《コントロール》 (2004年,アメリカ)


 悪い映画ではありません。むしろ,かなりよい映画です。よい映画なんですが,見終わった印象は「ちょっと小粒だったなぁ。もっと派手な映画だと思っていたんだけどな・・・」です。

 素材そのものはサスペンス映画ですが,その実体は感動ヒューマンドラマなんですよ。サスペンス映画だと思ってずっと見ていたのに実は違うの?,という意外感と言うよりは肩すかし感を強く感じてしまうところにまず違和感がありました。それと,主人公の性格の変化というこの映画最大の見せ場があるのですが,何しろその根拠は「あれ」なんですよ(「あれ」が何かは見てのお楽しみ)。この説明がかなり嘘っぽいのも欠点ですね。この説明はこのドラマの根幹をなすものだけに,これは計算違いでしょう。


 異常性格から凶悪事件を起こし,死刑判決を受けた男,リー・レイが主人公です。彼は死刑を執行されたはずなのに,なぜか死体安置所で目を覚まし,目の前にいるコープランド博士から「新薬の実験台になって欲しい。それが嫌なら本物の死刑執行だ」と告げられます。レイとしては選択の余地はないわけで,実験台になることを受け入れます。その新薬とは,凶悪な性格を穏やかにして,犯罪常習者を更正させちゃおうぜ,と言うのが目的みたいです。

 レイは薬を飲み始めるんだけど,なかなか効かず,逆に研究所を抜け出ようとしては捕まったりします。そのうち,3倍量投与をしたあたりから彼の性格が次第に穏やかになっていき,粗暴な行動が消え,逆に,自分が撃って半身不随にしてしまった犠牲者への後悔の念で眠れなくなります。

 もうそろそろ研究所の外から出して,一般の生活をさせるという段階にしていいんじゃないかということで,顔の傷跡を消し,入れ墨を消し,名前を変え,外の生活を始めます。そして無事に職にも就き,若い女性とも仲良くなっていきます。やがて彼は,自分が頭を撃ったために障碍が残った男の元に謝罪に訪れます(はっきりとした謝罪はしないけど・・・)

 そうやって,新しい人間として生まれ変わり,新しい人生を歩みだそうとしたとき,彼を付け狙う男が登場し,事態は二転三転します。

 とまぁ,そんな映画でした。


 最初のレイの死刑執行シーンは結構いいです。彼の脳裏を人生の出来事が走馬燈のように巡るのですが,その数分のシーンだけでこの男がなぜ殺人を犯すようになったのか,一体彼に何があったのかが十分に理解できます。なるほどね,そんな人生だったのか,ってね。

 それと,コープランド博士が新薬開発に躍起になる理由も説明されているし,彼の息子が殺された事件と最後のカーチェイスのシーンが重なるのもうまい演出です。また,彼と彼の別れた妻が交互に引き取る犬も見事な小道具になっています。

 性格が穏やかになったレイとコープランドの間の心の交流も十分に描かれているし,それがラストシーンを説得力あるものにしています。そういう意味では丁寧に作られています。


 しかし,レイの性格が新薬で変化したのはいいとしても,その理由は「あれ」ですから,普通ならその時点で実験は打ち切りになり,外の社会で生活させようとコープランドが言い出したとしても,会社の方が彼に真相を明かし,外に出さないのが普通ですよ。何しろ彼は死刑で死んでいるはずの人間なんですから,ばれた時には大事件になります。

 また,仮に外に出したとしても,彼が凶悪事件を犯した町の近く(?)で出所させるというのは絶対におかしいです。死刑囚が生きていることがばれてしまうからです。そうなったら,スキャンダルどころの騒ぎではないはず。

 また,顔の傷を消すとか入れ墨を消すくらいなら普通の病院でできるけど,ニセの身分証明書を彼に与えなければ外では生活できないわけですから,そこまで来ると,一製薬メーカーでできることではありません。大体,この人体実験をするためには,警察,司法当局などを巻き込んだ大規模な組織の存在が絶対必要なはずですが,この映画ではそのあたり,説明されていましたっけ? 私,見落としちゃったかなぁ?


 そして,この映画最大の欠点が,そもそもこの製薬会社はこの新薬人体実験を成功させるつもりだったのか,成功したら被験者をどうするつもりだったのかという点です。「実験してみたけれど,実は副作用で全員死亡しました」というのなら実験そのものを闇に葬るのは簡単だけど,問題は,実験がうまくいってしまい,被験者(凶悪犯罪者)の性格が本当によくなった場合です。実験がうまくいって凶悪犯がいい性格になったとして,そいつを外の世界に出すわけにはいかないし,お役御免で殺そうとしても,凶悪犯でなくなった人間を殺しちゃっていいのか,そういう人間を殺すのは凶悪犯を殺すより大変だぞ,という問題が生じます。

 そしてもう一つの欠点は,実験に使った死刑囚のうち,「あれ」を一体何例に投与したのか,という根本的問題があります。だって,症例数が合わないですから・・・。それを無視した実験を製薬会社がするわけがありません。これがお馬鹿サスペンス映画だったら別に突っ込まないけれど,感動サスペンス路線を狙っている(と思われる)映画なんだから,やはりこのあたりはきちんと作っておくべきでしたね。

(2007/04/10)

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