《ウルトラヴァイオレット》 (2006年,アメリカ)


 スタイル抜群の美人女優さん主演のアクション映画ってのがあります。アンジェリーナ・ジョリーの《トゥーム・レイダー》とか,ケイト・ベッキンセイルの《アンダーワールド》とかの系統ですが,この映画もそのひとつです。

 主演はモデル出身のミラ・ジョヴォヴィッチで,もちろん溜息が出るほどの美人です。そして完璧なバディはこれまた非の打ち所がありません。その彼女が漆黒のストレートヘアをなびかせながら,さまざまな武器を駆使して群がる敵をバッタバッタとなぎ倒すのですよ。彼女の手足のしなやかな動きも見事ですが,髪の毛の動きがこれまた美しく,シャンプーのコマーシャルかと思ってしまうくらいです。しかも,彼女はほぼ全シーンに登場し,これでもかこれでもかと彼女の顔がアップになります。しかもいつでもヘソ出しルックで,引き締まった腹部を拝ませてくれます。まさに,ミラ・ジョヴォヴィッチのための映画です。


 でも,映画としては全然面白くありません。心に残るものがまったくないし,訴えかけてくるものもないし,ストーリーは単純なはずなのになぜか必要以上にゴチャゴチャした印象しかありません。要するに,中身がスカスカなのです。90分弱と長くなく,展開はスピーディーなのに,なぜか「このシーン,前にもあったよね」と言う気分になり,集中力を持続させるのが難しくなってきます。

 もちろん,カメラが嘗め回すように映す彼女の顔や,引き締まったお尻や腹部を見ている分には十分に嬉しいし,後姿だけですがヌードは見せてくれるワンカットはあるし,随所に登場する[未来の武器」やら[未来の携帯電話]などの小物はそれだけでも楽しめましたが,結局,それしか記憶に残っていないのです。そうである以上,やはり映画としては失敗作でしょう。


 で,どういう映画かというと,アメリカ軍だったかが作ったウィルスがあって,それが人に感染し,感染患者は[ファージ」と呼ばれます。ファージは超人的な運動能力を身につけますが,どうやら感染後12年くらいで死んでしまうのです。ちなみに映画を見る限り,感染は血液を介して起こるようで,感染者の血液に触れるような状態でないと感染しないようです。

 で,政府(?)はファージを一掃しようとし,ファージ側は政府に抵抗するための地下組織を作って生き残りをはかります。ジョヴォヴィッチ扮するヒロインのヴァイオレットはファージ側の最高の殺し屋です。そして,ファージを絶滅させるための最後の切り札の開発に成功したという情報を受け,その最終兵器を盗み出すためにヴァイオレットが潜入します。彼女はその兵器を見事に盗み出しますが,なんとそれは9歳の男のだったのです。彼の血液内には,ファージを殺すタンパク質(と説明してあった)が含まれています。自分の子供を亡くした過去のあるヴァイオレットは彼を助けようとし,政府側と凄絶な戦いを繰り広げるのでありました。


 これだけだったら別に混乱することもないのですが,子供の血液にはそういうタンパク質が見つからないとか,実は別の物質があるとか,実はファージでなく人間側に害をなすんだとか,短い間に説明が二転三転します。敵のボスキャラについての説明も不足気味です。
 そもそも,なぜ政府がファージ全滅を計画したのかがよくわかりません。このあたりがしっかりと説明されていないため,この映画全体の世界観がちっとも伝わってきません。このあたりは明らかに,基本設計のミス。

 そして,あまりにもヴァイオレットに都合よすぎる展開が連続します。10人ほどの敵に囲まれているのに,彼女が一回転すると全員が倒されているというのは,一回だけなら使ってもいいでしょうが,二度三度となると,ちょっとなぁ,という気がします。ここはやひゃり,一人一人の敵を倒すシーンをスローモーションで入れるべきでしたね。


 というわけで,この映画は徹頭徹尾,「ジョヴォヴィッチの,ジョヴォヴィッチのための,ジョヴォヴィッチによる」作品であり,それ以上でもそれ以下でもありません。時間が余っている時に見る分にはいいと思いますけどね。

(2007/07/06)

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