《アース・トゥルーパーズ 地球防衛軍VS巨大蟻軍団》(2005年,アメリカ)


 これまで数々のクズ映画を見てきた私の記憶の中でも,第一級のひどさを誇る超愚作です。これよりひどい映画となると,それほど多くありません。筋金入りの駄作,クズ映画界の至宝と呼ぶべき作品かもしれません。

 というか,これは映画とは呼べない代物です。では,これはなにか,単なる画像です。一つの作品にまとめる段階以前の代物です。それをダラダラと1時間半も見せてくれるわけです。これを売り物として店頭に並べたこと自体が間違っています。ひどい映画の評価として,「学生が仲間内のウケをねらって作った自主制作映画並にひどい映画」という基準がありますが,それにすら達していません。つまり,最低基準にすら達していません。

 要するに「出来が悪い映画」ではなく,「まだ出来上がっていない映画,作りかけの映画」,「途中で完成を諦めた映画」です。


 ところがこの映画は生意気にもこんな風に紹介されています。

 巨大隕石が地球に衝突。全世界は壊滅的なダメージを負ってしまう。だが、それはこれから起こる壊滅の始まりでしかなかった……。
 隕石の影響か、数千年の間、地球の核深くに眠っていた巨大な蟻の軍団が目覚めたのだ。数千年間何も食べていない蟻達は、崩壊した地球に襲いかかる。それを阻止するため、人類は地球防衛隊を組織。かくして、生存を掛けた死闘が幕をあけた。

 ワハハ,ほとんど嘘ですね。


 冒頭,巨大隕石が地球を襲うシーンから始まって,それで地球壊滅か,なんて思わせるんだけど,全然そういうことはなくて,じゃあ,さっきの隕石って何? なんて思いはじめたころ,その隕石の影響で氷河に氷付けされていた巨大蟻が見つかるんだよ。で,その巨大蟻を使って一儲けしよう考えているらしいグループがいて,蟻の研究第一人者の教授が協力を要請されるんだけど,胡散臭いんで協力を拒否しちゃって,なんだかウダウダしているうちに,巨大蟻が逃げ出しちゃって施設の中をうろついては人を襲い始めちゃう。

 施設から逃げ出した教授を助けるレインジャー部隊がいきなり唐突に登場して,「蟻一儲けグループ」の連中と唐突なカンフーアクション・シーンになっちゃって,なんだかグダグダした山中でのカンフーシーンが続いているなぁ,と眠くなりかけた頃,アメリカの都市に巨大蟻が出現して,地球防衛軍(といってもアメリカ軍だけど)が出動して蟻一匹倒すのにミサイルを撃ち込んだり,地下鉄トンネルの中の巨大蟻をを電車が吹き飛ばしたりして,蟻研究家の娘が軍のヘリを盗んで操縦して巨大女王蟻と空中戦をしたり,自由の女神の頭もギザギザで女王蟻を刺し殺したりする映画です。で,最後に巨大テントウムシが登場して映画はお終い。


 このあらすじを見て,「それって何? 全然判らない」と思われたと思いますが,実は本当にこの通りなのです。ストーリーらしきものを理解すること自体が難しいのです。

 「だからこのシーンは何なの?」「これって一体どういう意味なの?」なんて最初は思いながら見ていましたが,最初の10分でそういう疑問を持っても無駄な映画だと悟りました。ストーリーが無茶苦茶とか,作りがチープだとか,整合性が全くないとか,無駄に寒いギャグが挟まれるとか,それ以前の映画だからです。とにかく「映画」以前の出来だということは,最初の数分で嫌と言うほど味わえるはずです。

 また,映像がすごいですよ。明らかにテレビのニュースの画像そのまんまじゃないの,というシーンがたくさんあるし,どう見ても他の映画の一部分だけ盗んで(?)張り付けたな,というシーンもあるし,そこだけ映画の画質が違っています。「取って付けたような」というより「盗って付けた」ですね。

 たとえば,戦闘機やヘリの映像は,軍の宣伝用,あるいはニュースで流された映像の転用と思われますし,何かのデモ行進と思われる画像を撮っておいてそれを「逃げまどう人たち」に流用している部分もあります。前述の「カンフーアクション」は明らかに別映画のもので,その証拠に,この「教授を助けにきたレンジャー隊員みたいなの」はそれ以後全然登場しません。おまけに,映画前半を盛り上げてくれた「巨大蟻を使って一儲け」グループもそれ以後は出番なし。

 そういえば,地球防衛隊作戦本部(?)と思われる部屋もチープでナイスです。そんなに広くない部屋の壁に黒いビニールシート(というより,ただのゴミ袋)を張っただけで,パソコン数台と電話しかおいてありません。こんな装備で地球防衛隊,って名乗られてもなぁ・・・。


 おまけに,巨大蟻を倒す「蟻の嫌いな音を発する機械」を発明するのは,「蟻の専門家」の教授じゃないのですよ。これって,この手の映画としては掟破りですよね。この教授,主人公のくせに活躍する場がないんだから,せめて機械の発明くらいさせてあげたかったです。

 この「巨大蟻撃退装置」を発明するのは,全然笑えないギャグと素人より下手な演技で見ているものを心を寒くしてくれる発明家親子なんですが,こいつら,どう見てもまともじゃないです。変な親子と言うより,アブナイ親子,ヤバイ父子です。

 そして,この「蟻の嫌いな音」を町中に放送して蟻退治をするのですが,ここで活躍するのが,教授の娘で交通情報のアナウンサーをしているお姉ちゃん。教授と娘の「「父と娘の心のすれ違いと和解」がこの映画の隠しテーマらしいのですが,それがしつこすぎてうざったいです。そしてこの娘が軍用ヘリの操縦ができて女王蟻を倒すというのですから,強引さもここまでくると笑うしかありません。


 全然リアルさのない巨大蟻の造形といい,戦闘シーンのしょぼさといい,どう見ても1960年頃の出来の悪いSF映画を彷彿とさせるのですが,なんとこの映画,2005年にアメリカで作られたものなんですよ。アメリカ映画というと金にあかせたハリウッド映画ばかり思い浮かべますが,こんなにビンボ臭い映画もあるんだなぁ,格差社会は映画界にも及んでいるんだなぁ,と考えさせますね。

 そういえば,途中で「ハリウッドに巨大蟻が現れ,ハリウッドのあの有名な看板によじ登り,そこに軍のヘリがミサイルを撃ち込み,ハリウッドの看板をめちゃくちゃにする」というシーンがありましたが,これは《キングスパイダー》という映画にも出てきました。よほど,ハリウッドに恨みがあるんでしょうね。

(2007/04/29)

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