が殴り倒された!」と訴えるシーンも変。だってこの警官,女性が危ないといっているのに,ジェイクを押さえつけようとするんですぜ。これは絶対に変です。

 で,最後の浄水場のシーンもおかしかったな。ホリーを穴に埋めるというのはいいとしても,彼が一人でわずかな時間であれほど深い穴を掘るのは無理です。しかも道具といえばシャベルが一本あるだけ。それでショベルカーでもなければ掘れないような深い穴を掘っちゃうし,穴の壁が異様にきれいです。最後の犬のシーンにしても,あまりにも都合よすぎない?

 おまけに,この事件の真犯人というか黒幕が,映画の最初のほうに少しだけ顔を見せ,その後は全く登場せず,最後に突然登場するのは反則でしょう。とってつけたような解決,ってところです。


 ヒッチコックか何か知らないけれど,要するにこの映画は裸とオッパイとソフトポルノまがいのシーンだけを丁寧に撮影し,そのほかは適当に作った映画じゃないのか,という気がします。多分,草葉の陰でヒッチコックが泣いています。

(2007/07/31)

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