超くだらない映画でも面白けりゃいいや,というスタンスでいろんな映画を見ていますが,この映画は駄目でした。この映画は基本的にお馬鹿な内容をちょい格好いい画面とハイテンションの音楽で魅せちゃおうぜ,ってな感じで作られているのですが,なぜか最後の方でシリアスな謎解きドラマになってしまうため,「なんだそりゃ」感ばかり残ります。多分,映画の基本設計の部分で間違った感じです。
で,ストーリーは基本的には単純です。ラスベガスの人気マジシャンがマフィアのボスたちに可愛がられているうちに,自分もギャング気取りになり,次第に裏世界に進出して荒っぽい仕事をするようになります。しかし,結局はミスをして逮捕されるんですが,終身刑を逃れるためにFBIとの司法取引に応じ,マフィアに関する情報を提供しようとします。それに腹を立てたマフィアのボスが100万ドルの報酬でスウェーデンから殺し屋を呼び寄せます。しかし,その噂はすぐさま裏社会に広まり,腕に自信のある殺し屋たちが賞金欲しさにマジシャンが潜む高級ホテルを目指して集まり・・・という映画です。
とにかく,集まってくる殺し屋がいずれも個性的というか無闇に特徴だらけの濃ゆい面々です。それなのに,次々に登場・紹介されてはすぐさま場面転換になってしまうため,個々のキャラは立っているものの,印象が薄いです。おまけに,隣のビルから50口径の狙撃銃をバンバン打ち込む女暗殺者とか,チェーンソーを振り回す暗殺者やら,どうみてもネジが外れているとしか思えない連中ばかり登場します。しかも,FBI関連の登場人物もマフィアの面々も数が多く,誰が何に所属しているのかすら覚え切れません。これだけでも大変なのに,なぜかFBIの捜査陣は,伝説の潜入捜査官の昔話なんかを始めたりするわけで,単純な映画かと思ったら必要以上に複雑です。
おまけに,殺し屋の面々はどう見てもネジが外れかかっているような連中ばかりで馬鹿騒ぎをするように銃を撃ちまくっているのに,それをうけるFBIの連中は後半になればなるほどシリアスモードになります。このあたり,まったく別の映画を見ている感じです。
さらに,冒頭のマフィアのボスの電話を盗聴するFBI捜査官同士の会話が必要以上にうるさく下品です。そして無駄に長いです。それに輪をかけて,高級ホテルに身を潜めているマジシャンとその用心棒の会話が,さらに長くて下品です。こういう意味のない会話が功を奏して,本来なら60分映画で十分な内容が,100分映画に変身します。なんだか,無意味な大作志向を持った監督さんが作ったとしか思えません。
そして,最後の最後にある謎解きというかどんでん返し。これが全く不発に終わっています。本来なら,「おおっ,そうだったのか。100万ドルで奴の心臓を,というのはそういう意味だったのか!」と感動する場面のはずですが,それまでが意味もなく派手なだけの登場人物たちが手当たり次第に乱射する銃撃戦の連続だったため,ここでいきなり謎解きをされても迷惑なだけです。
確かに,この謎解きで全体はすっきりするし,一応,論理的には整合性がとれている感じなんですが,それならそれで,全体をシリアスモードの映画にすべきでしょうし,これほど複雑に入り組んだ謎が背景にあるのなら,それに応じたロジカルな展開が必要なはずです。つまり,マフィアへの潜入捜査官に焦点を当てたドラマにすべきだったのです。
ところが,細切れに出される「伝説の捜査官」がいきなりあの登場人物に繋がるのですから,これは反則でしょう。おまけに,最後の方になればなるほど深刻で悲壮な感じになり,あの病室のシーンはそれなりにいいのだけれど,それまでのドンパチ・シーンがあまりにあっけらかんとして内容が空虚なため,見ているほうとしては白けるだけでした。
しかも,無駄に残酷シーンが多く,しかも,そのシーンだけやけに丁寧に撮っているのもなんだか変。例えば,拷問の天才でもある暗殺者が登場するのはいいとしても,その特技(?)は映画の中では発揮されないのですから,彼の過去の拷問の様子を映したシーンは余計です。そのほかにも,やけに凝っているシーンや小道具があるんだけど,その全てが生かされていないために,ただ登場させただけに終わっています。
というわけで,無駄で下品なFBIの話に付き合っているうちに,妙にキャラの濃い殺し屋が丁寧に紹介され,昔話なんかに延々とお付き合いしているうちに,ようやく殺し屋さんたちがホテルに集結し,さあ,これから何かが起こるんだろうなと思うとなかなか事件は起きず,長々とした会話が延々と続き,飽きてきた頃にようやく銃撃戦が始まるんだけど,誰が誰を襲おうとしているのか,どこで誰が何をしているのか,そもそもこいつらはどの場所にいるのかを理解する間もないままに,濃ゆいキャラの登場人物も薄いキャラの登場人物もどんどん殺され,最後に何人かが残ったなと思ったら,いきなり謎解きにつき合わされる,という映画でございました。
(2008/06/03)