巨大クモはモンスターパニック映画の定番中の定番だが,大体どれも面白くない。クモの動きがぎこちなかったり,ストーリーが平凡すぎたり,設定が無理すぎたりして,鑑賞に耐えるレベルのものとなるとそれほど多くない。その中にあってこの《スパイダー・パニック》は結構いい線をいっていると思う。ストーリーはそれなりにまともだし,登場人物も十分に描かれているし,小道具や小さなエピソードも十分に生かされている。あのスタンガンがあそこで使われるとは思わなかったな。
そして,随所に挿入される,いろいろな映画のパロディーやパクリがこれまたいい味を出しているし,コミカルな会話やしぐさも笑わせてくれる。第一,重要な登場人物であるクモ・ヲタク少年のメガネ姿,どうみても《ハリー・ポッター》そのままじゃん。
もちろん,感動映画でもなんでもないただのB級映画なんだけど,暇つぶしには十分でしょう。
一応,ストーリー紹介ね。
舞台はアメリカの片田舎のかつての炭鉱町。以前は鉱山で潤っていたけど,今では鉱山は閉鎖同然,町もすっかり寂れています。で,有毒な廃棄物が入ったドラム缶を積んだトラックが事故を起こしてそのドラム缶が湖に落ちちゃうところから始まります。で,近くに住んでいるクモ・マニアのおっさんがさまざまな種類のクモを飼っていて,その湖のあたりでクモの餌となるコオロギを採取するのが日課なんですね。そして普段見かけないコオロギを見つけ,それを餌として与えたら,クモ君たち,食欲が増して体も普通の倍くらい大きくなっちゃう。もちろん,お約束の「有毒廃棄物による副作用」ってやつです。
で,そのクモおじさんのところに入り浸っているのがクモ・ヲタク少年のマイク。もちろんクモについてよく知っていて,クモ軍団と対決するシーンでは彼の知識(クモは振動に敏感とか,香水の香りが嫌いとか)が遺憾なく発揮されます。
一方,この町の町長がいるんだけど,どうやら製薬会社(だったかな?)に町ごと売り払って移転させようとしています。この町の地下を走っている鉱山の坑道を産業廃棄物のゴミ箱にしようというのが本当の狙いです。
そして,かつての鉱山の所有者の息子(クリス)が鉱山を復活させようと10年ぶりに町に戻ってきますが,町長の計画の胡散臭さに感づきます。そして彼のかつての恋人で現在は町の保安官をしている女性(サム),彼女の息子(マイク)と娘,その娘の遊び相手の青年(=町長の息子),そして,トレーラー・ハウスで個人ラジオ放送で毎日,政府の陰謀とエイリアン襲来を警戒せよと呼びかける青年とかが絡んできます。
で,巨大化したクモはまず,クモ・マニアを襲い,町民のペットたちを襲い,ダチョウ牧場のダチョウを襲います。最初は猫くらいのサイズだったのが次第に大きくなり,最後のほうに登場するメスは人間より大きくなります。ちなみに,随所でマイク君がクモの生態やら性質について教えてくれますが,クモの種類によって動き方や餌の取り方が違っているのがよくわかります。
女性保安官は町が巨大クモに襲われていることを町民に連絡し(ここで個人ラジオ局が大活躍),町唯一のショッピングモールに逃げ込むように指示を出します。町で一番頑丈な建物だからです。
しかし,外にはクモ君たちががウジャウジャ集まってきます。シャッターが破られるのも時間の問題です。でも,そこはさすがはアメリカのショッピングモール,何でも売っているわけで,もちろん,銃も武器も並んでいるし,農機具だって武器になるし,アイスホッケーのマスクをかぶってチェーンソーで身構えるやつも出てくるわけです。
そのあと,シャッターは破られるわ,そこから子クモ(といっても猫くらいでかいけど)がウジャウジャ入ってくるわ,助けを呼ぶために屋上の鉄塔に登って携帯電話をかけるわ(モールの中は圏外なのだよ),そこをクモ軍団が襲ってくるわ,モールの倉庫から坑道に逃げるわ,逃げた坑道にクモの巣穴があるわ,坑道の中はメタンが漏れていて銃が撃てないわ,それなのにクモ軍団が襲ってくるわ,クリスがサムに思いを打ち明けようとするけど口下手で伝えられないわ,クモに捕まえられた叔母さんが生きているわ,次々と事件が続きます。
で,最後はお約束の坑道爆破でクモ全滅を狙いますが,燃料がないために発電機が動かせません。そして,坑道をバイクで失踪するクリスをクモ軍団が追いかけてきます。絶体絶命のそのとき・・・ってな映画でした。
もちろん,ツッコミは入れられますよ。
まず,この映画の悪役といえば町長さんですが,あまり悪役悪役してません。通常のこの手の映画であれば,「悪徳町長の経営する会社が違法に廃棄した汚染物質でモンスターが発生し」というのがお約束なんですが,この映画の場合は,事の発端は単なる交通事故ですから,そのあたりはちょっと勧善懲悪色が薄いです。
クリスが叔母さんを助けるシーンも結構長いのですが,その間,なぜクモ君たちが襲ってこないのか,かなり不自然。そのほかにも,「クモはなぜ襲ってこない?」というシーン,結構ありましたね。
「叔母さんだけが生き残っていた」という説明も不自然すぎ。捕まえられた全員の生死をいつチェックしたんだ,とツッコミが入ります。もちろん,全ての生死をチェックしていたらクモに食われちゃうけど,最後の坑道大爆発シーンでは「叔母さんみたいに生き残っていた人たちは結局,クモ軍団と一緒に爆殺されちゃったわけ?」と後味が悪かったです。
というわけで,最初から最後まで,クモ君たちが出ずっぱりの映画ですから,クモが大嫌いという人は絶対に見ないほうがいいです。
(2007/07/10)