新しい創傷治療:コールドプレイ Cold Prey

《コールドプレイ Cold Prey》★★★★ (2006年,ノルウェー)


 ノルウェーで作られたサスペンス系ホラー映画。この系統の映画にありきたりのストーリー,ありきたりの展開なんですがとてもいい映画です。結末はわかっているんだけど最後までハラハラして見てしまったし,後味がこれまたいいのですよ。恐らく,かなりの低予算で作られた映画ではないかと思われますが,面白い映画を作りたい,見ている人を最期まで楽しませたいという作り手側の熱意が画面全体から感じられ,それが観客にしっかりと伝わってくるからなんでしょうね。

 舞台はノルウェーの山岳地帯。復活祭の休日をスノーボードで過ごそうぜ,と考えた5人の若者(二組のカップル,そして一人の男性)が訪れる人がほとんどいない穴場の雪山に到着して滑り始めますが,ほどなく一人が下腿骨折。救助を求めようにも携帯電話は通じないし,自分たちの車に戻るにもかなりの距離があり,しかも近くに村もない。そして一人が少し離れたところに建物を発見。どうやら長い間閉鎖されたホテルらしい。

 何とかたどり着いた5人はケガの手当てをして骨折部位を添え木で固定し,暖炉の火を起こし,古い発電機も何とか動き出し,明かりがともる。翌日,山を降りて救援を呼ぼうと考えていた彼らだったが,無人のはずのホテルなのに人の気配がするのだ。そして,一人,また一人と仲間たちが消えていく・・・という映画だ。


 こんな展開の映画は珍しくも何ともありません。それこそ掃いて捨てるほどあります。連続殺人鬼の正体は勘のいい人ならすぐにわかるでしょうし,主人公のヒロインが最後に反撃するんだろうな,というのもミエミエです。殺害に使う道具も珍しくないし,殺し方もごく普通。血が飛び散るシーンはそれなりにありますが,ホラー映画を見慣れた人間にとっては「えっ,これだけ?」というレベルだし,特殊撮影もほとんど使われていません。それなのに,とても面白いのです。脚本と演出がよければ,どんなに陳腐なストーリーの低予算映画でも面白い映画が作れるという良い見本だと思います。

 まず,5人の若者が普通の若者で,ハリウッド映画によくある「馬鹿ップル5人組」でないことに好感が持てます。最初からベタベタ,イチャイチャしているカップルはいて,多分こいつら,10分後にはオッパイ見せるんだろうな,そして最初に殺されるんだろうな,と思っていたら,全然違うのですよ。
 この金髪のきれいな子,実はすごく身持ちの堅い賢い娘さんなんです。そして,彼氏もエッチできないことでムッとするけど,彼女思いのいい奴です。ヒロインとその彼氏も本当に同棲していいのか,それでお互いの嫌な面が見えたらどうしよう,なんて悩んでいるし,骨折役の一人もいい奴です。それぞれの性格が丁寧に描き分けられているため,見ていて自然に感情移入できます。ハリウッドのお馬鹿ホラー映画とは雲泥の差です。

 殺人鬼の正体はかなり早くからわかります。というか,こいつしかいません。しかし,最後の最後に彼を襲った恐ろしい事件の真相が明かされることで,そうしなければ生きていけなかったであろう彼の30年間の生活が想像され,彼に同情したくなります。そして,それが明かされることで後味スッキリとなり,爽やかな感動を覚えます。ちなみに,顔の痣は母斑細胞母斑で,専門的には "kissing-naevus" と言います。


 ちなみに原題は "Fritt Vilt" ですが,その続編 "Fritt Vilt II" が2008年に公開され,「ノルウェー映画史上,最も怖い映画」として評判を呼び,同国内で記録的な興行収入だったそうです。こちらも是非見てみたいです。

 というわけで,派手なシーンはないけど丁寧に作られた面白い映画が見たいという人にはオススメの一作です。見て,決して後悔はしないはずです。

(2009/05/29)

Top Page