《セブンソード》 ★★(2004年,香港/中国)


 時間をドブに捨てたような150分の大作映画でございました。もととなった小説は多分面白いと思うし,剣戟シーンだけ見れば迫力があったし,主演級の女優さんはどれも美人ぞろいだし,物語性もそれなりにあるのですが,途中の展開があまりにもグダグダし過ぎていて間延びしているし,それでいて150分以上の映画なのに登場人物の描写と物語の背景説明がまるで不足しています。私は全くの予備知識なしにDVDを見ましたが,最後の最後まで,誰が誰と何のために戦っているのかがよくわかりませんでした。一応,世界史の知識は人並みに持っているつもりですし,中国の歴史もそこそこ知っているつもりですが,この映画の歴史的背景は最後までわかりませんでした。時代背景をきちんと説明し,主要登場人物の説明をきちんとして,余計なラブシーンやエピソードをすべてカットして100分くらいの映画にすればよかったのに。

 ちなみにこの映画の監督は,かつて「香港のスピルバーグ」と賞賛されていたツイ・ハークです。《男たちの挽歌》という傑作を作っていたのは遠い過去になってしまったようです。


 というわけで,この映画を鑑賞するために必要な(小説の)知識をまとめておきます。

 舞台は中国,時代は17世紀初頭,つまり,明朝から清朝への移行期を背景にしています。ちなみに元になった小説は梁羽生(香港の小説家で,武侠をテーマにしている作品が多い)の『七劍下天山』です。

 明朝から清朝への移行は,漢民族国家から満州族国家への変化でした。そのため,満州族である新国家の清は漢民族を滅ぼそうと考え,武力による反乱を防ぐために「禁武令」,すなわち武術を使うことを禁じ,それに応じない者は殺すという命令を出します。しかし,清朝に従わず,明朝の復活を望む勢力もあり,彼らは「天地会」という結社を作りますが,次第に追い詰められていきます。
 一方,この変化にうまく立ち回る旧明朝の連中もいて,これがこの映画にも登場する「風火連城」です。彼らは禁武令を逆手に取り,清朝にうまく取り入るために「この村は禁武令に応じなかった」という口実を作っては集落を全滅させては略奪する,という悪逆非道を行います。そんな,なすすべもない漢民族を救うべく立ち上がった7つの剣を持つ七人の剣士であり,彼らを主人公にしたのが『七劍下天山』なのです。


 とまぁ,このくらいの知識がないとこの映画は楽しめません。映画の中で,いつの時代のことなのかという説明はないし,風火連城というのはどういう連中なのかもわからないし,天地会という会の名前もいきなり登場するからです。これは丁度,幕末を舞台にした劇で,いきなり「佐幕派」と言われても,何を主張するどの藩の勢力なのかがわからないのと同じです。そういうところでいきなり,「お前は天地会に反感を持っているに違いない」と言われても,見ているほうは何がなんだかわかりません。私なんて,「天地会って天地真理ファンの会なの?」という古いギャグを思い出したくらいです。

 おまけに,舞台となっている集落の武荘と天山の位置関係もわからなければ,風火連城のアジト(?)がどこにあるかもわからないため,距離感というか,時間の経過もわかりません。このあたりは極めて不親切です。


 しかも,7人の剣士といっても,この映画では5人はそれなりの腕を持つ剣士らしいということは(なんとなく)わかるけど,残りの2人は行きがかり上に加わった武荘の住民で,彼らがその特殊な武器をなぜ使えるのか,そもそもこの二人を7剣士に加えちゃっていいの? と困惑するばかりです。なぜ最初から7人の選ばれた剣士という設定にしなかったんだろうか?

 おまけにひどいのは,残りの5人の剣士にしてもどういう人間なのか,大雑把にしか描かれていません。どのようにして天山に向かったのか,彼らは自然に集まったのか,リーダーが集めたのかも全く説明なし。おまけに7人の人物設定(性格とか役割とか)が途中で変化するというムチャクチャさです。

 そうなったら,せめて7つの特殊な機能を持つ剣について説明してくれればいいのに,剣の名前が字幕にちょっと出て一言説明があるくらいで,こんな特性を持った剣なのか,どんなにすごいアイテムなのかという説明もありません。というか,なぜ7本の剣なのかという疑問が最後まで解決されません。


 それと,こういう映画に醍醐味といえば緻密な作戦と相場が決まっているのに,それもまるっきりありません。敵が大群で襲ってくるのがわかっているのだから,守りを固めるとか,ここかしこにトラップを仕掛けるとか,住民たちを訓練するとか,脱出路を作っておくとか,いくらでも事前に対策は取れたろうし,そうだったら見ているほうも面白いんだけど,なぜかそっちの方には話は進まず,「村を捨てて逃げ,途中にある岩山の洞窟に隠れる」という作戦と思えない大雑把すぎる手段をとります。しかも,馬車に収穫したばかりの食料を満載しています。オイオイ,追手は馬に乗っていて,逃げるほうは徒歩と馬車? 逃げられるわけねえだろ。

 さらに逃げる途中で,七星剣のリーダーは「馬を逃がして敵を攪乱する」という作戦を立てます。大切な馬との別れに号泣するシーンです・・・が,なぜ馬を放して,それで敵が撹乱されるんですか? 逃げる馬が敵目掛けて走ってくれる,というその一点にこの作戦の成否はかかっているはずですが,馬をただ逃がすだけじゃ駄目だろと,小学生でもわかります。

 最後に,村人たちが隠れている洞窟の周りを朝廷の兵が取り囲み,一方,七星剣の剣士たちはとらわれた仲間の救出のために風火連城の砦に向かいます。風火連城のラスボスが手に持つのは七星剣最強の剣で,七星剣の主役級(・・・といっても,なぜこいつが主役になっているのか不明で,いつの間にか主役になっているんですよ)が持つアイテムです。最強じゃない剣を持った主役剣士と,最強の剣を持ったラスボスの戦いはそれなりに迫力がありますが,「他の6本の剣も叩き切ることができる」最強の剣がなぜそれより劣る剣に破れたのか,それも不明です。

 また,朝廷の兵に取り囲まれていたはずの村人はなぜか無事で,兵士たちはどこにもいません。どうやら風火連城の連中とともに朝廷軍もいなくなったみたいです。お〜い,朝廷軍の皆さん,どこに行っちゃったの?


 これだけでも最悪なのに,3組の男女の恋愛を絡め,しかもお互いの愛を確かめる会話のシーンとか,お互いに見つめあうシーンがやたらと長いため,全体の流れがここで止まってしまいます。美人女優さんたちを集めた手前,一人一人別々にクローズアップシーンを入れないと収拾がつかなかったのかもしれません。
 しかも,戦場が舞台というのに,どの女優さんもメイクばっちり,眉も丁寧に描いていました。こういうところにはやけに気を使っている映画です。

 そうそう,剣戟シーンはそこそこの迫力なんですが,一人一人の動きをクローズアップを多用して撮影しているため,誰が誰がどういう技の応酬で戦っているのか,戦場全体がどうなっているのかが非常にわかりにくいです。これもこの映画の欠点でしょうね。

(2008/10/22)

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