《パーフェクト・ストレンジャー》 ★★(2007年,アメリカ)


 「ラスト7分11秒まで,真犯人は絶対わからない」というのが売りの映画です。というか,それしかない映画です。そして,真犯人が最後に明かされますが,それがわかってしまうと後に何も残りません。「もしかしたらこいつが犯人ってことないよね。何が何でもそういう反則技は使わないよね」と思いながら最後まで見ましたが,まさにその反則技でした。確かにこれなら観客は騙せるけど,「この真相を明かすためにここまで引っ張ったの? 金返せ!」という反感しかもたらさないし,この映画の監督の他の作品は絶対に見たくなくなります。「どうせあんたのことだから,せこくて汚い手でまた騙すんだろ」と思っちゃいますからね。


 一応,ストーリーを紹介。

 新聞社の女性記者,ハリー・ベリー(ハル・ベリー)が主人公。議員のスキャンダルを追っていましたが,者の上層部からの圧力で記事をもみ消され,怒って退職したばかりです。そんなとき,幼なじみのニッキーが変死体となって発見されるという事件が起こります。彼女には数日前にあったばかりで,そのとき彼女はチャットで知り合ったある有名な広告代理会社社長(ブルース・ウィリス)と不倫しているが一方的に別れ話を持ち出されて怒っている,と話したばかりでした。

 そこで,この社長が犯人でないかと疑ったハリーは臨時の派遣社員になりすまして彼の会社に入り込み,社長の身辺を調べていき,同時に女好き社長の目に留まり,次第に親しくなっていきます。そしてその頃,ニッキーの体から劇薬のベラドンナ(アトロピン)が検出され,社長の妻(大富豪の娘らしい)がアトロピンを使って瞳孔を散大させて網膜を撮影し,それを芸術作品として発表していることを知ります。そしてついに殺人容疑で社長は逮捕されますが,実は・・・という映画です。


 前述したように,真犯人は確かに「あっと驚く」人物です。しかしその驚き方は,「最初の方にちょっと登場した人物が最後にいきなり再登場したかと思ったら,実はこいつが犯人だった」というのに近い感じ,と言ったらわかってもらえるでしょうか。あるいは,「怨恨による殺人事件を扱った映画だと思って見ていたら,実は行き当たりばったりの殺人事件だった」と真相が明かされたみたいな感じですね。

 登場人物は結構多く,利害関係が複雑に絡み合っていて,しかも皆がちょっとゆがんだ性癖というか裏の事情がありそうで,しかも思わせぶりのシーンが多いため,複雑な事件に見えます。しかし,事件の真相が分かってしまうと,その全てが,わざとわかりにくくするための無駄シーンだったことがわかります。

 要するに,結末がわかってしまうと,殺されたニッキーと関係がある人間が実は数人しかいないことがわかります。主人公のハリー,広告会社社長とその妻,ハリーが付き合っている男(実は以前ニッキーと付き合っていた),ニッキーの両親くらいでしょうか。だから,犯人はこの中にいるということになります。そして,「ラスト7分11秒まで,真犯人は絶対わからない」という挑戦的煽り文句からすると,いかにも真犯人に思える会社社長は真犯人でないことは明らかですし,彼の妻もニッキーを殺す動機は余りに明瞭・平凡なので犯人ではないということがわかり,とすると・・・,ということになるんですね。

 しかし,見ている時はそれがすごくわかりにくく,見ている側が犯人(真相)を推理しにくいのです。理由は簡単で,真相解明のための手がかりを必要以上に隠していることと,無駄なエピソードの描写にばかり時間をかけているからです。要するに,推理しようにも手がかりなりそうな事実が余りにも希薄という感じです。確かに真犯人が分かってしまえば,そういえばあのシーンは○○だったわけね,とわかりますが,それはあくまでも結果が分かってからの話です。


 この感じは,一番最後にルールの説明があるスポーツみたいなものです。だから,見ている方にはどうやったら点数が入るのかも,点数の付け方もわからず,プレーヤーの役割もわからない,ということになります。そして試合が終わってからルールの説明があって,「あのシーンでのプレーはこういう目的だった」とか「この試合を決めたプレーはこれだった」とか解説がある,という感じですね。要するに究極の「後出しジャンケン」です。

 確かにこうすれば「あなたは絶対に真犯人は分からない」という映画は作れますが,それをやっちゃダメだろ,と思うのですよ。要するに,わかりにくい映画を作ることが目的になってしまって,観客を置き去りにしちゃったのです。


 この映画は110分近い長めの映画ですが,長くなったのは無駄なシーンばかり多いからです。特に,主人公と会社社長の会話やバーでの会話が無駄に長いです。この二人と監督はお洒落な会話のつもりなのかもしれませんが,これが見ている方にとっては,うざったいしお洒落でもありません。おまけにそれが,事件とは全く関係ないのですから救いようがありません。

 それと,登場人物の紹介の仕方も不十分で,人間関係がすごくわかりにくいのも不親切です。たとえば,パソコンについて詳しくてハッキングなどでハリーを助ける人物とハリーの関係もよくわからないし(どう見ても恋人みたいにくっついているんだけど,そうじゃないみたいだし),彼に秘密の捜査情報を教えてくれるのが誰かもわからないし,なぜ彼にそういう情報を教えてくれるのかもわからないし,ハリーとニッキーの人間関係もよくわからないのです。そういう基本情報なしに,真犯人を推理しろって言われても困るんだよね。

 また,ブルース・ウィリス扮する広告代理店社長が全然それっぽく見えないのも困りもの。基本的に,ウィルスはこういう役に合ってないんだよ。しかもこの社長,社長室で仕事もせずにせっせとエロ・チャットばかりしているのですから,この会社,大丈夫かと心配になるくらいです。

 ちなみに,ブルース・ウィリスは「ヒロイン役のハル・ベリーとのラブシーンがあるんだったら,出てやってもいいぞ」と出演を決めたという噂もあります。ううむ,さもしいなぁ。


 いずれにしても,このオチにするんだったら,映画の語り手の人称を変えるなどの基本構造から作り直す必要があると思いますね。

(2009/02/17)

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