こんな映画も作れるのか,と感心した作品です。とにかく,アイディアがすばらしいです。ある戯曲を元に映画化したらしいですが,これほど緻密な心理ドラマとして映像化できるんですね。感心と感動は違いますが,このレベルとなると感動するしかないです。
舞台となるのはモーテル(といっても,日本のモーテルでなくアメリカのモーター・ホテルね)の一室,登場するのは3人だけで,3人の会話だけで進行しますが,研ぎ澄まされた刃(やいば)のように言葉が飛び交い,余計な言葉は一つもありません。しかも,その会話の中から3人の過去と現在,性格,人生観が見事に浮き彫りにされていきます。
主人公のヴィンスのあまりにしつこい追求ぶりは「こいつ,おかしいんじゃないか?」と最初は思いましたが,なぜ彼が過去の事件にそこまでこだわるのかが次第にわかってきて,それがまた,もう一人の男,ジョンとの性格の違いを際だたせています。このあたりの説得力も見事です。
3人はかつて高校の同級生でしたが,ヴィンスは消防士と名乗るものの実は麻薬の密売人,ジョンは映画監督,そしてエイミーはエリート地方検事補と,3人は高校卒業後に全く異なった道を歩んでいます。高校時代,ヴィンスとエイミーは長くつきあっていましたが,その後別れ,ジョンとエイミーが一時期つき合っていたようです。ジョンとヴィンスは高校時代からの親友というか,いわゆる腐れ縁的なつき合いを続けているようです。
そしてその街で映画祭が開催され,ジョンが監督する映画が出品されて,ヴィンスがジョンに「久しぶりに会おうぜ!」と連絡してきたのが事の発端でした。ジョンはヴィンスが泊まる安モーテルの部屋を訪れ,旧交を温めます。当初,ちゃらんぽらんな生活をしているヴィンスをジョンがたしなめるような感じですが,次第に,ジョンとエイミーの間に何があったのかをしつこく問いつめ,やがてヴィンスが優位に立っていきます。このあたりのヴィンスのしつこい追求の仕方には見ている方も苛立つくらいに執拗です。そして,この映画のタイトルである「テープ」が登場します。
そしてそこにエイミーが参加。そして,「あの晩」の出来事を巡ってジョンとエイミーの捉え方の違いから二人の対立が起こり,そして,ヴィンスがなぜそこまでその出来事に執着するのかが,次第に明らかになっていきます。そこで,エイミーが外に一本の電話をかけたことから事態は急展開し,さらにドラマは緊迫の度合いを増します。
過去と現在,愛と憎しみが交錯する心理劇をどのようにして決着させるのか,この部屋から一番最初に外に出るのは誰なのか,3人はその過去の出来事にどうやって折り合いを付けるのか,それは見てのお楽しみですが,実に見事な結末で唸るしかありません。このシーンのエイミー,すごく格好いいです。
また,情け容赦ないシリアスな心理劇なのに,要所要所に垣間見られるユーモアが救いになっています。最後のエンドロールで流れる歌の歌詞と相まって,見終わったときには爽やかさすら感じさせます。
いやはや,脱帽するしかない見事な傑作でした。
(2007/05/02)