《インサイド・マン》 (2006年,アメリカ)


 デンゼル・ワシントン,クライヴ・オーウェン,ジョディ・フォスターなどの有名どころが顔を揃えた秀作サスペンス映画。犯人側のボス(ダルトン)と担当捜査官(フレイジャー),交渉人(ホワイト)の心理戦,頭脳戦がスリリングな映画です。それから,多くの伏線が張られていて,それがきちんと生かされている点は気持ちよかったです。冒頭のダルトンの謎めいた独白は最後の方でその意味が明かされるし,穴を掘った意味も分かるし,ダルトンの周到な計画には「ああ,なるほどね」と納得させられます。

 また,映画の原題の Inside Man, つまり,内通者とかスパイなどの意味だけど,最後の最後にInside Manが誰なのか,明らかになります。ここらも気持ちいいです。

 だけど,よくよく考えるてみると一番肝心な部分がよくわからないと言うか,それについての謎解きがないため(これらについては後述します),それがあったら超一流のクライムムービーだったろうなと思います。


 ある銀行に武装した4人が乗り込み,行員と客,30人ほどを人質にするところから始まります。事件を担当するのはデンゼル・ワシントン扮する黒人刑事です。当初,犯人側から何の要求もなく,ただ,食料の差し入れを求めるメッセージが出るのみです。その後,バス2台とジャンボジェット機を用意しろと言う要求が出されます。当然,警察側は引き延ばし作戦に出ます。

 その一方,その銀行の創業者が辣腕弁護士ホワイト(ジョディ・フォスター)に犯人との交渉をするように依頼があり,どうやらその銀行の貸金庫に何か秘密があることが明らかになってきます。

 銀行内の人質たちは下着姿にされたかと思うと,犯人と同じ格好をするように命じられます。映画では,このシーンと交互に,人質たちが警察側に一人一人尋問を受ける様子が映し出され,どうやら,人質に紛れて犯人側が逃げる計画であることがこの時点でわかります。

 警察側の引き延ばし交渉に動じることなく,犯人側は金庫を開けるでもなく,人質を数人ごとの部屋に押し込めては顔を隠すように命じたり,時々部屋を移したりして,人質側にも誰が犯人なのかわかりません。

 そしてついに警官たちが突入しますが,人質と犯人側は一緒に逃げだして警察に拘束されますが,誰が犯人かも分からず,犯罪歴のある人間も見つからず,おまけに盗まれた金もないため,結局,捜査は打ち切りになってしまいます。

 しかし,諦めきれないフレイジャーは事件を追い,ついに真相を知る・・・という映画です。


 前述のように,個々のシーンの行動や言葉の意味は,どれもきちんと説明されます。その点では良心的に作られた映画です。しかし,どうしても解決できない疑問点がいくつもあるんですよ。そのあたりが気になるかどうかで,この映画の評価は変わってくるような気がします。

 まず,最大の疑問点は,なぜダルトンは○○の秘密を知ったのか,という点です。○○の犠牲者の関係者というわけでもなさそうだし,そもそもこの事件そのものは知る人もいないわけですから,なぜ今頃になってダルトンがそれを知ったのかは,やはり説明すべきだったと思います。

 それと,彼と一緒に押し入った3人(と,数人のinside man)は,この計画に荷担するメリットがないのもおかしいです。だって,いくら綿密に脱出計画を立てていたとしても,何かのトラブルで捕まり,犯人だと分かった場合,監禁罪に問われることは避けられません(ま,司法取引ってのもあるけど)。そんな危険を冒してまで,この計画に彼らが参加したのはなぜなんでしょうか。何しろ,最後の最後にダルトンが「何も盗み出さない」のです。それなのに,この一味は誰一人としてそれを非難するわけでもないのです。利益も何も得られず,ただ単に危険なだけの犯罪に荷担する意味がありません。このあたりも説明も皆無でした。


 そして,人質たちに紛れて犯人が逃げるというアイディアはいいとしても,警察側がポリグラフ(いわゆる,ウソ発見器)を使えば,犯人一味は数人いるのですから,一人や二人は共犯者だとわかったはずです。なぜ警察側はポリグラフを使わなかったのでしょうか。

 そして最大の難点は,そもそも,なぜ,ダルトンはこの計画を立てたのか,何が目的だったのか,という点が不明なところにあります。仮に,○○の過去の犯罪を暴くためだったとしても,その動機が不明です。ここまで大がかりな犯罪(監禁罪は確実)を犯す必然性がありません。

 それと,フレイジャーが貸金庫の秘密に気がつかなかったらどうするつもりだったのでしょうか。あの貸金庫を開けなければ,○○の過去の犯罪を立証する物は永遠に見つからないのですから,常識的に考えれば,○○が自分でその日のうちに処分するはずです。そういう危険を冒してまで,「あれ」を貸金庫に残しておくのは絶対におかしいです。


 銀行強盗映画としてはかなり異色の作品ですし,ストーリーもよく練られています。しかし,詰めが甘いために傑作映画になり損ねましたね。

(2007/04/25)

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