《サイレントノイズ》 ★★★(2004年,アメリカ)


 オカルト映画と宗教映画には共通点がある。どちらも対象としているものが実在してることを前提としている点だ。例えば,オカルト映画だと悪魔とか怨霊が実在することを前提にしているし,宗教映画の場合には神や天使が実在することを前提にしている。多分,こういう映画を作っている側の人にとっては「天使や神や悪魔が本当に存在するのって当たり前じゃん! っていうか,存在することを信じない人間がいるなんて信じられないよ」というスタンスなんじゃないだろうかと思う。だから往々にして,悪魔が実在していることを周知の事実として物語を始めるもんだから,そういう前提がない観客はその映画がマジで作っているのか,それともギャグ映画なのか,どう反応していいかわからないことがある。

 例えば,「ノアの箱舟発掘プロジェクト」なんてのがあったとき,私なんかは「これってギャグなんだよね。ヤマタノオロチの化石発掘と同じレベルの冗談プロジェクトなんでしょう?」って考えちゃうんだけど,どうやらキリスト教にどっぷり使っている人の中には,ノアの箱舟は実在したと思っている人がいるみたいだし,聖書の記述は科学的事実より正しいと本気で信じている人がいるわけなんですね。

 というわけで,そういう系統の映画です。死後の世界があって,霊は私たちに何かを伝えようとしている,というのを信じ込んでいる人には入り込める映画でしょうが,そうでない人には結構辛いものがあります。


 ちなみにこの映画の最重要アイテムは電子音声現象(Electronic Voice Phenomenon, EVP)です。1970年頃,サラ・エステップという女性が「何も録音されていないオープンリール式テープレコーダーを再生してみたら,死んだ夫の声が聞こえてきた。これは霊となった夫が語りかけているに違いない。死後の世界はあるのだ」と主張したことに始まるらしい。ラジオでどの曲も受信できない周波数に合わせるとホワイトノイズという雑音しか聞こえないが(映画の原題はこれに基づいている),それを録音して再生すると声らしいものが聞こえる,という実験が繰り返されているらしいです。

 ま,常識的に考えれば,雑音はいろいろな音の集合体ですから,それを録音してフィルターをかけて再生すれば(その様子はこの映画でも描かれています),いろいろな音が聞こえてくるだろうし,聞き様によっては人の声「らしきもの」が聞こえてきても不思議ないよな,と思うんですけどね。心霊写真と同じで,見ようと思うと人の顔にも手にも見える,ってやつです。
 ちなみに,衛星写真の雲を見ていると人の顔とか動物の顔とか,色々見えてきます・・・見ようと思ってみればね。ま、霊感の強い(と自称する)ヒトならその衛星写真を見て「太平洋には海で死んだ死者の霊が漂っている」とか言い出すんだろうな。


 というわけで,ちょっとストーリーを紹介。

 主人公は建築家のジョナサン・リバース。前妻との間にできた子供のマイケル,そして新妻(?)で小説家のアンナの3人で幸せ一杯に暮らしています。しかしある日,妻は不慮の事故に巻き込まれて行方不明になってしまいます。そして呆然としているジョナサンの前にレイモンドと名乗る男が現れます。彼はEVPを研究していて,死者の霊の声を録音していると告げます。最初,相手にしなかったジョナサンですが,次々と彼の身の回りに不可思議な出来事が起きたことから,レイモンドの自宅を訪れ,ビデオから再生されるアンナの声を聴き,EVPの存在を信じていきます。

 その後,レイモンドが亡くなったことから,ジョナサンはEVP研究を引き継ぎ,自宅に装置一式を入れ,さらにEVPにのめり込みます。協力を求めた霊媒師は「いい霊ばかりでなく悪霊がいます。霊の世界と交流するのはとても危険です」と注意しますが,ジョナサンは聞く耳持たず。そしてアンナの霊から驚くべき事実を告げられますが,それは悪霊の恐怖の世界への入り口に過ぎなかったのです。


 ・・・というわけで,私は「オカルト寄りのサスペンス映画でちょっぴりホラー風味を加味しました」というスタンスの映画だと思ったのですが,どうも映画の作り手側は「実在する霊の世界を舞台とした本格的サスペンス映画」として作ったんじゃないかと思われます。私のように「死者の霊なんて,御伽噺じゃあるまいし」と思っている人間にとっては,何の説明もなしにいきなり「EVPで死者の声が聞こえるのです」なんて言われても,何じゃそりゃ? なんですよね。

 しかも,映画のほうはEVPで止まらずに,そのまま「悪霊との戦い」モードに突入していきます。EVPでも戸惑っているのに,今度は悪霊ですか? おまけに,それに誘拐事件が絡んできて,アンナの声を頼りにジョナサンが犠牲者を助けに行き,しかもその犯人は悪霊に操られていると説明されます。ここまでくると,見ているほうも何がなんだかわからなくなってきます。

 映画の初めの方は,亡き妻とのしっとりした愛情物語というモードで進むのですが,EVPが登場するあたりからオカルト映画に変身し,次第にホラーの要素が強くなり,唐突に悪霊対決映画になってしまいます。要するに,一つの作品としての中心軸がありません。そのため,見終わったときに,印象は非常に散漫だし,何を描きたかったのかも伝わってこないし,あの結末はいったい何だったのか,と言う疑問しか残りません。


 さらに,主人公のジョナサンが建築家というのはいいとしても,妻のアンナが売れっ子の作家だという設定はその後の展開でまったく生かされておらず,なぜわざわざ「小説家」という特殊職業に設定したのか意味がわかりません。

 そしてさらに不可解なのが,子供のマイケルが前妻との間にできた子供だという設定です。必要以上に人間関係を複雑にしているだけとしか思えません。
 そして,最大に不可解なのは,ジョナサンが子供のマイケルに対する愛情が、画面からはまったく感じられないことです。何しろ,レイモンドの死後,EVPにのめり込むシーンではマイケルは完全にネグレクトされています。見ていてマイケル君(まだ7歳くらいかな?)が可哀想になってくるくらいです。私は初め,マイケルはジョナサンの子供でなく,アンナの連れ子でそれで冷たくしているのか,と思ったくらいです。


 そういえば,霊となったアンナがジョナサンに未来に起こる事件を告げるのはいいとしても,その意図は何だったのかが最後までわからないし,悪霊とアンナの霊の関係もわかりません。要するに,悪霊がアンナの霊を利用したのか,アンナの霊は悪霊に対抗しているのか・・・という基本的な部分に説明がまったくなされていないのです。

 また,後半になるほど手抜きシーンが多く,最後の悪霊との戦いでは何が起きているのか,何がどうなっているのか,いったい何が起きているのかが,見ている方にほとんど伝わりません。もしもこのシーンを全体のクライマックスに据えるのであれば,画面構成というかカメラワークをもっと工夫すべきだったと思います。


 というわけで,死者の霊との交信ができると本気で信じている人にだけオススメの映画でした。

(2008/11/27)

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