これぞハリウッドでしか作れない豪華絢爛,華麗な大馬鹿クズ映画です。でも,2004年の公開と同時に世界41ヶ国で初登場で第1位を記録し,今に至るまでユニバーサル映画で最高の興行成績じゃなかったでしょうか。確かに,ドラキュラ,狼男,フランケンシュタインさらにはジキルとハイドまで,ヨーロッパ界のモンスターがフル登場だし,ワイヤーアクションとCGによるアクションシーンは連続するし,その意味でも大画面で頭を空っぽにしてみている分には楽しいと思うのですが,ふと我にかえってしまうとすごく空しいんですよ・・・映画の中身が空っぽだからです。
別に中身が空っぽでもいいのです。それならそれで押し通せよ,ってことです。それなのに,いかにも深刻そうな宗教ネタを絡ませたり,呪われた生み出されたものの悲しみを描こうとしたり,それっぽい深刻そうな会話を絡ませたりするもんだから駄目なんですよ。中身の薄っぺらさが余計に際立っちゃう。
どうせ,深刻なことなんてちっとも考えていないし,そういうのを考える脳味噌もないんだから,「俺たち,馬鹿でいいもんね。馬鹿を貫き通すもんね」ってなノリで作っちゃえばいいのです。
でもって,90分くらいに縮めちゃう。それならピリッと引き締まった映画になったのにね。それなのに,深刻そうなネタを絡めてそれを長々と描くもんだから,132分という超大作になっちゃった。正直,良かったのは開始5分までのフランケンシュタイン誕生の部分だけで,その後は,最後の結末を見るために我慢してお付き合いしたようなものです。125分間,辛かったです。
モンスターを沢山出しちゃえ,というのも安易だったな。「ゴジラにガメラにキングギドラ,それでも足りない? えーい,ギャオスもモスラも付けちゃうよ,もってけ泥棒!」ってなアメ横のおじちゃんのだみ声を思い出しちゃったよ。
えーと,どういう内容の映画だったっけ? 中身がゴチャゴチャしていて,しかもストーリーに整合性がなく,行き当たりばったりの展開のため,まとめにくいんだよね。
舞台は19世紀のヨーロッパ。そこらに吸血鬼や狼男がいた時代です。そこで,バチカンの秘密組織があって,ヴァン・ヘルシングという男にモンスターハンターとして命を与えるわけね。で,モンスターを倒すんだけど,倒されたモンスターは人間の体に戻るもんだから,ヘルシングは殺人者としてお尋ね者になってしまうんだ。しかもヘルシングはなぜか過去の記憶が一切なく,自分が何者かを知らない,ということになっています(ちなみに,お尋ね者になっているという設定はこの後,全然生かされていません)。
そしてバチカンに,トランシルバニアに行ってドラキュラを倒せと命じられたヘルシングはその地に向かい,空を飛んで襲い掛かってくるドラキュラの花嫁たちに襲われる民衆に遭遇。そして,王女アナに出会います。彼女の一族は数百年にわたりドラキュラ一族と戦っていて,その最後の一人でした。おまけにそこには狼男もいて,彼女の兄は狼男狩りの最中に咬まれ,狼男に変身していて,ドラキュラ伯爵の手に落ちていました。そこで,アナとヘルシングはドラキュラを倒すために手を組みます。
ドラキュラ伯爵は花嫁との間に子供を作りますが,どうも何かが足りないようで育ちません。その鍵を握っていたのはフランケンシュタインでした。彼のみが唯一,「神の手で創造された命」でなかったからです。その生命力を繭の中の子供たちに吹き込めば,ドラキュラも子孫を残せるのです。そしてついに,ドラキュラはフランケンシュタインも手に入れ,最終実験が始まります。
ヘルシングは王女アナを無事に助け出せるのだろうか,ドラキュラの野望を打ち砕けるのだろうか,さらには,ヘルシングの隠された過去と消された記憶に何が隠されているのでしょうか,というクライマックスに向かうのでありました。
これでもかなり要領よく内容をまとめたつもりですが,改めて読んでみると,無茶苦茶な内容だということがわかりますよね。文章を書いていて頭が痛くなってきます。何でそこでお前が出てくる,というツッコミどころだらけです。
まず,全体を通してみると,何かに似ているなぁと思っていたら,思い出しました,サーカスです。飛んだり跳ねたり,登ったり落ちたり,転げたりぶつかったりの連続です。派手なワイヤーアクションが数分に一度は必ずあります。というか,普通に歩いているシーンより「飛んだり跳ねたり登ったり落ちたり」シーンのほうが多いくらいです・・・登場人物(?)の半分はモンスターですから・・・。そうそう,昔の「ターザン映画」にも似てますね,やたらとロープにつかまってたし。
その中にあって,主人公のヴァン・ヘルシングはちょっと地味です。戦闘能力は高くないし,連射式ボウガンを持っているけど滅多に当たりません。つまり主人公としての働きはあまりしていません。それなら,素晴らしい判断力があるとか情報分析能力があるとか,超人的な勇気があるとかならいいのに,それもありません。ヘルシング役はマッチョタイプのイケメンですが,内面的な魅力は皆無ですし感情の表現も乏しいです。
ヘルシングの補助要員としてバチカンが指名したのが修道士のカールです。発明お兄さんで,色々な武器を考える役です。特に「爆発する光を発する水」は威力満点です。これを使えば弱いヘルシングでも大丈夫,という感じがしますが,なぜかその威力は雑魚キャラにしか発揮されず,強い相手には使いません。しかも,最後の方になると発明の才能が発揮されることはなく,ただ走り回るだけになります。使い物になるようなならないような微妙なキャラです。
王女アナに扮するのは,私の大好き,ケイト・ベッキンセイルです。ですが,なぜかあまりきれいじゃありません,というか,ベッキンセイルであることに最初気がつきませんでした。化粧が濃すぎるのが原因じゃないかと思います。そして常にきつ目のコルセットを装着しています。そのコルセットのまま飛んだり跳ねたり登ったりぶつかったりします。身体能力はヘルシングをはるかに凌ぎます。だったら,コルセットをはずしたらもっと強かったと思うし,最後に死ぬこともなかったのでは?
叶三姉妹・・・じゃない,ドラキュラの花嫁の三人だったか四人が ちょっと可愛いです。
あとは単なるツッコミ。
それにしても,これほど金と手間をかけて作ったのに,なぜこんなに貧相で安っぽいな映画になっちゃったんだろうか。なぜこれほど華麗な映像の連続なのに,心に残るシーンが一つもないのだろうか。心に残る台詞もひとつもなかったし。要するに,中身がスカスカなんですね。美容外科とエステで完璧バディを手に入れ,豪華な衣装と宝石とバッグで飾っているのに,話してみたら単なる馬鹿で脳味噌スカスカ,ってな感じ,ってなところでしょうか。
(2008/09/)