クエンティン・タランティーノの映画が3度の飯より好き,というタランティーノのファンにとっては「これぞタランティーノ! タランティーノ最高!」という映画だと思いますが,一方,普通の映画好きにとってはちょっと微妙な作品じゃないでしょうか。
私はタランティーノがどういう映画を撮りたいのかも知っているし,彼の作品の馬鹿馬鹿しさとサービス精神は好きだし,馬鹿に徹した映画も好きです。しかし,3度の飯よりタランティーノが好き,というほどじゃない。こういうタイプの映画は好きだけど,見るとしたもたまに見る程度でいいんですよ。
普通に「映画でも見るか」という気分でこの映画を見始めると,恐らく最初の20分で「つまんないよ,別の映画でも見よう」となるはずです。しかもこの会話はその後さらに20分,延々と続くのです。ここを「さすがはタランティーノ! この会話,いいねぇ」と感心するか,「いつまでこんな下らない会話を聞かせるつもりなんだよ。もう見るの,止めようっと」と反応するか,恐らく二つに一つでしょう。
映画のストーリーを紹介するのも馬鹿馬鹿しいようなもんだけど,一応紹介ね。
舞台はアメリカ。かつて映画のスタントマンをしていた男マイク(カート・ラッセル)は「どんな事故にあっても運転手の生命の保証をする」という "Deth Proof" 仕様の改造車に乗り,女の子だけが乗っている車を見つけては正面衝突事故を起こして女の子たちを殺すのを趣味(?)にしている変態野郎。今日も女子3人組が乗る車に目を付けて車をぶつけていたぶって楽しもう思っていたら,3人組のうちの2人は現役のスタントマンだったために形勢逆転。逆に自分が追われる事になり,逃げても逃げても女子たちが執拗に追いかけてきて,ついにボコボコにされちゃう,というナイスな映画さ。
110分に及ぶ長い映画ですが,70分以上は女子たちのたわいもない会話が延々と続くだけです。会話の内容は「あの彼とはどこまでいったの? もうやっちゃった? この前の彼とは何で別れたの?」なんていうお馬鹿アメリカ青春映画のお約束的会話のオンパレードです。映画が始まって40分くらい,ずっとこの手の会話をしながらマリファナとお酒で騒ぐだけです。あとは言い寄ってきた男の前でストリップみたいなダンス(ラップダンス)を踊ったり,いい雰囲気になった二人が車の中に消えたりと,いかにも1970年代の映画の雰囲気です。もちろん,その線を狙って作った映画だということはわかるんだけど,何が何でも長すぎです。
その後に凄まじい虐殺シーンがあり,特に,正面衝突して乗り上げた車のタイヤが後部座席に乗っていた女性の顔を剥ぎ取るように押し潰していくシーンはすごいです。しかし,ここで女性4人が全員即死ですから,ストーリー的にはここでおしまいになり,残りの50分間,どうするんだろうと思うわけですが,なんとここでまた,新しい女性4人組が登場し,またもやたわいのない会話を始めるんですよ。しかもそれがまた30分ほど延々と続きます。「オイオイ,またかよ。またこいつらの会話に付き合わないといけないの?」と,ちょっぴりうんざり気分です。
後半は雑誌モデル2名とスタントマン(スタントウーマン?)2名の組み合わせで,そのうち一人は映画《バニシング・ポイント》の大ファンで,その中に登場する車のダッチ・チャレンジャーを購入するためにわざわざアメリカにやってきた,という設定になっています。そして試乗している最中にマイクに目を付けられ・・・ということになるのですが,ダッチ・チャレンジャーだからこそマイクの "Death Proof" 仕様の車にも負けない,ということになるんでしょう。この後半のカーチェイスシーンはすごい迫力です。特に,車のボンネットの上のお姉さんが必死でしがみつくところなんて素晴らしいと思います。そして,最後のボコボコに殴り倒すシーンも爽快かつ爆笑でしょう。
あるいは,1970年代の映画の雰囲気を出すために,フィルムに傷が入っているようにしているところとか,モノクロのシーンからいきなりカラーに転換するシーンなども見事だと思います。特に,「これからラブシーンか?」と思わせて,いきなりフィルムがぷつんと切れちゃう,なんていう部分には思わず失笑!
要するに,これらの素晴らしいシーンを楽しむために,70分以上に及ぶグダグダした会話を許容できるかどうかで評価が決まるんじゃないでしょうか。私は一応,見た映画には必ず論評を書くと決めているため,全てのシーンを端折らずに見ましたが,前半40分のショーモナイ会話シーンはさすがに辛かったことは正直に書いておきます。普通の感覚からすると,60分映画で十分,60分映画にしてくれたらもっといいのに,という感じじゃないかと思います。
(2009/03/04)