《嵐の中で輝いて》 (1992年,アメリカ)


 豪華絢爛のクズ・スパイ映画ということで評判なんで見てしまいました。評判を裏切らない素敵なクズ映画でした。何しろ,主演がマイケル・ダグラスとメラニー・グリフィスですよ。130分を越える大作ですよ。セットも豪華に作られているし,爆破シーンなんかはさすがにハリウッドですから,結構な迫力でございます。美人・美女が出ていて,恋あり裏切りありアクションありです。

 普通ならこれで面白い映画になるところですが,真面目に作ったハリウッド映画がはずしちゃったもんだから悲惨な作品になってしまいました。スパイ映画なのに主人公はスパイの真似事をするだけの素人姉ちゃんだし,最後の肝心なところでは意識がないし,銃撃シーンは迫力がないし,敵の銃弾は滅多に当たらないのに主人公が片手で撃つ拳銃は全部当たるし,途中から「これはコメディー映画なんじゃないのか? サスペンス映画じゃないんじゃないか?」って思い始める始末。ところが,この映画の作り手はすごく真面目で,多分,戦争をからめた大河ロマン大恋愛映画を撮ろうとした感じです。

 要するに,「島耕作」シリーズとハーレクイン・ロマンスをベースに第二次大戦の秘話をでっち上げた,という感じです。偶然の積み重ねで難問を解決し,困ったら何とかなる,ってやつね。その女スパイバージョンなんだよ。甘くて頭が痛くなりそうな人工甘味料たっぷりの駄菓子に,さらに練乳と山盛りの砂糖をぶち込んだような激甘のストーリーがナイスです。

 あまりにもツッコミどころが多いので,ストーリーをなぞりながらツッコミを入れようと思います。


 時代は1940年から42年にかけてのアメリカとドイツ。グリフィス演じるリンダちゃんは若い未婚女性で,パパがドイツ系のユダヤ人,ママがアイルランド人で,パパはアメリカに来て何十年にもなるのに英語が喋れないらしい。それでリンダちゃんは幼い頃からドイツ語も話せるんだ。
 そして,情報機関に秘書として就職するのです。

 彼女の上司が憂いに満ちた表情をしているマイケル・ダグラス@ケツアゴ(顎がお尻のように割れている,という専門用語)だったわけよ。ちなみにケツアゴ・ダグラスはドイツ語が全くできないという設定です。情報担当将校失格じゃん,この時点でおかしいよ,と四方八方からツッコミが入りまくります。

 で,お約束の展開で二人は恋に陥ります。そして,ドイツに進入させたスパイが殺されて困ったよ,なんて話し合っている会議の部屋に偶然,リンダちゃんがお茶かなんかを運んじゃったもんだから,「私,ドイツ語を話せるからスパイとして侵入します」って志願しちゃう。しょうがないんでケツアゴ上司も許可しちゃう。それで,マイクロフィルムを撮影するカメラの使い方をちょっと教えただけの小娘を,スパイの特殊教育もしないで数日後にナチス政権下のドイツに送り込みます。

 スパイ映画を沢山見ているからスパイができるって思っちゃったのさ。サッカーの試合を沢山見ているからサッカーの試合に出たいわ,ERを全部見たから私も今日から救急医よ,ってなノリでございます。


 そして老スパイのサンフラワーと接触し,連絡員の魚屋さんとのコンタクトに向かいます。合言葉は「旬の鱈は新鮮ですか?」という5歳児でも覚えられるだろうという簡単なものですが,さすがはリンダちゃん,しっかりと間違えてくれます。脳味噌の記憶回路のどっかが繋がっていない模様です。でも,優しい魚屋さんがもう一度聞き返してくれるため,無事にコンタクトが終了します。この魚屋さん,人間的にはいい奴ですが,工作員としては失格です。

 おまけにこのシーンで,スパイ小道具の「二重底ハンドバッグ」がドイツ人将校の前で派手に開いてしまい,スパイグッズが散乱するというシーンがあるのですが,なぜか誰もそれに気がつきません。どうも,ドイツ人将校は揃って目が悪かったようです。

 その後,リンダちゃんはドイツ将校のドレッシャー宅に料理人としてもぐりこむ,という作戦を立てます。「私,祖母からドイツ料理の手ほどきを受けているから大丈夫よ」という触れ込みですが,完全にでたらめでした。料理が全くできません。いきなり,客にスープはぶっかけるわ,生の鳩を料理に出しちゃうわで,初日でクビになり追い出されます(・・・そりゃ,当たり前だって)。料理ができないのに料理人として応募するリンダちゃんの発想が人智を超えています。

 ところが生意気にもリンダちゃん,ドレッシャー宅にもぐりこめなかったわ,と一人前に落ち込んでいます。


 でも大丈夫,暗い夜道をリンダちゃんが歩いていると,後ろから車が近づき,見ると先ほどの料理でスープを引っ掛けちゃったいい男が手招きしているじゃございませんか。何と,将校のディートリッヒでございます。このディートリッヒ君はなんと,「私は妻を亡くして,二人の子供を育てているんだけれど,いいベビーシッターがいなくて困っているんだ」とリンダちゃんに話しかけるのです。もちろん,これでリンダちゃんとディートリッヒ君の間で契約成立。リンダちゃんはディートリッヒ将校の自宅に入り込むことに成功します。
 料理ができないのに料理人として応募したリンダの身元を疑わないディートリッヒ君,これだけで軍人失格だと思いますが,物語はそういうことを気にせず,どんどん先に進みます。

 そういえば,ドイツ潜入初期ではリンダちゃんはドイツ語を話していますが,なぜか途中から英語ばかり話しています。しかも,ドイツ人たちも英語しか話さなくなります。どうやら,第二次大戦中,ドイツでは公用語が英語になったらしいです。

 そういえば途中で,老スパイの姪とリンダちゃんが仲良くなり,姪の母親に紹介されるというエピソードがあります。この母親はヒトラーお気に入りのピアニストなんだそうですが,演奏場面で弾くのはショパンの『アンダンテ・スピアナートと華麗なるポロネーズ』1曲です。しかもそのあと,彼女は1場面でのみ登場しますが,ピアニストであるという必然性は全くありません。何でこの母親をピアニストにしたのか,最後まで意味不明です。


 一方リンダには,ドイツ軍の機密を発見せよ,という命令以外に,個人的な動機がありました。ユダヤ人である叔母家族がドイツのその町に隠れていて,その一家を発見し,亡命させたいという願いです。この件に関してはリンダちゃんは何一つ仕事をしませんが,例の魚屋さんが叔母一家の潜伏場所を見つけてくれて,その住所を書き記した紙を魚の口の中に入れてリンダちゃんに渡してくれます。しかしそこでさすがはリンダちゃん,他の客にその魚を買われちゃって取り戻そうとして大騒ぎ。魚一匹にそこまで騒ぐとゲシュタポがやってくるんじゃないかと,見ている方が心配になりますが,もちろん,猫一匹寄って来ません。

 そういえばこのシーンにしても,その後の叔母一家の潜伏先を訪れるシーンにしても,リンダちゃんはディートリッヒの二人の子供(8歳くらいの男の子と5歳くらいの女の子)を連れて行きます。普通なら,お兄ちゃんが「リーナ(リンダちゃんの偽名ね)が動物園に連れて行ってくれるって言うからいったんだけど,動物園じゃなくてどこかのアパートに連れて行かれたんだ」って一言いえばすべてばれちゃいますよね。見ている方がハラハラするんですが,なぜか,この二人のお子様は父親に何も言わなかった模様です。リンダちゃん,ラッキー!

 ちなみに,この叔母一家は既に殺されていて,魚屋さんが必死になって手に入れた情報は役に立ちませんでした。

 ところが,なぜかわかりませんが,リンダちゃんはディートリッヒ邸に隠し部屋があることを「偶然に」発見し,その部屋の鍵を「偶然」発見し,その中でミサイルの設計図やミサイルを作っている工場の位置を記した地図を発見するのです。おまけに,リンダちゃんが自室に戻ってマイクロフィルム撮影用カメラを持ってきて撮影するまで,その邸宅には誰もいません。最後の数枚のフィルムを撮影しているときにディートリッヒが「なんか変だな」と階段を下りてきますが,なぜかリンダちゃんにだけは気がつきません。リンダちゃん,ラッキー!


 そういえば,この頃になるとリンダちゃんは,あれほど燃え上がった恋の相手,ケツアゴ・ダグラスを思い出すことはなくなります・・・というか,見ているほうも,ケツアゴ君のことをすっかり忘れてしまいます。ケツアゴ君,存在感薄すぎです。リンダちゃんの恋のターゲットはディートリッヒに移ります。そして,ディートリッヒがリンダちゃんをオペラ「トリスタンとイゾルデ」に誘い,終幕の「トリスタンとイゾルデ 愛の死」の絶唱の中でディートリッヒ君はリンダちゃんの手を握ります。リンダちゃん,もてまくりです。

 で,なんだか色々あって,リンダちゃんはディートリッヒ宅をイブニングドレスのまま飛び出し,サンフラワーの姪のところで休もうとしたら,実はその姪が二重スパイでマイクロフィルムを奪おうと拳銃片手に迫ってくるのです。でも大丈夫。リンダちゃんは相手を(運よく)倒しちゃうのだ。


 なぜかそこをうまく切り抜け,気を失っていると,なぜかケツアゴ・ダグラスが助けに来てくれるのです。しかし,ケツアゴ君が持っているナチス将校の身分羞明書は既に期限切れで,おまけにケツアゴ君はドイツが全く話せません。命運は「ドイツ語が話せるリンダちゃん」に託され,ケツアゴも「ドイツを脱出するためには君のドイツ語が必要だ」 と話します。

 気を失ったリンダちゃんをお姫様抱っこして列車に乗せるケツアゴ。しかしリンダちゃんの意識は戻りません。もちろん彼女のドイツ語も話せません。肝心なところで役に立たないリンダちゃんです。スイス国境まで来てもまだ寝ています。でも,そこにはドイツ軍の検問があります。

 どうするかと思ったら,ケツアゴ君はドイツ兵士の隙を見て拳銃で射殺し,マグロ状態のリンダちゃんをお姫様抱っこしてドイツ・スイス国境に走るのだよ。おまけに,国境検問所で銃声が聞こえたというのにドイツ側の反応は遅く,国境まであと1メートルというところまで発砲せず,ようやく3人が発砲したなとおもうとこれがなかなか当たりません。それなのに,ケツアゴ君が撃った弾はすべて相手に命中します。そしてようやく,ドイツ幣の銃弾が命中します。ドイツの国境警備隊,射撃の腕が悪すぎます。成人女性を抱えて走る相手に命中しないのだったら,静止している相手にも命中しないんじゃないでしょうか。この映画を見る限り,当時のドイツ・スイス国境は誰でも歩いて突破できたと思われます。

 しかも,これでケツアゴ君が死ぬんだったら悲恋物語として(それなりに)完結するのに,ケツアゴ君はしっかり生きていて,しかもリンダちゃんとの間に二人の子供まで作ります。テレビ番組に4人で手を取り合って登場します。このシーンを見て,最後まで何とか残っていた堪忍袋の緒がぶちきれました。


 というわけで,ツッコミ・マニアなら見ておいて損はないでしょう。

(2008/08/07)

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