《CHAIN チェーン》★★(2006年,アメリカ)


 謎の男につけ狙われ,次々と人が殺されていく,というよくあるパターンのサスペンス・スリラー映画。犯人の動機も特に目新しいものではなく,強いて言えばヒロインのお姉さんがひたすらマウンテンバイクに乗って逃げ回るのがちょっと珍しいかな。ちなみに配給しているのはわれらがアルバトロスコア。


 ヒロインのアンは自転車メッセンジャーとして働いている。そして,危険走行ということで警官(らしいのに)呼び止められ,違反切符は切られなかったけれど,一晩だけお相手をすることで何とか許してもらった。それに罪の意識を持ちながら,恋人のマイケルとかつて泊まったことがある山小屋に行き,大自然の中を思いっきり疾走して忘れようとする。

 そして,山道をすっ飛ばしていくが,,危険なためにマウンテンバイク立ち入り禁止」を書かれた柵に出くわすが,大丈夫よ,とか何とかいいながらそこを突破し,さらに奥に二人で踏み込んでいく。しかし,そこで向かい側からマウンテンバイクで走ってきたのが例の警官と名乗る男だったが,突然,マイケルはその男に首を切り付けられ,大量に出血。「逃げろ!」という言葉を背にアンはマウンテンバイクで逃げ出し,走ってくる車に助けられる。しかし,マイケルのことが気がかりなアンと運転手が殺害現場に戻ると,そこには死体はなかった。そしてまたもや例の警官が現れたが,手には鋭いナイフが握られていた。

 あとは,殺される⇒マウンテンバイクで逃げる⇒人がいて助けを求める⇒そこに例の男が登場⇒殺される⇒マウンテンバイク・・・のパターンが繰り返され,最後アンは山小屋に監禁され,手足の自由を奪われ,男がなぜ自分を狙うのかが明かされ,絶体絶命の窮地かと思われたところに本物の警察が現れ・・・という映画だ。


 まず,マウンテンバイクの疾走シーンが多く,かなりの迫力です。もしかしたら,この映画の監督は連続殺人はどうでもよくて,とにかくマウンテンバイクの爽快感を画像にしただけじゃないの,という気がしてくるくらいマウンテンバイクのシーンは素晴らしいです。これは間違いなく,マウンテンバイクのコマーシャルにつかえますね。特に,川の中を走るシーンは見事でしたね。
 ただ,いくら素晴らしくても,結局は山道を走って逃げ回るだけなんで,次第に飽きてくるのも事実です。もうちょっと工夫があってもよかったかも。

 それと,いくらなんでもあのスピードで雑踏を走り回られるのは歩行者からすると迷惑千万だよな。ぶつかったら,車並みの破壊力だと思う。街中ではスピードを出し過ぎないようにしようね,アンちゃん。

 それから,殺され方は結構グロいのでこういうのに弱い人は見ないほうがよろしいかも。特に,ナイフで傷つけるシーンが何箇所かあり,これは見ているだけでちょっと痛そうです。

 主人公のアンは意志の強そうな(強情そうな,人の忠告を聞きそうにないような・・・)表情が印象的で,美人ではありませんし,少なくとも私は魅力は感じない女性です。また巨乳ではありませんが,何箇所か必然性に乏しいオッパイシーンがあり,一応,B級スリラー映画の定石を守っている感じです。

 それと,このアン姉ちゃん,体力がすごいです。山の頂上までマウンテンバイクを担ぎながら登っちゃうし,川の中だってマウンテンバイクで走れちゃう。泳ぐシーンもあるし走るシーンもあります。このままでトライアスロンに出られると思いますね。


 しかし,それ以外の部分は穴だらけといっていい感じ。

 例えば,山頂の十字架のシーン。十字架といえば貼り付けに使うんだろうな,と誰しも思う小道具ですが,やはりこの映画でも使われます。だけど,十字架にたどり着いた時になぜアンが死体に気がつかなかったか,極めて不自然。まず最初に目にするだろうと思うよ。

 それと,犯人がこの十字架に死体を貼り付けた理由もよくわかりません。なぜかというと,アンがこの十字架にたどり着いたのは携帯電話をかけるためで,その前のシーンで地元のおじさんが「ここらでは携帯は使えないよ。あの山頂の十字架でしか入らないよ」と教えてくれたから十字架を目指したわけで,そういう事情がなければアンが十字架を目指す理由はありません。それなのになぜ,犯人はアンがここに来ることを予想し,前もって死体を貼り付けにしたんでしょうか。しかもこの山頂に至る道はなく,山登りをしなければ到着しないんですよ。どうやってあの死体を運んだんでしょうか。

 あと,犯人はどうやってアンが行く先々に先回りしていたのかも不明。マウンテンバイクより速いとなると車くらいしかないはずで,しかも,わき道もなさそうな山道です。つまり,アンをどこかで追い越さなければ先回りできないはずですが,アンはどこでもこの男に追い越されていないんですよ。
 とすると,原生林の中を走り回ったとしか思えません。しかも,最初のこの男の登場したシーンからすると,この男は山小屋のある地域の地元住民ではなさそうです。それなのに,あの異常なまでの土地勘ばっちりの行動はなぜできたんでしょうか。しかも,アンとマイケルが山小屋に行くのを決めたのは突然で,以前から計画していたものではありません。それなのに,あの広大な山のあちこちに用意周到に罠を張り巡らせることができた理由も全く理解不能。

 おまけに,アンの前後を考えない衝動的な行動ばかり目に付き,死者のほとんどはこの彼女の行動に巻き込まれて殺されたようなものです。暗にほんの少し思慮があれば,犠牲者は出なかったような気がしますが,それでは映画にならないか。

 そうそう,意味不明といえば《Chain チェーン》というタイトル。DVDのジャケットには両手をチェーンで縛られた女性の姿がありますが,こんなシーンは一箇所もないし,チェーン自体どこにも登場しません。なんなんだ,この映画タイトルは! ちなみに原題は《BLOOD TRAILS》でございます。


 というわけで,アンがマウンテンバイクで走るシーンしか頭に残らない映画でした。ま,クズ映画というほどはひどくないけど,常識的映画ファンは近づかないほうがよろしいかと。

(2008/04/30)

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