《リーピング》 ★★(2007年,アメリカ)


 DVDジャケットを見て,これは多分ホラー映画だろうな,ってな軽い気分で借りちゃいましたが,神とサタンの争いというか,そっち方面のオカルト映画でした。旧約聖書の知識がないと何がなんだかよくわからない部分があり,私のような人間には「だから,なんなんだよ! あんたたちにとってはサタンや神は実在の存在かもしれないけど,オラたちにとっては御伽噺なんだよ。御伽噺をムキになってリアルに再現するってのはアホじゃないか?」というツッコミ満載映画です。もちろん,旧約聖書を本気で信じている人にとってはすごく面白い映画なのかもしれないけどね。

 ちなみにDVDジャケットの全身にヘビが巻きついている少女は登場しません。私はこの絵に騙されました。


 主人公のキャサリン(ヒラリー・スワンク)はかつて女性宣教師(?)としてスーダンでの布教活動に参加していましたが,彼女たちがある村に言ってから全く雨が降らなくなり,彼女の夫と娘は生贄として殺されるという凄惨な経験をしています。それから神が全く信じられなくなったキャサリンは科学に道を転じ,聖書に書かれた様々な奇跡や現実に起きている怪奇現象をすべて科学的に証明するという活動に身を投じています。

 そんな時,ルイジアナ州の片田舎,ヘイヴンという小さな町で川の水が真っ赤になるという事件が起こり,彼女は調査に赴きます。そして10歳の少女(アナソフィア・ロブ)が兄を殺し,それから皮が真っ赤になったため,町の住人はその少女が悪魔の化身で,この町に禍をもたらそうとしているのだと噂していることを知ります。

 キャサリンと同僚は真っ赤な川の調査を開始しますが,その目の前で空から大量のカエルの死体が降り注ぎ,アブが集まってくるという不思議な現象に遭遇。それが,旧約聖書の「出エジプト記」に記載された「エジプトを襲った10の災難」と同じであることを知り,事件はまだ始まったばかりだということに気がつきます。

 少女はなぜ兄を殺したのか,なぜ殺さなければいけなかったのか,彼女は本当に悪魔の化身なのか,なぜ旧約聖書に書かれた出来事が再び起こるのか,何よりキャサリンは生きてその町から出られるのか・・・という映画は進みます。


 と,映画の前半分くらいを要約して見ましたが,よほど聖書に詳しい人でなければ,この展開,ついていけませんよね。何しろ物語の根拠というか展開の方向がすべて「最初に聖書ありき」なわけですから,観客に対して説明が一切ないのですよ。つまり,「皆さんご存知の出エジプト記のお話だから,説明はなしだよ」というスタンスなのです。

 というわけで,まずはこの「10の災厄」ってのは次の10個です。

  1. ナイル川の水が血に変わって魚が死に絶える。
  2. カエルがウジャウジャと現れて町中を占拠。
  3. 無数のブヨが家畜を襲う。
  4. ブヨの次にアブが襲う。
  5. 家畜に疫病が発生。
  6. 皮膚がただれる病気が蔓延。
  7. 雷鳴がとどろき,ヒョウが激しく降り,作物が全滅。
  8. イナゴの大群が押し寄せて残った草も木もすべて食い尽くす。
  9. エジプト全土が暗闇に覆われてそれが3日3晩続く。
  10. エジプト中の長子が死ぬ。

 ちなみに,映画の最初の方でキャサリンがこの10個の不思議な現象を極めてクリアカットに科学的に説明しています。これは見事ですよ。


 というわけで,このヘイヴンという小さな平和な町に「血の川」を筆頭に,次々に怪奇現象が起こるわけですね。画像的に派手なのはイナゴの大群ですが,血の川はどう見ても川全体を赤く染めたとしか思えないんですね。あれはどうやって撮影したんでしょうか。これはちょっとした見ものです。
 ブヨとアブは登場しますが,焼いているお肉にたかる程度なんで,これをもって「エジプトの10の災厄の一つだ」と言われても納得できませんよ。そういえば,ヒョウが激しく降るシーンってのはあったっけ?

 で,これらの災厄はサタンの化身である10歳の少女が起こしたことだ,と町の人が主張するんだけど,ヒロインはどうしてもそれが信じられず,この娘はおびえているだけの普通の子供じゃないのか,と疑い,次第に謎が解けていくというストーリーなんですが,ふと我にかえると,「10の災厄ってサタンがエジプトにもたらした災厄だったっけ?」という基本的疑問を感じるわけですよ。旧約聖書のあの場面は確か,神を信じなくなったエジプトの民に神様が怒っちゃって,その怒りを愚かな民に伝えるために起こしたものですよね。

 となると,どう考えても〔少女=サタン〕という図式は成立しなくなることに気がつきます。サタンでないとなると,この少女は普通の人間か神様側の誰かでしかなくなり,この時点で全体のストーリーが読めてしまいます。ここに気がつかなければ,最後のどんでん返しで「おお,そうだったのか!」とびっくりしたところですが,ちょっと損した気分です。


 基本的にはそれなりに良くできた映画なんですが,細部を見ていくと前後の脈絡がつかない部分があります。例えば,キャサリンが布教に行くという部分。ここで彼女は「神父」と一緒に活動するのでカソリックと思われますが,その場合は女性の祭司はいないはずです。ところがその後,「牧師としての地位をなげうって科学者になり」という台詞があります。宗教を素材にした映画にしてはちょっとお粗末な気がします。

 さらに,研究者になってからの彼女はどうやら大学教授らしいのですが,そうなると彼女の年齢は何歳なのかというのが問題になります。スーダンでの悲劇で彼女の子供は7歳前後と思われますから,どんなに若くてもこのとき25歳,通常は30歳前後でしょう。それからアメリカに戻って大学に入り直し,学位を取得し,さらに研究者生活を送ってから教授になるのですから,どんなに超特急で教授になったとしても45歳以上と思われます。それなのに・・・なんですね。

 結局,神様(天使)と悪魔の戦い,というのを受け入れられるかどうかにかかっている映画です。悪魔を実在の存在として感じている人にはこの映画は素晴らしい映画になるでしょうが,私のような人間にとっては「神様 vs 悪魔」の対決は「ガメラ vs キングギドラ」の対決と大差ありません。どちらも御伽噺であり,空想の世界の戯言だからです。


 というわけで,天使と悪魔の争いがお好きな人だけにお勧めできる映画でした。

(2008/10/24)

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