《白い嵐 White Squall》 ★★★★★(1996年,アメリカ)


 あまり有名な作品ではないが素晴らしい感動作だ。帆船の航海練習で逞しくなっていく子供たち(10代半ば〜後半の男の子)と、彼らを厳しくも温かく見守る海の男たち、突然の嵐に翻弄され,自然の猛威の前でなすすべのない人間の弱さ,そして船長を守るために親の制止を振り切って立ち上がる子供たちの勇気と男気など,泣ける映画だ。特に後半の嵐の場面は凄まじいばかりで見ているだけで息苦しく,その中での船長夫婦の別れのシーンの切なさは辛くそして美しい。ちなみにこれは実際に起きた事件を映画化したもので,生き残った乗組員の回想を基にしたものらしい。

 舞台は1960年頃のアメリカ,主人公は17歳のチャック。彼は高校卒業を1年残していたが,親の反対を押し切って海洋学校の航海訓練に参加することを決めていた。両親は戸惑いながらも息子の決断を受け入れてくれた。彼が乗り込むのは帆船アルバトロス号。ここに同年代(15歳から18歳くらい)11人の子供たちが集い,4人のベテラン・クルー(シェルダン船長,彼の妻で船医のアリス,教師役のマックレア,コックのジェラルド)とともにフロリダを出発し南米を半周する旅が始まった。

 海の厳しさを知り,生半可な旅でないことを船長は説き,自分勝手な行動を抑え,指揮命令に従うことが必要であることを説明するが,子供たちにとってそれは絵空事だった。しかも,11人には不良もいれば兄を事故で亡くしてから高所恐怖症になってしまった者もいる。優等生だが強圧的な父親から逃げ出そうとして船に乗り込んだものもいる。いわば雑多な集団だ。そして10代後半といえば大人をうざったがる年齢だ。当然,生徒たちは船長に反発する。

 しかし,外洋のうねりは恐ろしいばかりで,生徒たちはすぐさまひどい船酔いに悩まされる。そしてさまざまな出来事・事件があり,その都度,船長の的確な指示と指導で困難を乗り越えていく。それを通じて船長への尊敬の念が自然に生まれ,仲間を助けることがいかに大事かを学び,彼らも一人前のクルーに成長していく。

 最初の危機はキューバ沖で起こる。当時はあの「キューバ危機」の真っ最中である。キューバ兵士を乗せた船が近づいたかと思うと発砲し,キューバ亡命者がいないかを調べるという名目でアルバトロス号に乗り込んできたのだ。銃を構える兵士たちの前でも船長は気後れすることなく毅然として対応し,体を張って生徒たちを守る。キューバ兵士は羅針盤を破壊するが,「昔の船乗りは星と風を読んで航海した。自分もそれをするだけだ」と意に介する気配も見せない。これぞ海の男である。
 そしてついに船はガラパゴス諸島に到達し,そこで,歴代の先輩たちが名前を残してきたノートに自分たちの名を刻む。

 しかし,一人の生徒がいたずらからイルカに水中銃を撃ち,傷つけてしまう。矢はイルカの肺を貫通していた。その生徒に向かい,船長はイルカを殺すように命じる。意味の生物を思いつきで殺してはいけないといことを教えるが,結局船長は,この生徒に下船を命じる。海のルールを守れないものに船に居場所はないからだ。港で船を後にする少年に対し,高所恐怖症の少年がマストのてっぺんによじ登り,鐘を打ち鳴らして友を見送る。

 航海訓練は天候の崩れのない時期を選んで行われていたが,後は故郷に戻るだけというと気になり,突然の暴風雨がアルバトロス号を襲う。それは船乗りたちに「白い嵐」と恐れられてきた突然の嵐だった。海面に落雷があったかと思った次の瞬間,船を巨大な波が次々襲ってきて,船は木の葉のように波に翻弄される。船長は救命ボートに乗り込むことを決断するが,妻のアリスと4人の生徒がいないことに気がつく。そして,沈没寸前の船に戻ったシェルダンは妻を探し出すが・・・,という作品だ。


 とにかく,シェルダン船長(ジェフ・ブリッジス)が渋くて格好いい。どんな時にも毅然としていて,生徒たちには厳しく接して決して妥協しないが,するもそのまなざしには慈愛が溢れている。そして,どんな困難にも怯まず立ち向かい,決して逃げたりしない。まさに,これぞ海の男である。そして,そういう「本当の大人」に触れることで,生徒たちも成長していく。海は子供を容赦なく大人に変貌させるのだ。その経過が感動的だ。

 そして何より,後半の「白い嵐」の凄まじさが圧倒的に恐ろしい。荒れ狂う海原の激しさ,帆を翻弄する暴風の凄まじさに,息をするのもためらわれるほどだ。潤沢な資金で作られた映画ではないと思われるが,その迫力には圧倒されるはずだ。

 恐らく,実際の乗組員にとってこの突然の「白い嵐」は,まさに青天の霹靂であり,何が起きているのかわからないうちに地獄に叩き込まれたようなものだろう。まして,甲板で操船するのはどれほど怖いことだったろうか。その恐怖と生身の人間の頼りなさからは観客も逃げ場がない。そして,必死に妻を探して海に潜る船長が妻を見つけるシーンの残酷なまでの切なさに言葉を失う。


 そして,訓練航海で生徒を死なせてしまったシェルダンは海難裁判にかけられ,責任を取って船長の資格を剥奪されそうになる。しかしシェルダンは一言も言い訳をせず,船の上でのすべての責任は自分にあり,船長である自分が全責任を負うのは当たり前だと話す。裁判所から船長が立ち去ろうとしたその時,チャックがその前に立ちはだかる。そして,「あなたが自分たちに教えてくれたことはすべて嘘だというのか,間違っていたというのか。だが,あなたが教えてくれなかったら,自分たちはこうやって生き残れなかった」話す。

 そして,航海の途中で下船させられた生徒(彼の父親は息子が下船されたことを恨みに重い,この裁判を裏で糸を引いていたらしい)がアルバトロス号の鐘を鳴らし,それを合図にしたかのように,生き残った生徒たちが船長を取り囲む。船長はクルーを守ってきた。そして今度はクルーが船長を守る番だ。


 感動をストレートに描いた映画はいいなと思う。直球勝負のもつ強さが生む感動は素晴らしいなと思う。まだ見ていない人がいたら,とりあえずレンタルショップに急ごう。

(2009/03/24)

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