新しい創傷治療:

《ナッシング・トゥ・ルーズ》 ★★★(1997年,アメリカ)


 ちょいとした暇つぶしに最適のノンストップ・コメディー映画。大傑作じゃないけど,安心して楽しめますよ。

 主人公はエリート広告会社重役のニック(ティム・ロビンス)。美しい最愛の妻とラブラブで公私共に絶好調。しかし,たまたま早く帰宅しちゃったら寝室からは妻のあえぎ声が! おまけに,こともあろうにニックの上司がそのお相手らしい。あまりのショックの放心状態のまま車に乗り込んで走らせ,どこかで車を止めたところでいきなり黒人に銃を突きつけられ,金と車を寄越せと脅してくるじゃないですか。

 カージャックをしてきたのはテレンス(マーティン・ローレンス)。彼は黒人街で妻と二人の子供と暮らしていて通信講座で電子機器取り扱いの資格を取るほど真面目な男だが,黒人というだけで仕事にはありつけず,仕方なしにケチな強盗と盗みをしては家族を養っていたのです(とはいっても,妻はそれを知らないんだけどね)。もちろんテレンスは根っからのワルじゃないから,根性なしで怖がりの腰抜けです。

 さあ,銃を突きつけられたニックはどうしたか。「もう失う物はない!」と叫ぶと,いきなり車を急発進! 対向車線は走るわ,ぶつかりそうになるわ,細い路地を走り抜けるわと暴走しちゃいます。もちろんテレンスは「止めてくれ,俺が悪かった,許してくれ」というけど,ニックは聞く耳持たず。おまけに自暴自棄になって財布まるごと窓の外に投げ捨てちゃう。そして気がつくとアリゾナの砂漠のど真ん中! 食事をしようにもガソリンを入れようにも金もカードもない(何しろさっき捨てちゃった)。しょうがないからテレンスにガソリン代を出してもらおうとするんだけど,テレンスだって一文無し。そこで銃を持ってガソリンスタンドに向かうのですよ。

 ところが,それを見ていたのがアリゾナ中を荒らしまわっている二人組みの本物の強盗。指名手配中です。こいつらが「俺たちのシマを荒らす奴は許すわけにいかない」とライフル銃を片手に車で追いかけてきて,ついに追い詰められ,車の外に出されます。絶体絶命のピンチで,テレンスは縮み上がっております。しかし「何も失うものはない」ニックはクソ度胸で立ち向かい,難なく形勢逆転。

 すっかり度胸のついちゃったニックは帰りの車の中で,妻を寝取った上司を破滅させてやろうと一つの計画を立てます。銀行を信用しない上司は会社の中の金庫に全財産を隠していて,その引き出し方をニックは知っているのです。何とか会社に忍び込んだはいいけれど,警報装置が新しいものに変わっていて解除できないのです。しかしテレンスはその装置を見て,「このタイプの警報装置は簡単に解除できるんだ」と蓋を器用に開けて配線を切ろうとします。

 ところがそのころ,ニックとテレンスの命を狙う例の「本物二人組強盗」もニックの会社の入り口に到着していたのでありました・・・ってなお話です。


 とにかく,二人があまりに強烈。ニックは白人の大男で社会の勝ち組。一方のテレンスは黒人のチビ(ナイナイ岡村の黒人バージョン,という感じです)で負け組み。暴力的に見えるテレンスが実は弱虫で銃も碌に扱えないのに,暴力なんて絶対にふるわないよね,と見えていたニックが実はキレて暴れまくりです。いい意味で予想を裏切ってくれます。

 この二人は出会った当初は快調なテンポでストーリーが進むのですが,その後ちょっと失速。「このままじゃ,あまり面白くなりそうにないな」と心配し始めた頃に,例の二人組みが絡んできます。こいつらが登場してから話のテンポが俄然よくなります。こいつらの絡み方はシンプルでわかりやすく,必要以上にストーリーをわかりにくくさせるようなことはありません。このあたりの脚本はちょっと見事でしょう。

 もともとコメディーなんで,最後の決着は予想通りといえば予想通りだし,勧善懲悪の姿勢はきちんと貫かれています。一部で説明不足の部分(ニック一人だけでは警報装置を切れないはずなのに,なぜあの金を返せたの? とかね)はありましたが,普段ささくれ立ったホラー映画ばかり見ている目には,一服の清涼剤でございました。

(2008/10/03)

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