イタリアのホラー映画には情け容赦のない残虐シーンが連続するものが少なくありませんが,これは多分その系統なんでしょう。痛そうでグロいシーンが連続しますので,そっちの方面に弱い人は見ないほうがよろしいかと。
では誰にオススメするかというか,オススメする対象がすぐに浮かびません。一応サスペンス映画で謎解き系の映画なんですが,さまざまに振られた伏線が生かされていないし,最後に明かされる犯人の顔を見てもしばらく「こいつ,誰だっけ?」と狐に摘ままれた気分になるし,結局この犯人が何をしようとしたのか最後までわかりません。しかも,ストーリーの展開がやたらと遅く,ヒロインが事件に巻き込まれるのは後半もかなりたってからです。
それから,邦題がすごいです。原題は「EYES OF CRYSTAL 水晶の目」で,これは事件解決の最重要アイテムですから,ああ,なるほど,という感じですが,邦題の「ジグソー」って何ですか? ジグソーはどこにも登場しません。もちろん,このタイトルを見てピンときた人は,「もしかしたら《ソウ》人気にあやかろうとしてタイトルだけパクったクズ映画じゃないの,と思うはずです。その推理,当たっています。
一応,ストーリーを紹介。
連続殺人事件が起きて,それを担当するのが若いジャコモ刑事が主人公です。犠牲者の死体は手が切断されていて人形の腕が縫い付けられていたり,その次の犠牲者は足が切断されてやはり人形の足が縫い付けられています。ジャコモたちの必死の捜査をあざ笑うように第3の犠牲者が生まれ,それはジャコモたちの同僚の刑事で,彼は首を切断されていた。どうやら犯人は,さまざまな人間の体のパーツを集めて完璧な人形というか剥製を作ろうとしているようだ。
そして,ストーカーの影におびえる女子学生がいて,こちらもジャコモが担当している。そしてついに,犯人は彼女を次のターゲットとして狙っていることを割り出したジャコモは彼女のアパートに向かうが,既に彼女の姿はない。そしてついに,驚愕の事実が判明し・・・という感じかな。
この映画最大の失敗は,犯人の顔が明らかにされた瞬間,「ああ,こいつが犯人だったのか!」とわかる人が絶対にいないことです。私は,それまで全く登場していない人物だと思いましたね。それほど見覚えがない顔です。謎解きされると一応納得はしますが,犯人として登場するなら,それまでと同じ顔で登場しろよ。しかもこの人物,確かにそれまで何度か登場しますが,あまり大した役じゃないし,それっぽい怪しげな行動をするわけでもありません。だから見ているほうにとっては青天の霹靂,ってやつです。
しかも,ラテン語の警句やら,古書に挟まれた木の葉やら,いかにも「次の犯行予告」っぽい小道具が沢山登場して,一応それらは事件解決の手がかりになるんですが,それが解決の糸口になる過程がいまいちわかりにくいです。
色々な登場人物の記憶がフラッシュバックしますが,それがやたらと多すぎるため,見ている方の注意を殺ぎます。やたらとフラッシュバックさせれば格好いいわけでない,という悪い見本です。
それと,犯人と病院に入院している刑事の過去のつながりがあるのはいいとしても,それと,犯人の母親が病死した病院が同じで,というのは強引過ぎ。二人の記憶のそこに人形があるのはいいとしても,それを契機に犯人が「人体パーツで剥製を作ろう」と考えるようになる経過が全くわからない。
そして,犯人が作ろうとしている人体剥製も,何でわざわざこんなにバランスの悪いものを作るのだろうか。だって,頭部は例の初老の男,上肢,下肢,そして胴体は若い女性で,しかもそこに,ヒロインの胸を切り取って縫い付けるというのだから,アンバランスもいいところで,美的センスはゼロである。何で頭部をオッサンにしたのか意味不明。付けるなら美女の頭部でなければいけないと思うが,違うか?
冒頭の,男に襲われている女性を助けたジャコモが,犯人の男の太腿を銃で撃ちぬくシーンも意味不明。これって何のためのシーン? その後の展開と全く関係ないと思うんだけど。
そういえば,ヒロインのルームメイトの女性がちょっと怪しげな行動をするシーンがあるんだけど,あれってなんだったの?
そういえば,主人公のジャコモには「一番最初に愛し合った恋人がその直後にレイプされて殺された」というトラウマがありますが,そのトラウマは全く映画に絡んできません。この映画にはこういう無駄なエピソードが多すぎるんだよね。
人体のパーツで剥製を作るというアイディア自体は悪くないのですから,余計なエピソードを削除し,変に錯綜した部分を整理し,B級路線まっしぐらのスプラッター・サイコスリラーとして作り直したら,そこそこ面白いものになりそうです。
というわけで,よほど時間が有り余って使い方に困っているという人以外は,見ないほうが無難かと思われます。
(2008/09/05)