新しい創傷治療:HOLE ホール

《HOLE ホール》 (2005年,スペイン)


 「なんじゃ,こりゃ」系の不条理映画。これだけ詰まらない映画も久し振りでございました。最後に「この映画は一体何だったのか」が明かされるのかなと思って頑張って最後まで見ましたが,結局,最後の最後まで,なぜ主人公が閉じ込められたのか,閉じ込めた二人の男の目的は何なのか,この映画の作り手は一体何のためにこの映画を作ったのかがわからずじまいでした。人生の深い意味みたいなことをちょっと考えさせるんだけど,それにしてはすべてが未解決に終わってしまい,観客はいきなり放り出された感じです。


 「これは誰にでも起こりうる物語である」とかいうナレーションで始まり,主人公ミゲルが目を覚ますとそこは深さ5メートル,半径3メートル弱くらいの井戸の中。そこがどこなのか,なぜそんなところにいるのかは全く不明。すると,外から二人の目出し帽をかぶった男が覗き来るわけです。「出してくれ!」と叫んでも反応なし。そしてロウソクとマッチ,そしてわずかな食料を投げ入れて井戸に蓋をしてしまいます。そして,次第にミゲルは精神を病んでいき・・・ってな感じです。


 オイオイ,それじゃ全然ストーリーになってないよ,と文句が四方八方から聞こえてきますが,本当にこれしかないのです。途中で目出し帽男たちが井戸の中に降りてきたり,ミゲルがわずかに反抗したり,男たちとの短い会話があったりしますが,それ以外はひたすらミゲルが壊れていく様子を克明に追っていくだけです。その意味で,ミゲル役の俳優さんの演技はすごいです。本当にこいつ,狂っちゃったんじゃないの,という表情になり,見ていて痛々しい限りです。

 目出し帽男たちの意図は最後まで不明です。身代金目当ての監禁でもなければ,ミゲルに恨みを抱いての反抗でもなさそうです。ミゲルに銃を突きつけますが,どうも殺そうという意図もなさそうです。そしてミゲルも監禁される理由がわからないし,男たちと面識もありません。また,ミゲルがどんな人間なのか,何をしている男なのかも最後まで不明です。そしてもちろん,ミゲルの悪夢というわけでもないし,異界での出来事というわけでもありません。要するに,作り手側と鑑賞する側で何一つ共有できるものがないのです。


 ミゲルの行動も意味不明です。井戸の中をグルグル歩き回るだけで,壁の様子を調べるでもなく,登る算段を立てるでもなく,ひたすら相手の言いなりです。途中でロープで物が下ろされるシーンが幾つかありましたが,普通ならこのロープを引っ張って相手を落とそうとか,ロープを奪って何かに使うとか考えるはずですが,そういうことは全くしません。また,梯子(はしご)で降りてくる目出し帽男をなぐり倒し,その梯子上ろうとしたところでもう一人の目出し帽男から銃を突きつけられる,というシーンもありますが,ここでもおとなしく引き下がります。これまでの目出し帽男たちの言動から,彼らにはミゲルを殺そうとする意図はなさそうなので(殺すのが目的ならさっさと殺しているはず),そのまま登ってしまってよかったんじゃないでしょうか。

 このようにストーリーはあってないようなものというか,作者の考えるストーリーが観客側に全然伝わらないという映画ですが,音楽は非常に凝っていて,延々とオペラのアリアが歌われる部分があったりします。何かを伝えようとして使ったのかもしれないけれど,よくわかりません。


 そういうわけで,よほどの物好き以外は見ることはお勧めしません。この映画が好きという人もいるかもしれないけど,私には理解できません。

(2008/11/21)

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