いろんな意味で「すごい」映画でございます。《ギリシャ・ゾンビ》,《ネズミ・ゾンビ》に続く「変なゾンビ映画」第3作目としてDVD化されたものですが,だから何なのよ,と言いたくなるような説明不足のシーンのオンパレードです。でも,「俺はこういう映画を作りたいんだ」という監督の熱い思いだけは痛いほど伝わってきます。伝わりすぎて逆に「イタイ」わけですが・・・。
絵に描いたような「自主制作映画級」の出来なのですが、実は本当に自主制作映画だったのですよ。
それもそのはず,映画監督のオマー・カーンさんはパキスタンの小さなアイスクリーム・ショップの経営者で,店の利益をつぎ込んで自分で作り上げたのがこの作品なんですね。つまり,完全に素人が作った映画そのものです。
でも,ホラー映画の大ファンらしく,小道具の使い方は妙に凝っていたりしますし,さまざまなホラー映画へのオマージュと思われるカットも散見されます。そこらへんのギャップがまた変に新鮮です。しかも,血みどろシーンやゾンビのメーキャップにはかなり力が入っていて,十分に気色悪いです。ちなみに本国のパキスタンでは上映禁止になったとか・・・。
ストーリーはあってないようなものですが,パキスタンに住む5人の仲良し大学生(男性3人,女性2人)がいて,親に内緒でロックコンサートに行くためにワゴン車に乗り込むところから始まります。ところが近道をしようとわき道に入り(ホラー映画では定番中の定番の展開ですね),そこでちょっと有名な団子屋さん(?)に立ち寄るんですが,ちょっと不気味な感じの店主の爺さんから「ここは地獄の入り口だよ」ってなことを告げられるんですね。
でも,とりあえず先を急ぐんだけど,団子にあたったのか,一人が具合が悪くなって,車から出て吐こうとするんですが,ここで何者かに教われて怪我をしちゃう。化け物みたいな人間に襲われたって言うんだ。なおも先を急ぐんだけど,そこでゾンビの群れに遭遇し,辛くも逃げ出します。
そして夜になり,完全に道に迷ってしまいますが,かすかな光が漏れる掘っ立て小屋みたいなのを見つけ,そこで一人の男がいて,「戻れる道を教えるよ」と言って,車に乗り込み,車は走り出します。しかし,この男が「水をくれ,水をくれないとお前たちの血を吸うぞ」とわめきだしたかと思うと,持っていた袋からいきなり生首を取り出します。
もちろん,車の中は大パニック。車を止めてそのおかしな男を外にたたき出します(ちなみに,生首はまだ車の中)。
そして,工場みたいなのを見つけてそこに一人が入ると,いきなり白いブルカ(イスラム教国の女性が頭からすっぽりかぶる伝統衣装ですね)を着た巨漢が襲ってきて殺され,グチャグチャに切断されていきます(ちなみにこのブルカさん、目玉をえぐったり首を切り落とす前には皮膚ペンで丁寧にマーキングしてから作業をしていました。形成外科医か,こいつは)。そして,いなくなった仲間を探そうとしてしているうちに,一人,また一人と犠牲になっていき・・・・という映画でございます。
なんだか変なストーリーだな,これじゃ何がなんだかわからないよ,とお思いでしょうが,本当にこういうストーリーなんですよ。要するに,ゾンビの部分と,後半の《悪魔のいけにえ》系の部分があって,両者を無理やりくっつけた感じなんですね。メインは《悪魔のいけにえ》を彷彿とさせる「殺人鬼が追ってくる」の部分であって,ゾンビは付け足しという感じです。
かと思うと,川の水質汚染がひどく,川の水で生活している人たちの間で正体不明の奇病が発生していることを伝えるテレビニュースが何度も挿入され,ゾンビ発生の説明にでもするのかなと思っていたら,そういう配慮は全くなし。しかも,川の汚染,環境汚染の問題は何度も繰り返され,汚水が流れ込むリアルな様子が描かれます。しかし,それがストーリー展開では全く生かされていません。
要するに,監督であるアイスクリーム屋の親父さんは,生まれて初めての本格的映画作成ということで「ゾンビも撮影したい、謎の殺人鬼も登場させたい、人体グチャグチャシーンも入れたい、環境汚染についても取り上げたい」と何でもかんでも入れちゃったんでしょうね。風呂敷を広げたのはいいけれど,風呂敷の畳み方までは考えていなかったようです。
女優さん二人はどちらも若くてきれいです。派手目のお姉さんは「私,ちょっと遊び慣れてるの」系で,最初に殺されるのにぴったりの役柄です。もう一人の方は「お母さんに嘘をついて外泊するのはやはり間違っていたわ,神様,ごめんなさい」系で,芯の強そうなパキスタン美少女です。ハリウッド美少女,美女ばかり見ている目には,すごく新鮮な感じです。しかも彼女,殺人鬼に反撃して倒しちゃうのですから,戦闘能力もかなり高めのようです。
しかし,この映画での最強のキャラはなんと言っても,白いブルカをかぶった巨漢。なんと武器はガンダムハンマー,つまり,トゲトゲの生えたボーリングの球大の鉄球(?)をぶんぶん振り回して追ってくるのです。冷静に考えれば,木立の中でそれは振り回したら木に引っかかるだろう,とか,それを持って走り回ると遅くなるんじゃないの,とか,よほどの接近戦でもなければ使い道がないんじゃないの、とか思ってしまいますが,少なくとも,最近見た映画に登場した武器の中では見た目のインパクトは最大級の強烈さでした。
70分という小品なのに、非常に長く感じます。全体にテンポが悪いためです。「普通なら,ここで一気呵成にクライマックスに持っていくよね」というところでなぜかポテンシャルが低下して,時間稼ぎのような会話シーンになったりします。ここらへんは,アイスクリーム屋のおっさん、素人だからしょうがないかな、とあきらめて観るしかないでしょう。
と言うわけで,万人にはオススメしませんが,パキスタン初の映画をこの目で見てみたいという方,変わったゾンビ映画,変なホラー映画なら何でも大歓迎と言う方,ゾンビ映画学を究めるために後学の為に見ておこうかなという方、映画に描かれているパキスタンの人々の日常生活に興味があるという方にだけオススメする珍品映画です。観て得する映画ではありませんが、「パキスタンの映画素人のアイスクリーム親父が作った映画」だと最初から覚悟してみる分には、悪くないと思いますよ。
(2009/03/27)