《アルティメット BANLIEUE 13》 ★★★★(2004年,フランス)


 流麗・華麗なフランス生まれのアクション映画。とにかく,主演二人の身のこなしがすごいです。そして美しいです。しかもどうやら,ワイヤーアクションでもなければ,スタントも使っていないらしいです。もちろん,CGでもありません。徹頭徹尾,肉体が躍動します。生身の人間ってここまで動けるんだ,人間は鍛えるとここまで美しく動けるのか,という感動を覚えます。まさに,超一流のアスリートの動きです。特に,冒頭から10分くらい続く主人公レイト(デヴィッド・ベル)の猫のようなしなやかな動きは見とれてしまうほどです。このシーンだけで十分に元は取れたような気になります。次のYouTubeでご鑑賞ください。


 ただ,問題点がないわけでありません。ストーリーは一応きちんとしているものの,ここかしこに都合よすぎる場面が顔を出すし,冒頭のアクションを越えるものがその後ないからです。このあたりは《アフロ・サッカー》や《マッハ!》に共通する弱点です。最初に見所のすべてを出してしまったために、その後の素晴らしいアクションが「これ、さっき見なかったっけ?」という既視感を覚えてしまうのです。そして,アクション部分を除いてしまうと,残るのはかなり陳腐なストーリーです。ここらがおそらく,アクション映画に共通する問題点であり難しさなんでしょうね。


 ストーリーはこんな感じでした。

 舞台は2010年のパリ近郊の「13地区(BANLIEUE 13)」。ここでは犯罪が多発し,治安も低下し,警察の手も十分に及ばなくなったため,18年前に壁で封鎖され,隔離されて見放された地になっています。ここで生まれ育ったレイト(デヴィッド・ベル)は単身立ち上がり,町の浄化を志し,ギャングのボス,タハの収入源である麻薬を盗み出します。怒り狂ったタハはレイトの妹ローラを拉致しますが,その一歩先を行くレイトはタハのアジトに踏み込み,妹を救出するとともにタハを逆に拉致し,警察に突き出します。しかし,なぜか警察は「警察はこの地域から撤退することが決まった。だからタハは逮捕しない」と言い張り,タハを釈放し,逆にレイトを刑務所に収監してしまいます。そしてタハはローラを連れ去り麻薬漬けにします。

 6ヵ月後,パリ警察の特殊潜入捜査官,ダミアンに新しい指令が下されます。「中性子爆弾(半径10キロくらいのあらゆる生物を殺せるが,中性子しか出さないために建物は無傷という爆弾)を積んだ車がタハ一味に襲撃され,13地区に持ち込まれたらしい。しかも起爆装置がすでに起動してしまっている。13地区に潜入し,起爆装置を解除せよ」という命令でした。それには13地区のことを知り尽くしている人間が必要,ということで,レイトに白羽の矢が立ち,二人は地獄の13地区に向かうのでした・・・ってな感じです。


 まず最初に,主演の二人について触れておきましょう。
 レイトを演じるデヴィッド・ベルはFree Running競技「パルクール」の提唱者です。YouTubeで「パルクール(Parkour)」で検索すると幾つか見つかると思いますので,まずそれをご覧いただくのが早道ですが,街中でスタート地点とゴール地点を設定し,その間を駆け抜けるものですが,宙返りなどのパフォーマンスは入れなければいけないし,スピードも要求されるために,高いところから飛び降りたり,高い壁に飛び上ったりと,素早さとしなやかさと力強さが同時に要求されるスポーツのようです。その提唱者だけあって,13地区のビルからビルを飛び越え,はしごを上り,30センチほどの窓の隙間からするりと入り込むベルの動きは惚れ惚れするほど美しく,そして力強いです。

そして,後半,彼とコンビを組むデミアン役はサーカス出身のスタント俳優であるシリル・ラファエリですが,マーシャルアーツ系と思われる格闘シーンは迫力満点。こちらもお見事です。

 と,この二人の動きを格闘シーンだけを見ている分には何の不満もありません。むしろ,繰り返し見たいくらいです。デヴィッド・ベルのパフォーマンスだけのDVDがあったら絶対に欲しくなるはずです。


 しかし,そういう部分以外,つまり「映画の骨格部分」は説明不足の部分がかなりあります。

 例えば,レイトの妹ローラはタハにつかまって6ヶ月間覚醒剤漬けにされています。通常なら強度の中毒であって,それから離脱することはほぼ不可能でしょう。だから私は,ローラが連れ去られたシーンを見て,「おそらく最後にローラは死ぬんだろうな」と思っていました。だって,兄と再会したところで再起不能のジャンキーなので,最後の対決シーンで流れ弾当たって兄の目の前で死ぬ,というお涙シーンがあるんだろうな,と思っていました。ところが,ローラは6ヶ月間麻薬漬けだったはずなのに,すぐに回復し,頭脳明晰になります。これはさすがに「ありえねぇ!」と呆れましたね。

 それと,中性子爆弾でクズどもを一掃しようぜ,というのはありとしても,それにこんな回りくどい計画を立てるというのもおかしいですね。この計画が成功するには,幾多の偶然が必要だからです。それだったら,13地区のどこかに爆弾を置いて起爆スイッチを入れるだけでいいんじゃないの? それと,半径5キロだったか8キロを死滅させることができるのですから,精確な位置を入力させる意味もないはずです。最後に明かされる真相がわかると,このあたりの不自然さがすごく目立ってしまいます。

 不自然といえば,そもそもレイトが単身で麻薬撲滅運動を始める理由が,まったく描かれていません。何かの出来事があったからなのか,神様のお告げでもあったのか,そういうところが全然不明です。それと、同じ地区に妹がいるのに浄化活動を始めるというのは最初から無理です。だって、ギャングさんたちは真っ先に妹を捕まえて、それからレイトに「妹を殺されたくなかったら・・・」と脅せばいいだけの話ですから。通常なら、まず妹を「壁の外」に逃がし、それから浄化作戦を開始するはずです。

 そうそう,爆破の日時が「バカンスが終わり,皆が街に戻ってくる日」というのもおかしいぞ。だってこの13地区は壁で閉鎖されているんじゃなかったっけ。どこにバカンスに行けって言うの? このあたりの詰めも甘かったな。


 と,細かいところまで見ていくといろいろ雑な部分は見えてきますが(製作は何しろあのリュック・ベッソンだ),とりあえず新感覚のアクション映画を見てみたいという人には一見の価値があると思いますし,何よりデヴィッド・ベルの猫のようにしなやかな肉体の躍動はそれだけで感動的です。

(2008/11/28)

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