《合衆国沈没》 (2004年,アメリカ)


 見所もなければ誉めるところもない,単なる低予算クズ・パニック映画。見るだけ時間の無駄です。間違ってもレンタルショップで借りてはいけません。

 あっ,一つだけ誉めるべき部分がありました。この邦題を考えついた人です。すごいですねぇ,このタイトル。要するにこの映画は,フロリダのパハロ島っていう小さな島で起きた地震のことを描いた映画なのに,いきなり「合衆国」ときました。大風呂敷を目一杯,拡げまくったタイトルです。ナイスです。《日本沈没》のパクリだってのはミエミエだけど,これで《合衆国沈没》と命名しちゃう度胸には恐れ入りました。

 そして,それに輪をかけて

フロリダの海水浴場から、男性の焼死体が引き上げられた。原因は海底に現れた亀裂から出る、高温の蒸気。亀裂は大地震の前兆だった。自然災害を目の当たりにした人間たちのリアルな姿を描いた、パニック・アクション大作!
と宣伝しちゃう映画配給会社もいい味だしてます。おまけに,DVDのジャケットにあるようなシーンは全然ありません。要するにはっきり言えば,「素人が作って詐欺師が宣伝した」映画です。


 そして,パニック映画というのに緊迫感ゼロ。大地震だと言う割には被害者ものんびりムードだし,地下室に閉じこめられた連中も意味もなくウロウロしているだけだし,救援隊は全然来ないし,化学工場の消火にあたるのはたった一人で,おまけにこいつは屋根に適当に水をかけているだけです。やる気が全く感じられない素晴らしい演技を披露してくれます。この「一人消防隊」がホースで水をかけているシーンは花壇の水撒きみたいにしか見えず,こいつが画面に映るたびにほんわかしたムードが漂います。

 そういえば,けが人に包帯を巻いているシーンがあったけど,なぜか服の袖の上から包帯を巻いていたりします。このワンシーンだけでもわかりますが,要するに,万事いい加減な映画なんですよ。


 また,地震のシーンがこれまたひどい,ヒドイ,誹怒縊,ひどぅ-ぅおい。マグニチュード8の大地震という割には,地割れが起こるわけでもなければ崖が崩れるわけでもなく,画面が揺れるだけで,どうやらこれはカメラをグラグラ揺らしているだけじゃないかと思われます。車がハンドルを取られて衝突する事故が2件くらい起きるけど,画面の作りが雑すぎて説得力はゼロです。全壊しちゃう家は見るからにペラペラで,地震でなくそよ風が吹いただけでも倒れそうな風情です。

 これだけでも目を覆わんばかりの惨状なのに,なぜか砂浜が爆発するシーンがあったりして,それは地震じゃないだろう,というツッコミが四方八方から入るはずです。

 そういえば,海底から熱水が噴き出しているシーンで始まり,泳いでいた若者が「焼死体」として発見されるのが始まりだったけど,海中で焼死ってのは物理的に不可能だと思うぞ・・・ま,どうでもいいけど。それと,このシーンから海底が震源地と思われるのですが,マグニチュード8なのに津波一つ起こりません。もしかしたら,映画監督も脚本家も,地震というものを知らないじゃないかと思います。


 で,こういう低予算映画の常として,登場人物は最小限に押さえています。台詞(せりふ)がきちんと割り振られている人間は,一応,主人公らしい地震学が専門の大学教授,教授の妻で設計の仕事をしている女性(ちなみに二人が離婚寸前,というのはアメリカ映画のお約束ですね),教授の教え子の男子学生,妻の父親である保安官,保安官助手が2名ほど,妻の上司の男,妻の秘書みたいなことをしている若い女性(とはいっても,本当の役目は「胸の谷間」披露です),彼女とつき合っている電気技師,前述の一人消防隊,そして,テレビレポーターの全然可愛くない姉ちゃん,これだけです。人間関係が異様に濃ゆいです。

 で,建設中の建物で仕事中に地震にあった教授の妻,その上司,妻の秘書,電気技師が地下室に避難して閉じこめられます。そして,残りの人たちが建物の外から救出する側に回るのですが,どう考えても,この登場人物では救助に向かう人間が足りませんよね。かといって,レスキュー係に新たな俳優を雇う金は残っていません。さぁ,あなたならどうする?







 そこでこの映画はどうしたか。なんと,教授と男子大学生がなぜかレスキュー係になって崩れかかった建物の中に入り,4人を助けようとするのですよ。保安官が「君はこういうことをしたことがあるのか?」と尋ねると,教授は一言,「初めてだよ」だってさ。

 オイオイ,それは無謀ってもんです。素人が下手に動くと二次災害が起こるというのは常識です。映画を見ている誰もがそう思っていると,やはり,彼らの行動に合わせたかのように大きな余震が起きて,哀れ,男子学生は倒れてきた壁に押しつぶされて御昇天。だから,最初から無理だってば。

 しかし,救援隊は待てど暮らせどやってくる気配もないし,教授はまた仕方なしに(?)レスキュー隊のまねごとを再開しちゃうのでありました。


 で,閉じこめられた連中は「これから救援に向かう」という外からの連絡があったのに,なぜか中をうろうろ動き回り,事態をさらに悪化させたりします(いわゆる一つの「お約束」ってやつだな)。そして,地下でつながっているどっかの工場の地下に到着。ここが深い縦穴みたいになっていて,天井は地表につながっています。

 そこで彼らのとった行動がすごいです。「周りにある物を積み上げて外に出よう」という計画です。どう見ても20メートルくらいの深さがあるんで,物を積み重ねても外に出られるほどは高くならないよ,それは無理だろうと観客全員が思っているのですが,なぜか彼らは無謀にも積み上げ始めます。でも,すぐに「そんなの不可能だよ」と気がつきます。行動する前に気がつけよ,君たち!

 すると,レスキュー担当の教授がなぜか偶然にも,その縦穴の入り口に到着して,ロープを体に巻き付けて降り始めます。穴の底に4人がいるのは見えているのですが,なぜか,お互いに全く気がつかきません。お互いにでかい声で会話しているのに,お互いの声だけ聞こえないという超常現象が起きます。

 ま,それはいいとしても,常識的に考えれば教授は下にロープを投げ入れ,「これで登ってこい」って言えばいいと誰でも思いつくんですが,なぜか教授は自分が降りようとします。教授,頭悪いんじゃないかと思います。すると見計らったように余震が起きます。


 そういえば,妻の秘書の若い女性は糖尿病患者でインスリンの注射をしなければいけない,という設定で,これがタイムリミット型サスペンスのネタになっているのですが,なぜか途中から患者本人も映画監督も忘れちゃいます。映画終了時にはまだインスリンを打っていないのですが,「インスリンの注射をしなければ大変」な状態ではなく,電気技師君とイチャイチャしたりしてとても元気そうです。君の糖尿病,いつ治っちゃったの?

(2007/05/14)

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