《マーズ・アタック》 (1996年,アメリカ)


 超クダラナイけど,無茶苦茶面白いという,B級映画の見本みたいな映画であり,知っている人も結構多いと思う。監督はかのティム・バートン。

 「火星探査機すら火星に到着しちゃっているのに,いまさら火星人はないでしょう」という1996年に作られた火星人襲来パニック映画です。火星人なんて子供でも信じてないよ,という常識を逆手にとって,頭でっかち,脳みそ剥き出し,体はちっちゃいというチープな火星人を登場させるという禁じ手を使っています。目がまん丸でなんとなくキュートな火星人です。

 ですが,この火星人,ムチャクチャ性格が悪いです。「私たちは平和の使者です」と地球人(というかアメリカ人だけどね)を騙し,地球人側が「おお,それなら仲良くしましょう」と握手しようとした瞬間,いきなり光線銃をばしばし撃ってきます。とはいっても,極悪非道火星人というよりは,糞ガキが悪ふざけをしているような感じなんで,「こいつら,一発殴ったろか! お前ら,いい加減にしろよ!」と,お説教のひとつの言いたくなってくるような感じですね。


 人間はバシバシ殺されるし,光線銃にあたると緑色の骸骨になっちゃうんだけど,凄惨さというかホラー味は皆無です。なんだか,子供が一心不乱にアリを踏み潰しているみたいなんですね。あまりに馬鹿馬鹿しくて,笑うしかないです。

 こういう「アメリカ製パニック映画」の定石として,特定の家族を主人公にして,パニックのさなかに家族がばらばらになるんだけど,愛と信頼でそのパニックに立ち向かい,感動の大円団を迎える,ってのがあります。異なっているのは,夫婦愛か家族愛の違いだけです。だから,この手の映画に慣れてくると,「どうせ,君は最後まで生き残って,今はうまくいっていない娘と仲直りするんだろう? 離婚寸前の奥さんとよりを戻すんだろ?」と楽屋裏が透けて見えます。それがこの手のアメリカ映画の限界かな,という気がします。

 ところが,さすがはティム・バートン,それすら逆手に取ります。凡庸な「ハリウッド・パニック映画」なら主人公を取れそうな家族をいくつも登場させ,全てにそれ相応の役目というか,適材適所というか,そういう使い方をしているのです。特に,「かつてのボクシングチャンピオン」は最高に格好いいです。火星人の脳みそを踏み潰して,廃墟と化した家族の待つ建物に向かう姿は感動的です。同様に,コンピュータ・ゲームばかりしている彼の息子二人も,襲ってくる火星人を次々倒します。ゲームで光線銃の使い方に習熟しているんですね。こういうところが,見ていて気持ちいいです。


 そして何より,火星人を倒す最終手段がいいのですよ。ここで,それまで何度も登場するボケ気味のおばあちゃんと,おばあちゃんっ子の青年が大活躍。それまで,この二人は「雑魚キャラ」にしか見えなかったんだけど,ここでこういう活躍をさせるとは! これが最終兵器だったというのには大笑い。ちなみに,《アタック・オブ・ザ・キラートマト》にも似たような「最終兵器」が使われていましたね。

 そのほかにも,アメリカ大統領役のジャック・ニコルソンを始め,最後の場面に突然,トム・ジョーンズが登場するなど,ギャラが高そうな俳優さんがチョイ役で顔を出しています。何でこんな映画に出演したんでしょうか。ボランティアなんでしょうか,チャリティーなんでしょうか。


 要するに,名優たちによる,おちゃらけ・悪ふざけ系,感動系,ハチャメチャ系,パニック系アホ映画です。こういう映画,私は大好きです。

(2007/07/13)

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