漫画『ゴルゴ13』にハイジャック犯を1キロ離れた地点から狙撃を依頼される,という話があった。確実に1発でハイジャック犯の命を奪わなければ飛行機に仕掛けられた爆弾が爆発する,という設定だったと思う。それを彷彿とさせるスナイパーが活躍する活躍する派手なアクション映画。
細かく見ていくと前後関係がおかしかったりする部分はかなりあるが,そういうのにこだわらなければ2時間たっぷり楽しめるはずだ。ちなみに,原作は『極大射程』という小説で,2000年にベストセラーになっていたから,お読みになられて人も多いと思う。
主人公のスワガーはアメリカ海兵隊に所属する射撃の名手で,相棒と一緒にアフリカの小国に派遣され,偵察任務をしていた。そして武装車両を発見したために攻撃を始めるが,思わぬ反撃を受けて相棒は死に,しかも部隊との連絡も取れなくなり,隊から見捨てられたことを知る。何とか生還するが,スワガーは山奥で世捨て人のような生活を送っていた。
そんな彼のもとに,大統領の狙撃計画が発覚し,それを阻止して欲しいという依頼が舞い込む。電話の盗聴で発見されたその計画とは,演説中の大統領を1.6km離れた地点から狙撃するというものだった。そこで,狙撃のプロの目から狙撃ポイントを割り出し,大統領狙撃を未然に防いでくれという内容だった。しかしそれは巨大な陰謀の一部であり,スワガーに狙撃の罪を負わせようとする計画だった・・・という感じの映画だ。
とにかく面白いのが,1kmを越す距離からの狙撃に関する説明だ。射撃から着弾までにどのくらい時間がかかるのか,どういう要素が作用するのか,その要素をいかにして察知し,射撃に組み込むのかといった知識を披露するのだが,こういう細部へのこだわりがいい。また,主人公のガンアクションも見事である。
さらに面白いのが,普通にスーパーにある生活雑貨で傷の治療をしたり,武器を作ったりするサバイバル・シーン。自分で食塩水を点滴しちゃうシーンはムチャクチャだけど,それ以外のナパーム弾やパイプ爆弾を自作するところや,それを仕掛けて武装している敵の隠れ家を襲うシーンは,『ゴルゴ13』好きにはたまらないと思う。あるいは,警察に追われて逃げるシーンでの気転の働かせ方も見事。狙撃犯としてテレビに顔が出ているのに店で買い物を無事にする方法は非常に面白かった。
それと,事件に巻き込まれてやがてスワガーとともに行動することになるFBIの新米捜査官が,最初はすごく頼りないのに次第にたくましく成長していく姿も結構いいぞ。スワガーの特訓で射撃の上手くなるという設定もいいですね。ただ,あんな短期間でそれほど上手くなるってのはちょっと出来過ぎだけど・・・。
そして,事件の黒幕への決着のつけ方もスカッとしますね。やはりこういうアクション映画は勧善懲悪でなければいけませんよ。
ただ,細部にこだわるとちょっと変な部分が多いのも事実。例えば,最初の方でスワガーは肩に1発,腹部に1発銃弾を受けて逃げ回るシーンがある。最初の方はかなり痛そうだし,足を引きずるようにしか歩けないのだが,なぜかその後,すぐに走れるようになっているし,胸の傷の位置から見ると右肺尖部損傷は間違いなくある場所だし,腹部にしても確実に内臓損傷がある場所である。見た瞬間,これは病院に行かなければ死ぬな,と思ったが大丈夫だったようだった。
あるいは,人質交換の場所に雪の積もる山を選ぶのはいいとしても,スワガーたちはそこまでどうやってたどり着いたのとか(何しろ相手側はヘリで来るからいいけど,スワガー側は途中までは来るまでいいとして,その後は徒歩のはず),2度目のヘリとの銃撃戦であんな都合のいいところに爆発物が入ったタンクがあったのはなぜとか,いくらでもツッコミを入れられるはずだ。
そういうアラはあるけど,楽しかったし後味も良かったから許しちゃいましょう。
(2008/11/01)