新しい創傷治療:機械じかけの小児病棟

《機械じかけの小児病棟 FRAGILE》 ★★★★(2005年,スペイン)


 極めて丁寧に作られた良質のスペイン発のホラー映画。「ほら,どうだ,怖いだろう!」と言いたげなアメリカのホラー映画と違い,ジワジワと怖さが迫ってくる作品です。今まで見てきたホラー映画でもトップクラスの怖さですが,最後まで見ると爽やかな感動が残り,その点でもいい映画だと思いますね。
 ちなみに,スペイン映画なのに舞台はイギリスだったりします。


 舞台はイギリスの南東部にあるワイト島の小児病院。この病院は老朽化したために閉鎖の予定で,ロンドンの病院に入院患者を移動中でしたが,列車事故のために受け入れ先の病院が満杯になり,この小児病院閉鎖が遅れています。そしてこの病院では不思議な事故が起きています。入院していた子供の一人がベッドに寝ている最中に大腿骨を骨折したのです。もちろん原因は不明。

 その病院に夜勤看護婦として採用されたのがエイミー。彼女はマギーというcystic fibrosisの患者の不思議な言動に戸惑いながらも夜勤に入りますが,長年閉鎖されて使われていないはずの2階から謎の物音が聞こえてきます。そしてマギーからシャーロットという機械のような足をした少女が2階にいる,という話を聞きます。当初信じようとしなかったエイミーですが,次第にその存在を信じるようになり,シャーロットが誰なのかについて過去のカルテを調べますが,なぜか彼女のカルテは見つかりません。しかしついに彼女の目の前にもシャーロットが姿を現します。そして,シャーロットとは誰なのか,なぜその病院に付きまとっているのか,なぜ子供たちに原因不明の骨折が起きているのかが明らかになります。そして,嵐の夜,惨劇が幕を明けるのでした・・・という映画。


 「機械仕掛けの少女」は最後の最後に登場しますが、顔は結構怖いです。派手なメークをしているわけでもないのですが,変にリアルなんですね。しかも下肢に入っている金属が妙に痛々しく,これを見ただけで駄目,という人は結構いるんじゃないでしょうか(もちろん医療関係者は平気だけど)。その他にも,亡霊が出てこないシーンも結構怖いです。何しろ病院の2階病棟はある事件(もちろん,今回の事件の発端になっている)のために長年閉鎖されているため,廃墟と化しているんですが,ご存知のように廃墟となった病院というのはそれだけでも怖いものがあります。おまけに,イギリスの片田舎とあって病院全体が古く,それだけでそこらに何かいるような気配が漂っています。

 また,シャーロットの正体を探るというサスペンスの要素もしっかりしていて,断片的に得られる証拠を積み重ねて次第にシャーロットの目的が明らかになる過程もスリリングでゾクゾクするものがあります。しかも,一見無関係に見えた現象の一つ一つ,言葉の一つ一つが最後にうまくつながり,全ての伏線が生かされているのも気持ちいいです。総婦長の態度も,同僚看護師の態度も何か怪しげなんだけど,その理由もよくわかります。なるほどね,それで事件を隠そうとしたのか。なるほど,それでシャーロットのカルテがいくら探しても見つからなかったのか。


 エイミーの勇気と行動力がいいです。彼女が怪奇現象から逃げずに,最後まで子供を守ろうとする理由も明らかにされます。彼女は以前働いていた病院で不注意から医療事故を起こしてしまい,子供を死なせてしまったのです。だから彼女はもう,子供の死ぬ姿を見るわけにはいかないのです。その病院で以前に起きた事件を執拗に調べ,廃墟と化した2階病棟に一人で足を踏み入れるのも全てマギーら子供たちを助けるためなのです。

 エイミーが心肺停止状態になり,AEDを何度かけても蘇生しないシーンで,その前に子供たちが見ていたディズニー・アニメでマギーがもらす感想が生かされているのも面白かったし,アニメ鑑賞シーンと現実がうまく重なり合っていて,見事だったな。


 元題は《Fragile》で「骨形成異常症で骨がもろくなって折れやすくなっている」状態からきたものですが,映画の後半,「誰が」Fragileなのかは明らかにされます。

 いずれにしても,派手な流血シーンもおどろおどろしい特殊メークもなく(血が傷から噴出すシーンはありますが,これはその後の展開に必要な「出血」です),エロもグロもなく,真正面から「恐怖」を描いた秀作といっていいでしょう。正統派のホラー映画の面白さを満喫しました。

(2008/12/03)

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