《アンジェラ Angel-a》 (2005年,フランス)


 C級モンスター映画の方がまだよかったな,というくらい詰まらなくて面白くない映画。主人公と天使ちゃんの会話がたまらなく恥ずかしく,聞いているとケツの穴がもぞもぞしてきます。

 監督はかの名匠(とか言う人もいる)リュック・ベッソン大先生ですが,彼の脳内妄想が暴走しまくっていて,誰も止められません。ベッソン先生,「これが純愛というものだ」と一人で陶酔しまくっています。その妄想モードの甘ったるさに胸焼けがしてきて,見ていて気恥ずかしいです。

 それと,この映画は「天使もの」なんですが,大人向けのファンタジー映画だとしても説得力がなさすぎます。アメリカ人みたいに,無邪気に天使の存在を信じているような連中ならいざ知らず,「困ったら天使が助けに来てくれて,その天使を愛してしまった」というストーリーの段階であまりにも荒唐無稽過ぎて,それで感動しろと言われてもなぁ・・・。大人向けのファンタジーとして成立するためには,それなりの説得力が必要じゃないかと思います。
 も,もしかして,ベッソン先生,天使の実在を本気で信じていらっしゃるのでしょうか。それはそれで結構ですが,第三者的には「痛い」です。


 とりあえず,ストーリーはこんな感じ。

 主人公は28歳の男アンドレ。アルジェリアとかそちら方面生まれでパリで暮らしているけど,ま,はっきりいって小者のチンピラのようです。金を借りては仕事をするんだけど,全て失敗して借金まみれ。48時間以内に金を返さないと死体となってセーヌ川に浮いちゃうのです。

 返せる当てもなく自殺を考え,川に飛び込もうとしたらいきなり隣に美女が現れたと思ったら,いきなりこいつが川に飛び込んじゃうのだ。彼女を助けようと夢中で川に飛び込み,何とか助けるんだけど,実は彼女,彼を助けるために天から使わされた天使だったんだってさ,という映画です。


 この天使ちゃんがアンジェラです。美人で可愛いけど,でかいです。身長180センチでしかも高いヒールを履いていますから,アンドレとの身長差は20センチ以上あります。別に180センチのヒロインでも213センチの天使でも構いませんが,ヒロインが主人公より頭一つ背が高いという設定が,ストーリーの上で生かされていません。設定としては面白いけど,必然性がありません。甘いぞ,ベッソン先生!

 全編モノクロの画面は非常に美しいし,舞台となっているパリの名所もまさに絵葉書のようです。撮影アングルもかなり凝っていて,背景となっている名所がきれいに見えるように工夫しています。そのため,次第に観光案内映画を見せられているような気分になります。

 それと,アンジェラが天使であるという設定を受け入れるとしても,天使としての能力が画面を見ている方には伝わってきません。未来に起こることを知っているけど,それは競馬方面でしか生かされていないし,アンドレをギャングたちが取り囲んだときに一瞬にして蹴り倒すシーンも,天使本来の能力とは別じゃないかという気がします。もしかしたら彼女,暴力担当の天使なんでしょうか。


 それと,アンドレのために金を稼ぐ手段もかなりひどいです。だって,「私とやりたい?」と男を誘って金をいただいてはトイレで殴り倒す,の繰り返しですぜ。いくらアンドレの窮地を救うといっても,天使がそれをやっちゃ駄目でしょう。この時点で既に,天使失格じゃないかと思います。

 同様に,アンジェラがアンドレをベッドに誘うシーン。実際にベッドインする訳じゃないけど,天使がそれをやっちゃ駄目でしょう。この時点で既に,天使失格じゃないかと思います。

 何よりわからないのは,なぜアンドレが「天使による救済」の対象として選ばれたのかです。なぜかというと,アンドレの悩みは結局,金がない,金が返せないということに尽きるからです。ベッソン先生は,アンジェラの「あなたは自分をブ男だというけれど,内面は美しいわ」という言葉で説明しているつもりになっているのでしょうが,このような悩みを持つ心の美しい男を救うのなら,世界中の男に天使が降臨してこなければいけなくなります。議員会館宿舎で500万円も水道を使って「なんとか還元水」を飲んでいる人以外は,誰でも救済対象でしょう。


 結局,こういう都合のいい天使がいたらいいなぁ,こういう都合のいい美女がいたらいいなぁ,困っていたらどこかからやってきて助けてくれる水戸黄門的ドラえもん的アンパンマン的天使がいないかなぁ,というベッソン先生の心の叫び,都合のいい願望しか伝わってこない映画でした。

(2007/03/29)

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