なんとも骨太な社会派問題作にして感動的な作品だ。抉り出すのは闇で取引されているダイヤモンドと,そのダイヤモンドにより引き起こされるアフリカ・シエラレオネ共和国の内戦と武器取引の実態だ。現代社会の暗部と言っていい。しかし,そのダイヤモンドが欧米をはじめとする先進国に持ち込まれ,女性たちを美しく飾っているという現実がある以上,より美しいダイヤモンドを求めて競う女性たちも実はこの内戦の加担者なのだ。より安く,より大粒のダイヤを求める消費者がいる限り,この国に平和は訪れないのだ,と告発している。
ダイヤモンドに限らず,アフリカは地下資源,特にレアメタルの宝庫だ。だから,何かの資源が見つかったとき,採掘権を得ようとする先進国が入り込み,より高く売ろうとするその国の政府はその地域に住んでいる住民を追い出そうとする。当然,難民が発生し,政府を倒そうとする運動も起き,その地域は地下資源を巡って内戦状態となる。これまで多くのアフリカの国がそれを経験してきた。実際,ダイヤモンドが発見されるまでシエラレオネは貧しいながらも安定した農業国だったはずだが,なまじダイヤモンドが見つかってしまったため,長く内戦状態が続いた。シエラレオネの人々には何の価値もない石ころだが,先進国にとってはそうではなかったからだ。
ちなみに,今日のチベットを武力制圧しようとする中国の目的の一つは,チベット高原に眠るレアメタルであるらしい,という分析があるようだ。さもありなん,と思う。
舞台は内戦が続く1990年代のシエラレオネ。ソロモン(ジャイモン・フンスー)は漁師で,まだ内戦が及ばない村で,貧しいながらも妻と3人の子供たちとつつましく暮らしていた。勉強の好きな長男は将来医者になるという夢を持っていた。しかし,その村にいきなり,反政府軍RUFが襲撃する。村は焼き討ちされ,男たちは腕を切り落とされ(政府が呼びかける選挙で投票できないようにするために!),子供たちは少年兵として連れ去られる。ソロモンは腕は落とされずに棲んだが,RUFのダイヤモンド採掘場で奴隷のように働かされ,一家はバラバラになる。そしてソロモンの長男の少年はRUFに連れ去られ,少年兵として洗脳されてしまう。
そこでソロモンは大粒のピンクに輝くダイヤモンドを見つける。超高値で取引されるピンク・ダイヤだ。RUF幹部が「俺に寄こせ」と詰め寄った時,採掘場を政府軍が襲う。もちろん,RUFの武器調達の資金源を断つためだ。どさくさに紛れてソロモンは穴を掘り,そこにダイヤモンドを隠し,ソロモンは一時,政府側の刑務所に収容される。
同じ頃,シエラレオネの違法採掘ダイヤモンドをアンゴラに密輸する業者,ダニー(レオナルド・ディカプリオ)も同じ刑務所に収容されていた。そして,ソロモンが巨大なピンク・ダイヤをどこかに隠し持っているという噂を聞きつけ,釈放されたあと,ソロモンに近づく。そして,その巨大ダイヤを持ち出して売りさばけば家族を見つける資金にできると話を持ちかける。
一方,女性戦争ジャーナリスト,マディー(ジェニファー・コネリー)はシエラレオネの武器密輸問題を追っていて,武器調達の資金としてダイヤモンドの闇取引があることを突き止めていた。だが,記事にするには具体的証拠がない。そして彼女は,ダイヤの裏取引を調べるためにダニーに近づく。
こうして,息子を取り戻して家族が一緒に暮らせることを願うソロモン,ソロモンが隠した巨大ダイヤモンドを売りさばき,現在の生活から抜け出そうと考えるダニー,そして,ダイヤの闇取引を暴き出してスクープにしたいと考えるマディーの3人は,巨大ダイヤを目指して採掘現場を目指すが,そこは反政府勢力RUFが支配する地域だった・・・というようなストーリーである。
ここ数年,アフリカの現実を鋭くえぐる社会派映画が相次いで発表されている。先日紹介した《ツォツィ》がそうだし,《ダーウィンの悪夢》,そしてこの作品もそういった一つだが,ダイヤをめぐる政府と反政府勢力の内戦の凄まじさは息を呑むしかない。
「政府を倒し,自由なシエラレオネを作ろうとしているのは俺たちRUFだ」とRUFは呼びかけるが,彼らは政府が呼びかける選挙で投票できないようにと,男たちの腕を山刀で切り落とし,少年を誘拐しては兵士に仕立て,銃の撃ち方,人を殺すことを教え,少年たちを麻薬付けにして洗脳していく。同時に,働けそうな男たちを拉致してはダイヤの原石が取れる川原で奴隷のように働かせては,ダイヤを採掘している。そしてそのダイヤを闇取引で売りさばき,そこで得た金で兵器を買い,紛争は一段と拡大することになる。当然,RUF幹部は贅沢な生活をしている。それもこれも,川底をさらうことで簡単にダイヤの原石が見つかる川を制圧しているからだ。つまり,設備投資なしに富が手に入るわけで,反政府勢力,つまりゲリラたちの資金源としてはいわば理想的である。そういう彼らが「政府の圧制からの自由」を主張し,武力で脅して連れてきた男たちを奴隷として働かせて,さらに戦争を拡大させている。
そしてこれは何もRUFだけではなく,シエラレオネの政府(政治的支配者)の方も似たり寄ったりなのではないだろうか。植民地の宗主国から独立したものの,その富は一部の支配者階級に偏在しているのだろうし,持てる者と持たざる者の差は想像を絶するものだろう。
そして,この紛争を裏で支えているのが,世界のダイヤモンドの取引を一手に牛耳っている巨大企業だ。企業名は映画の中では仮名に変えているが,ダイヤモンドについて詳しい人なら「ああ,あの企業ね」と一発でわかってしまうはず。それにしても,これまでタブー扱いだったこの問題を,よくここまで明かしたものだ,明かせたものだとびっくりしてしまう。
俳優陣ではソロモン役のジャイモン・フンスーとダニー役のディカプリオが素晴らしい。ソロモンは生真面目で融通が利かない男なんだけど,家族を思う強さがひしひしと伝わってくる。特に最後の方で,洗脳され銃を向ける長男に対して語りかけるシーンは感動的だった。
そして,ディカプリオがそれ以上に素晴らしかった。最後の銃を片手にマディーに携帯電話をかけるシーンは目頭が熱くなった。ソロモン親子を助けるために彼女に必死に指示を伝えようとする姿は「漢(おとこ)」だ。そして,マディーとダニーがお互いに惹かれながら,それ以上の恋愛に発展させないのも,大人のためのドラマとしての抑制が効いていてよかった。
それ以外にも,実に多くの問題を提起している重い作品であり,同時に見るものを飽きさせない冒険映画としても成功している。実に見事な作品である。
(2008/06/09)