《白いカラス》 (2003年,アメリカ)


 アンソニー・ホプキンスとニコール・キッドマンというハリウッド二枚看板を主役に据え,その他にもかなり有名どころが顔を揃えている映画です。もちろん,俳優さんたちの演技には非の打ち所はありません。ホプキンスは渋くて格好良くて精神の深さを感じさせるし,一方のキッドマンは本当に美しくてセクシーです。キッドマンが踊りながら一枚ずつ服を脱ぐシーンがありますが,その時の彼女の妖艶な眼差しは本当に色っぽくドキドキします。

 映画のストーリーもよく練られていて,ホプキンス演じる大学教授のシルクが,たった一言の人種差別発言で大学から追い出されそうになった時,なぜあんな態度をとったのかは最後の最後で明らかになり,それが感動を呼び起こします。

 そして何より,《白いカラス》という邦題が素晴らしいです。原題は確か《The Human Stains》だったと思いますが,邦題の方が格段に優れています。シルクの生き方と人生の選択の全てがこの言葉と重なるし,同時に,キッドマン演じるフォーニアという掃除婦(というのかな?)が傷ついたカラスを見舞うシーンとも重なってきます。「白いカラス」として生きることを選んだ男の悲哀がヒシヒシと伝わってきます。


 映画の内容も素晴らしいと思うのですが,ただしその評価には「この映画は人間として褒めなければいけないよね」という建前が入っています。なぜかというと,この映画の主題である人種差別問題とか,ベトナム戦争帰りの兵士の問題について,頭では判っているのですが,全く実感がない問題だからです。要するに今一つ隔靴掻痒なんですね。アメリカ社会の深刻な問題だけど,日本人にとっては所詮,対岸の火事の一つに過ぎません。極めて良心的に作られた映画だけに,理解しよう,理解しようと努力するのですが,次第にその努力自体が辛くなってきます。


 そして,細部に説明不足のシーンが少なくなく,そういう意味ではちょっと作りが甘い感じは否めません。

 例えば,シルクとフォーニアの出会いのシーンがそうです。車が動かなくなって困っているフォーニアをシルクが車で送っていき,そこから二人の恋愛が始まるのですが,車中の会話を見ても何で二人が惹かれあったのか,なぜフォーニアがシルクに「ちょっとうちに寄っていかない?」と誘うのかがまるっきり判りません。しかもそこでいきなりベッドインなんですから,この展開は「島耕作」級に不自然です。ここらの心の動きはもっと丁寧に描いて欲しかったです。
 ま,キッドマンのお見事バディが拝めたからいいか。

 それと,冒頭と最後にある自動車事故のシーン。対向車にびっくりしてハンドルを切り損ねての事故なのですが,対向車を運転する人物の行動が意味不明。画像を見た限りでは,シルクが運転する車がやってくるのを待って車を発車させるようにしか見えないのですが,そこを通ることを事前に知っていたという設定はさすがに無理があります。というか,なぜこの人物が運転する車だったのでしょうか。というか,なぜこの人物が運転していなければいけなかったのでしょうか。丸っきりの赤の他人の運転でよかったという気がします。

 それと,フォーニアの「私は不幸な女なの。不幸ってのは私みたいなことを言うの」という言動はわからないでもないけど,あまりに一方的な言い方で,見ていてちょっとむかついてきます。


 頭の中では「この映画は褒めなきゃいけない映画なんだよね」と思って書き始めたつもりなのですが,いつの間にか「けなしモード」に入ってしまいました。正統派ラブロマンスのよい映画のはずなんだけど・・・。

(2007/04/03)

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