新しい創傷治療:カクタス・ジャック

《カクタス・ジャック》 (2004年,メキシコ)


 うわあ,面白かった! 映画の面白さ,醍醐味を十分に堪能させてもらった。何より脚本の完成度が高く,バラバラに示されるエピソードが次第に組み合わさり,最後にピタリと全ての部分が組み合わさって,一つの物語に結実する爽快感は別格だ。一癖もふた癖もある登場人物たちは皆キャラが立っていて,台詞のある登場人物の全てにそれにふさわしい役割が振られていて,雑魚キャラだとばかり思っていたチンピラ兄ちゃんたちにまで重要な役が割り当てられているのには感心。細かいところまで見ていけばちょっと変な部分もあるが,これだけ面白ければ笑って許しちゃうのだ。

 基本的にはコメディーなんだけど,シリアスな部分,暴力的な部分,お色気シーンの緩急のテンポと配分がいいし,音楽がまたいい。特に,笑える部分でのクラシック曲の使い方なんて半端でないうまさだと思う。


 それにしても,文章で説明するのがちょっと難しい映画だ。予備知識一切なしに見ても何がどうなっているのかわかるようになっていて,説明の手際が極めて上手いのだが,それはあくまでも画像と一体になっての話。まさに,映画でなければ説明できない内容なのだ。

 で,とりあえず登場人物についてまとめよう。


 映画は中国人コックの噂話から始まる。街の帝王カボスに料理を作っていてミスし,顔を黒焦げにされたらしいという恐ろしい話だ。話しているのはジャックとムド,場所は隣合っているトイレの個室。トイレットペーパーがないからお前の隣の個室から拝借して来ようと隣のドアを開けると,なぜか下着姿のオッサンが伸びている。こいつがカボスだ。なぜ二人がトイレにいるかというと・・・と,少しずつ時間を逆戻しにしてはことの次第が次第に明らかになっていく。この冒頭部分から,もう目を離せなくなるはずだ。

 ジャックとポリーナは付き合っていたが,ベッドインしていた場所が悪かった。ポリーナの自宅,つまりカボスの邸宅で,運悪く親父がその現場に踏み込んでしまう。かくしてジャックはボコボコにされ,もう二度と付き合うな,と脅される。翌朝,ジャックは社長室に行って謝ろうとしたが,カボスは恨みに思って自分を襲おうとしてきたんだなと勘違い。社長室でゴルフのパターの練習をしていたもんだから,手にしたパターでジャックに殴りかかろうとしたが,運悪く床に転がっていたゴルフボールで滑って頭を打ち,気を失ってしまう。

 困ったジャックは親友のムドに「助けてくれ」と連絡しようと部屋の外に出る。そこに入ってきたのが清燥係のナチョ。長年,カボスに恨みを抱いている男だ。倒れて気を失っているカボスを見たナチョは金も時計も車のキーも全てを奪い,カボスの服を着込んで駐車場に向かい,カボスの車に乗ろうとする。一方,ジャックとムドが社長室に戻るとカボスは下着姿。何がなんだか訳がわからないが,秘書が入ってこようとしているもんだから,とりあえずトイレにカボスを運んだわけだ。

 一方,地下駐車場ではカボスを待ち受けている二人組みがいた。父の恨みを晴らそうとする息子のボッチャとその仲間のニコだ。ボッチャはカボスを誘拐して身代金を取ろうと企てていた。ニコは,カボスと同じ背格好でカボスの服を着てカボスの車に乗ろうとするナチョをカボスだと勘違いし,ナチョを後ろから殴り倒し,口に粘着テープを張り,黒い袋をかぶせたところでボッチャを呼び,二人はナチョを車のトランクに押し込んで走り出す。連れて行ったところはボッチャの恋人,ルラのアパートで,袋をかぶせたまま男を椅子に縛り付ける。この時点では,ニコはボッチャの父親の顔を知らず,ボッチャも誘拐した相手が自分の父親だとは気がついていない。

 一方,気を失って下着姿のカボスをどうしたものか,と途方にくれたジャックとムドはとりあえず車のトランクにカボスを押し込み,車を走らせる。カボスの意識が戻ってから事情を説明して許してもらおう,なんて選択枝はもうないからだ。話してわかる相手じゃないし,おまけに,身ぐるみ剥がされた下着姿になっている。

 ところが,ある事情から追突事故にあってカボスを入れた車のトランクが開けられなくなる。このままではカボスの命も危ない。いくら凶暴な男とはいえ,愛するポリーナの父親,つまり義理の父になるかもしれない男だ。

 困り果てた二人は,伝説の覆面レスラーのルベンに助けを求める。こいつも凶暴な男だが頼りになる。駆けつけたルベンは何とかトランクを開け,中身がカボスだと知ってしまう。そこでルベンは,今夜,カボスの豪邸でガブリエルの誕生パーティーが開かれることに目をつけ,パーティーに紛れ込んでカボスを豪邸の庭のどこかに置き,酔っ払って訳がわからなくなって下着姿になったと思い込ませる,という大胆な計画を立てる。

 そんなところに,いつまでたっても迎えに来てくれないジャックに腹を立てたポリーナがジャックのアパートにやってきて,すぐに後を追いかけるから先に行っててね,というジャックの言葉を聞き,テーブルの上のジャックの車のキーを取りジャックの車に乗って走り去ってしまう。もちろん,父親のカボスはその車のトランクに入ったままだ。そろそろ,カボス宅に乗り込もうぜとジャックたちが外に出ると,なぜかカボスを積み込んだ車が消えている。

 一方,カボス誘拐に成功したと信じ込んでいるボッチャとニコは身代金を取ろうとカボス宅に電話をかけるが,パーティーのことで頭が一杯のカボスの妻は「忙しいから後で電話をかけなおして」と取り付く島もない。怒ったボッチャはカボス(と思い込んでいる男)の指を切り落としてカボスの書斎においておけば,さすがのカボス婦人も事態に気がつくだろうと考え,誘拐した男の指を切り落として封筒に入れ,ルラを伴ってカボス宅に向かう。一方,人質とアパートに残ったニコは,友人の父親の敵とばかりに徹底的に痛めつけるが,人質の頭の袋が脱げたことからそれがカボスでなく,こともあろうか,ボッチャの父親だということに気がつくから,さあ大変・・・ってな映画だ。


 ちなみに,ここまででようやく映画は半分まで来たあたりだろうか。ここから先,まだまだ混乱が混乱を呼び,勘違いが次の勘違いを呼び,一体どうするんだろうと思っていると,ラストの10分間で全てに決着をつけるという,見事な力技が待っているのである。こればかりは,映画を見て欲しいとしか書きようがないのだ。

 おまけに,シリアスな場面があったかと思うととんでもないおふざけシーンになったり,本格的カーチェイスがあったかと思うと,いきなりステージの上で愛の歌を歌ったりと,次から次へと意表をつく展開の連続でパワフルさに圧倒される。

 そしてまた,登場人物がどれも面白く,特に,元プロレスラーのルビンと人食いとニーの組み合わせは最高! どっちも最強・最凶なのに人情に厚くて男気に溢れ(特にルビン),約束は何が何でも守るぜ,と頼もしいのである。人食いトニーもいい味を出していて,パーティーでガブリエラ婦人と目が会った途端に相思相愛になっちゃって踊るシーンも笑っちゃうのだ。そしてお約束の二人のベッドシーンがあり,それが最後の最後のシーンの伏線になっているんだもんなぁ。


 というわけで,パワフルでおかしくて感動的な作品が見たくて,しかも見事な脚本にしびれたいという人には絶対オススメの傑作映画である。

(2008/07/11)

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